0.プロローグ
頑張る必要なんてない。給料はいつも同じ額貰えるからだ。資本主義国家とは名ばかりで、その抜け穴を上手く潜り抜けたら、社会主義がそこにある。頑張らなくてもみんなと同じだし、頑張ってもみんなと同じ。そこに意味なんて感じない。そうなれば「やり甲斐」だの「成果」だの、そんなものに目を輝かせることなんてありえない。おそらく死んだ魚のような目って調べたら私の目が出てくるんじゃないか。いや、もしかしたらそれ以上に生気を感じないかもしれない。
ブライアンと名付けたこの機械の陰でTwitterを泳ぐ。時事ネタはここで手に入る。働くより有益な時間ではないか。
あぁ。ブライアン。あなたの背中は落ち着くわ。社会の波をも跳ね返す防波堤のよう。もう少しだけ寄り添っていよう。許されるならこのままずっとこうしていたい。
「東さん!」
…許されるわけなかった。
私を呼ぶ声でその時間はいとも簡単に失われた。子安新だ。いわゆる年下上司だ。いつも私を探し出して説教じみたことを言って来る。聞く耳持たないことなど、百も承知であろうに。そうして私の憂鬱な時間が始まる。
----あの人を探すことから僕の業務は始まる。それにしてもどこにもいない。宛もない途方もない作業だ。むしろ僕の方が隠れているかのように迷宮に迷い込んでいる。だいたい機械の陰にいるのは傾向として気づいてるものの、向こうも対策を練っており、一筋縄では行かない。探してるその人は、東神奈。僕の部下に当たる人物だが、年上で30歳を過ぎたベテランである。だいたいの業務もそつなくこなせる。本来であれば現場にとっては大助かりの人物なはずだが、如何せん、本人のやる気が無い。0に等しい、いや、マイナスに到達しているかもしれない。僕は毎日は、こう嘆くことから始まる。
「サボり方を覚えた三十路は扱いづらい…。」