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第8話 競争は引き分け。でも収穫は大きかった

今日はちょうどよく区切れました。

 外野の二人を視界から閉ざすべく、応接室の扉を閉じる。

 深刻な誤解はとりあえず、後回しである。

 気を取り直し、クローディアはエルネストに微笑む。

「お迎えに来てくれたのですね」

「うん」

 少し照れたように頷くエルネストは、文句なくとても可愛らしい。

 クローディアは今日何回そう思っただろう。齢6歳にして、もう母性に目覚めてしまったのか。ほっこりしてしまう。

 とそこで、クローディアは首を振った。いけない。ここで和んでいる場合ではないのだ。

 時間がない。急げるところは急がないと。

「エルネスト様。お迎えに来ていただいたのですが、早急に動きやすい恰好に着替えをして、玄関ホールに来てくださいませ。私も着替えをして参ります」

 クローディアはそう指示をだすと、後ろを振り返った。

 そこには、エルネストの部屋から応接室まで、ずっとクローディアについて来たメイドがいた。

「私のお部屋に案内をお願いできますか?」

 クローディアが侯爵家に滞在する旨、了承している筈なので、彼女に尋ねてみた。

「まあ! お嬢様、こちらに滞在なさるのですね!」

 と、思わぬところから声がかかる。

 エルネストの後ろについて来ていた、乳母さんメイドである。

「まあまあ! よろしゅうございました! お部屋はもちろんご用意しておりますとも!!早速案内させます!!キティ!」

「はい。お嬢様、こちらへ」

 後ろにいたメイドはどうやら、キティというらしい。茶髪のツインテールが可愛らしい。

 そのキティがすっと前に出て、クローディアを誘導してくれる。

「ありがとう」

 案内される前に催促したのは、少しずうずうしかったかもしれないが、急いでいるのだ目を瞑ってもらおう。

 エルネストの後ろにいる、乳母さんメイドも気にしていないようなので、よしとする。

 次いで、乳母さんメイドの少し後ろにいた護衛だろう男にお願いする。

 茶色の髪に、頬に小さい傷がある。背の高い男である。

「これから木の実を取りに行きたいのです。アチルの実やキクリスの実などが豊富にとれる森に案内をお願いしたいです。その為に馬車の用意をお願いできますでしょうか?」

「それは構いませんが、外出するとなると、旦那様の許可が必要になります。許可はお取りでしょうか?」

「あっ」

 そうか。エルネストは大事な侯爵家のご子息である。外出には許可が必要なのか。

 自分が無許可で始終出歩いているので、そのあたりがスコンと抜けていた。

「取っておりません。今お願いして参ります」

 たった今お願いを二つもしてきたばかりなのに、更にお願いするのは、少し勇気がいるが、仕方ない。

 それが顔に出たのかもしれない、護衛の男が助け舟を出してくれた。

「お嬢様は着替えなければならないようですし、私が旦那様に許可を取って参ります」

 護衛の言葉に、クローディアはほっとした。

 侯爵とのやり取りは今日はこれ以上勘弁してもらいたい。

「ありがとうございます。お願いいたします」

 クローディアはエルネストに視線を戻し、宣言した。

「さあ、行動開始ですわ!」


 パースフィールド侯爵家から馬車で1時間。侯爵家が管理する森。

 パースフィールド侯爵はよくその森で狩りをするらしい。

<あー楽しみねぇ。森には誰がいるかなあ>

 クローディアの頭の上に乗ったララが、ウキウキしている。

 馬車の中には、クローディアの向かいに護衛が1人。先ほどクローディアが話しかけた者だ。茶色の髪に緑の瞳。その瞳が面白そうに並んで座る2人を見ている。そう、クローディアの隣には、彼女の手を握ったエルネストがいる。

 席順がおかしいが、エルネストの心の安寧と彼の視える範囲が広がるようにする為には、この席順がベストなのだ。クローディアの心の安寧は、ひとまずは置いておく。

 クローディアは気を取り直して、エルネストに視線を向ける。

「エルネスト様は、今から行く森には、行ったことはございますの?」

「うん。何度か父上に連れて行ってもらった。僕にはまだ狩りはできなかったけどね」

「その時は大丈夫だったのですね」

「うん、まあ、なんとか」

 亡霊がはっきり視えるようになったのは、今年になって王都に行ってからときいた。

 その前からは少しうっすらと視えてはいたようだ。

 とすると、森であれっと思ったくらいのものは視えていたのかもしれない。

 護衛がいるため、詳しくは聞けない。

 エルネストの気のせいか。そうでなければ、森にも亡霊はいるのか。

 しかし、亡者の類いがそんなにいるものなのか。

 エルネストと手を繋いでいると、クローディアの視野も広がる。

 クローディアは、馬車の窓を覗いた。

 すると、ちらほら木の影にぼんやりしたものが視えた。

「うん。いるのねー」

「うん」

 エルネストの返事に、顔を横に向けると、クローディアの少し後ろから彼も窓の外を視ていた。

 クローディアはエルネストの手を握りなおす。

 これはきついわ。癒しが欲しくなる。ララたち妖精が、早く視えるようになるよう祈る。

 うむ。ララは文句なく可愛い。エルネスト様、ララを視て、癒されて欲しい。

 はっ。ここで暗くなってはいけない。ポジティブに行かなければ。クローディアは再度気を取り直し、護衛に話しかけた。

「これから行く森では、何が採れますの?」

「アチルの実やキクリスの実、それからユースラの実も採れます」

 アチルの実はスッキリしてコクがある果実酒になるらしい。キクリスも甘すぎず男性も好んで飲む果実酒になる。ユースラの実のものも、風邪防止に飲まれる。ドワーフが風邪をひくかは不明だが、身体を温め効果があるので、きっと気に入