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5,元ヤンの服選び

 午前十一時五十分、市の中心駅南口にある謎の白いモニュメントが如月との待ち合わせ場所だった。

 渚と一緒に十分前に到着した。もう一本早い便で行く事も考えたが、あまり早くから待っていると、如月にバカにされそうな気がして、適切な時間に到着する便で行くことにした。

 そもそも如月のヤツが約束通り来るのか、そこから疑問だったけれど、現地に着くと(すで)にそれらしい人影が立っているのが見えた。

 どうやら如月は俺たちよりも早く、待ち合わせ場所に到着していたらしい。


「よぉ、お待たせ」


「あ……え?」


 俺が挨拶すると、如月は渚のほうを見て硬直した。

 紺色の星などの模様入りの上下白のダボダボしたスウェットに、裸足(はだし)でサンダルという、いかにも田舎のヤンキーといった服装だった。

 一見(いっけん)すると真面目そうな見た目にその服装は、普通だったら違和感の(かたまり)でしかないと思うのだが、如月が()ていると妙な雰囲気を(かも)し出していた。

 やはり本物の風格というか、そういうものがあるのだろう。


「こんにちは……」


 如月にガン見されて、渚が怖気(おじけ)づいた様子で如月に挨拶をする。


「これ、俺の妹の渚。中学生になったばかりだから、あんまいじめるなよ」


「……いやいやいや、嘘でしょ? え? 本当に鹿島の妹?」


 如月は混乱した様子でめちゃくちゃ俺と渚の血縁関係を疑ってくる。


「こんなことでしょーもない嘘つくかよ、マジで俺の妹だよ」


「信じられねえ……あの鹿島にこんな普通で可愛い妹がいただなんて」


「どうも、お兄ちゃんがいつもお世話になっています……」


 如月に恐怖心を抱いているのだろうが、それでも一生懸命声を(しぼ)って如月に社交辞令をする渚は、我ながら立派な妹だと思った。


「ちなみにコイツは俺の身内で学校とは一切無関係だから、お前が元ヤンだったことは既に言ってある。だから気にせず自然体で接して大丈夫だ」


 俺が補足すると、渚は隣でせわしなく何度も首を縦に振った。


「えっと、渚ちゃんだっけ? 如月純子、気軽に純子って呼んでいいからね?」


「は、はい。よろしくお願いします」


 頭を下げるのが早い。

 渚のヤツ、如月のことが相当怖いみたいだ。


「お前、田舎のヤンキーみたいな格好してるから、渚が怖気づいちゃってるだろ」


「はあ!? 関係ないだろ、てかアンタだってなんだそれ。ケティちゃんのジャージとかウケるんだけど」


 俺が今日着てきた服は、黒の生地に金色でケティちゃんという猫のキャラクターが(えが)かれたジャージであった。

 

「なっ……ケティちゃん可愛いだろ!!」


「ばーか、柄考えろよ柄。そういうところがアンタってヤンキーなんだよ」


「人のこと言えんのかオメー。上下白で星とよくわからん数字入ったパーカーなんてよ、しかも裸足でサンダルだぜ? 休日メロンモールにいる出来婚(できこん)したヤンママかよ」


 まじまじ如月のことを見つめると、顔とかはめちゃくちゃ可愛くて、悔しいけど好みであるのに反して、やっぱり服装がイモっぽさを感じさせる。

 流石の俺も近所のコンビニとかならともかく、サンダルは()かないぞ。


「誰がヤンママだよ!! アンタだって無責任にヤンママ妊娠させて、高校中退して現場仕事してる感じにしか見えねーよ。アンタって黒髪にしても目付き悪いし」


 こいつ、人が目付き悪いことを気にしているのにズバズバ言いやがって。


「大丈夫ですよ純子さん。お兄ちゃんに妊娠させるような相手、いないですから」


「そうだな、アンタ好きな相手に告白もできない根性無しだもんな」


「やかましいわ、初恋もまだなガキに色恋沙汰でイジられたくないわ」


「……お兄ちゃんと純子さんって、似た者同士ですか?」


「コイツと一緒にするな」


「鹿島と一緒にしないで」


 珍しく如月と息が合った。


「ていうかお兄ちゃん、お腹すいた」


「ああ、そうだ、とりあえず飯食いに行くか。お前飯代くらい持ってるだろ?」


「お前エスパーかよ、なんであたしが(おご)らせようとしていたのがわかったの?」


「顔見りゃ何考えてるかわかるんだよ。奢るわけねーだろ、恋人でもねーのに」


「キャーアタシ彼ピニDVウケテルー!! アタシハコンナニアイシテルノニー!!」


 見事なまでの棒読みと、清々しいほど白々しい態度だった。


「テメーいい加減にしねーとぶっ殺すぞ」


「あたしより喧嘩弱いくせにできるの?」


「あのー、ご飯食べに行くんですよね?」


「……そうだな、行くぞ如月」


「ふん、渚ちゃんに(めん)じて勘弁してやるよ」


 お前から喧嘩売ってきたくせに随分な態度だなと思いながらも、俺たちは移動して駅近くにあるラーメン横丁に入り、適当に目に入ったラーメン屋に入店した。

 休日の昼間ということでそこそこ混雑していたが、偶然にも座席が空いていたのでスムーズに着席することができた。

 水をもらい、ラーメンを注文して調理完了を待つ。


「お前、女の子と一緒に来る店がラーメン屋かよ」


「うっせーな、誰もテメーのこと女だとは思ってねーよ」


「アンタ、とことんあたしに喧嘩売ってんな」


「オメーが言うかよそれ」


「……ひょっとして、お兄ちゃんと純子さんって仲いいんですか?」


 俺たちのやり取りを黙って見ていた渚が、頬に人差し指を当てて質問してきた。


「おい渚、何をどう見たら俺たちが仲良く見えるんだよ」


「そうだよ純子ちゃん。あたしは中学時代、コイツに絡まれまくって死ぬほど迷惑してたんだから」


 そこまで言うかよ、大体事実だけど。


「いやー、でも喧嘩するほど仲いいって言葉もありますし……」


「バーカ。そりゃあ学校では仲いいフリしてっけど、設定だよ設定」


「そうそう、あたしら普通に過ごすために協力してるだけだから」


「へえ~」


 渚はまだ俺たちの関係を(うたが)っている様子だけど、俺たち渚が想像しているような関係では断じてない。

 また、お互いそういう感情も一切抱いていない。

 当たり前だろ。中学時代ずっと揉めていたんだぞ、俺たちは。


「それにしても、どっちも鹿島か……」


 如月が俺と渚を交互に見て呟いてから、何か考え込んだ様子で黙り込んだ。


「渚ちゃんは渚ちゃんとして、お前なんて呼ばれたい? うんこ?」


「喧嘩売ってんのかよ。ていうか飯食ってる時にうんこの話すんな、(きたね)ぇな」


「そっか、じゃあ糞公(ぐそこう)?」


「うんこから離れろや!! 鹿島でも匠海でもどっちでもええわ!!」


「へぇー、じゃあ匠海」


「……おう」


 なんか、面と向かっていきなり下の名前で呼ばれると、ちょっと気恥ずかしい。


「顔真っ赤じゃん、おまえやっぱ異性に免疫ないんだな」


「うるせーな笑ってんじゃねーよ、純子」


 反撃のつもりで下の名前で呼んでみたものの、いまいち効果が薄い。

 人の顔を見ながらニヤニヤしたまま、特に()れている様子はなかった。


「ひょっとしてあたしを照れさせようとした? お前ほんと単純だな」


「は? ナメんなよ、俺にかかれば女の子なんて一発でコロンと落ちるっての」


「はいはい、そういうのは根岸さんを落としてから言うんだぞー」


 勝ち誇ったような顔がとてもムカつく。

 まるでこれでは俺が(もてあそ)ばれているみたいじゃないか。


「あのー、あたしを差し置いて二人の世界に入るのやめてもらっていいですか?」


 渚がため息交じりに苦言を(てい)してきた。


「ごめんねー渚ちゃん。匠海のヤツおちょくってるとおもしれーからさ」


「おちょくるってなんだよ」


 それに匠海呼びでもう確定なのか。

 まあいいや、だったら俺もコイツのことは純子と呼ばせてもらおう。

 ぶっちゃけ文字数は同じなのだが、語呂のせいなのか、如月より呼びやすい。

 食事を()ませた俺たちは地下歩行空間を歩き、リーズナブルな価格帯で販売している全国展開の店舗に入店した。

 オシャレをキメるなら多少は高い服を買ったほうがいいのかもしれないが、高校生でバイトもしていない俺たちにそのような予算はなく、とりあえず小奇麗(こぎれい)で不良には見えないものを買おうということになった。


「うーん、あたし思うだけど、お兄ちゃんは変に着飾ろうとしないで、シンプルで明るいコーデで揃えたほうが(さわ)やかな雰囲気になると思うんだよ。例えばこの上下とか……ちょっと試着してみて」


 ここでの渚は非常に的確なアドバイスをしてくれるため、渚が選んだベージュのシャツと黒いパンツの上下を試着してみた。

 試着室の中にある鏡で自分を見た感想は、これが俺かという感想だった。

 いつも着ているケティちゃんのジャージと比べて、無地なのでシンプルだけど爽やかな雰囲気は渚の言う通りだった。


「……どうよ?」


 これを着たまま試着室のカーテンを開け、渚と純子に感想を求める。


「うん、いいよお兄ちゃん。ケティちゃんジャージより全然カッコいいよ!!」


「えー、そうか?」


「なに妹に褒められてニヤニヤしてんだよ。まぁ確かに悪くはないけど」


「ほお、純子もそう思うんか。じゃあ俺、これ買おうかな!!」


 二人の反応が好感触だったため、とりあえず渚イチオシのコーデを購入することに決めた。

 そして今度は純子の服選びが始まった。


「私思うんですけど、今の純子さんは清楚な雰囲気だけど振る舞いとかは結構アクティブなので、カジュアル系で攻めてみると可愛いかなって思うんですよ!!」


 そういって渚から手渡されたコーデを持って、純子は試着室に入る。

 しばらくごそごそとカーテンが動いていたが、数分が経って試着室の中から純子が出てきた。

 その姿を見て、思わず言葉を(うしな)ってしまう。


「ね、ねえ……これどうなの?」


 暖色系の縞柄(しまがら)インナーにロングカーデを羽織り、脚が長く見えるハイウエストデニムは、元々スタイルのいい純子のプロポーションをさらに際立(きわだ)たせていた。

 大人っぽいカジュアルコーデも(あい)まって、ファッション誌の表紙を(かざ)るモデルと見間違えるほど、純子のことが美しく見えた。

 元の素材がいいため、悔しいけどオシャレすると尚更(なおさら)可愛く見える。


「いい!! いいですよ純子さん!! モデルさんみたいです!!」

 

「お前はどう思う、匠海?」


 不覚にも見惚(みと)れてしまい、感想を求められて初めて意識が我に返った。


「まあ、なかなかマブいんじゃねーの……?」


「ぷっ!! お前……マブいって、昭和のヤンキー?」


「うっせーな!! 褒めてんだからいいだろ、もう言わねーからな!!」


「マブいって、なに?」


 約一名、マブいの意味が理解できず、困惑している女子中学生がいた。

 マブいとは美しいという意味で、昭和までは割とメジャーな言い回しだったものの、平成に入って次第に(すた)れていき、令和の今ではもはや使う人は昭和や平成初期の元ヤンくらいのものだろう。

 俺がもっと小さい頃に(あこ)れたヤンキー像がツッパリだったため、俺は結構よく使うワードであるのだが、純子に通じたのは予想外だった。

 まあ、純子もビーバップな世界で生きていたのだから、不思議ではないのか。

 結局、純子も渚イチオシのコーデを買うことになった。

 用事を済ませた後は時間があったので、三人で街中を徘徊(はいかい)したり、ゲーセンが目に入ったので、ゲーセンで遊んだり(とう)、なんとなく休日らしい休日を謳歌(おうか)した。

 ちなみにせっかくなので、俺と純子は今日買ったコーデに着替えていた。


「俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」


 クレーンゲームに夢中になっている純子と、それを見守る渚に一声かけて、トイレで用を足して戻る。

 たったそれだけのことだったのだが、戻ってきたら状況が一変していた。


「だーかーらーさぁ、遊びに行こうよぉ~」


 クレーンゲームの前で、渚と純子がガラの悪そうな三人組に絡まれていた。

 今までの俺や純子と大差ないファッションセンスの持ち主で、そのうちの一人の派手な金髪には見覚えがあった。

 そういえば最近、あの金髪が怒鳴り散らしている姿を見たことがあるような。


「あの、ツレいるんで、他当たってもらっていいですか?」


「そうですよ。お兄ちゃん来るの待ってますので」


 純子のやつ、随分と大人しくなったものだ。

 この前のガード下の時もそうだけど、現役時代だったらもうとっくの昔にあんなヤツらは床に()(つくば)っていただろう。

 敬語だし、手を出そうとしないあたり、相当我慢していることが(うかが)える。


「オレは別にお嬢ちゃんには用ねーよ、こっちのお姉さんに用あるの」


「まあ俺はこのお嬢ちゃんでもいいんだけどね~」


「おめーロリコンかよ、きめー」


 それにしてもあの三人、特に金髪、どこかで見覚えがある。

 なんだったっけ、なんかそういえば数日前に聞いた覚えのある声だ。

 まあいいや。純子は強いからともかく、渚に手を出されるのは流石に(しゃく)だ。


「お待たせー」


 ごく自然に、普通に戻ってきましたという感じで、ヤンキー三人組と渚と純子の間に割って入った。


「お兄ちゃん遅いよ」


「ごめんごめん、急に腹痛くなっちまってよ」


「おいコラ、なんだオメー、いきなり入ってきてよ」


 金髪の取り巻きの一人がキレ気味で俺の肩を掴んできた。


「あの、そいつツレなんですよ、そういうわけなのであたしらもう行きますね」


「まぁー待てよ。こんな弱そうなヤツよりよ、オレのほうがいいべや」


「丘工の照井(てるい)さんに目ぇかけてもらえてるんだから、二人とも喜ぼうね?」


「で、オメーみてーなシャバそうな男はさっさと帰ろうねー?」


 はあ、またかよ。

 本当、この手のクソ野郎というのは話が通じない。

 三年、その世界にいた俺からしたら、予想通りの反応と言わざるを得ない。

 

「渚、純子、お前らとりあえず先に一階のエレベーター前にいろや」


「え? お兄ちゃん?」


「匠海、お前、まさか……」


「おい純子、俺はオメーに渚のこと守ってくれって言ってんだよ。さっさと行け」


 そう純子に指示すると、純子は一瞬頷いてから、渚の手を握って走り始めた。

 突然のことで渚は一瞬、(つまづ)きそうになっていたが、渚は運動神経がよくてテニスの経験者でもあり、純子に引っ張られてもすぐに体勢(たいせい)を立て直し、純子と一緒に走り去ってくれた。


「あ、おい!!」


「この野郎ォ、テメー俺たちを丘工だと知ってて喧嘩売ってんのか!?」


 肩を掴んでいた取り巻きの一人が、今度は俺の服を引っ張ってきた。

 胸倉を掴まれた俺は、頭の悪そうな(ツラ)をしたそいつにメンチを切る。


「なんだぁそのツラぁ? 照井クン、コイツどうする?」


「オレのこと舐めてるってことは、丘工のことナメてるよな。なぁガキ、世の中あんまりナメた態度取ってるとよ、いてー目に()うってこと教えてやろうか?」


 金髪の男、照井がニヤニヤしながら顔面を近づけてくる。

 照井の野郎、ニンニクマシマシのラーメンでも食べたのか、呼吸がニクニク臭くてますます俺の中でフラストレーションが()まってくる。

 日本は警察(ポリス)がうるさい。

 暴れて、警察を呼ばれて、警察が来るまで、せいぜい一分か二分くらい。


「ああそうかい……じゃあテメーらにも教えてやんよ」


「あ?」


「まずよ……人を見た目で判断しないほうがいいってことをよ!!」


 そう言いながら俺は、不意に胸倉を掴んでいた男の足の(こう)を、靴の中でも特に(かた)(かかと)の部分で踏み抜き、苦悶(くもん)の表情を浮かべた男にすかさず強烈な頭突きを放つ。

 足と頭部にダメージを受け、(ひる)んだ男の手が、俺の胸倉から離れる。

 逆に俺がそいつの胸倉を掴んで引き寄せ、油断していた照井に向かってそいつの体を(ほう)り投げた。

 バランスを崩していたそいつは照井にぶつかり、照井が倒れるほどの衝撃ではなかったものの、照井の注意を()らし、照井の(すき)を生むには十分だった。

 そして俺は全力で駆け出し、全体重を乗せて二人にタックルを仕掛けた。


「おえっ!?」


「て、照井!! ……テメーゴラァ!!」


 キレたもう一人が殴りかかってきたけど、こうなることは全て計算済み。

 しかも相手は大振りのテレフォンパンチだったため、予備動作が大きく、軌道も読みやすいので、来るとわかっているなら恐れることはない。

 初弾(しょだん)(かわ)し、全体重を乗せてきた相手の鼻っ柱へ、俺の右拳がぐにゃりとめり込んだ。

 見事に決まったカウンターで、相手は一撃で顔を抑えて(うずく)った。 

 鼻血をダラダラ流しながら、声にもならない声で相手は苦しんでいた。


「誰か立ってていいつったんだ、コラァ!!」


 すかさず俺はソイツの尻に全力の廻し蹴りを叩き込んで、前かがみになっていた男はバランスを崩して、その場に倒れ込んでしまった。

 照井含め、三人が芋虫のように床に()(つくば)っている。

 とりあえず、一人を蹴飛ばして退()かせて、その下にいた照井の髪を掴む。


「おいコラ、買ったばかりの服に(つわ)ついただろうが。どうしてくれるんだ、コラ」


「お、丘工に喧嘩、()っからよ……」


「丘工だぁ? やっぱ一昨日マッグでイキってたクソじゃねーかよ」


「な、なに?」


「弱い者イジメしかできねーシャバ(ぞう)が、でけー(つら)してんじゃねーよ」


「ふ、ふふふ……いいのかよテメー、学校探してテメーのこと殺してやっからよ」


「おーおーやれるモンならやってみろや、テメーみてーなヤツ一発だからよ」


 そう言いながら髪から手を離し、照井は力なくその場に倒れた。


「クソ、が……殺す、あいつ……ぜってー殺してやる……」


「て、照井さん、俺らもいかねーと、警察(ポリ)来ますよ……」


「いでえ、くそ……」


 これで大体、二分以内。

 ギャラリーがざわめきつき始めているから、早急にこの場を離脱する。

 エレベーターを待つわけにはいかないので、エスカレーターを駆け足で下る。

 下っている最中、俺はとてつもない後悔の念に襲われた。


 ━━またやってしまった。


 しかしどう考えてもあの連中、話し合いが通じるとは思えないし、純子はともかく渚を守るためにはこれしかなかった。

 幸い俺は私服だし、学校名とか名前は言っていないから、多分バレないはず。

 とにかく俺は、祈りながら全速力でエスカレーターを駆け下りた。

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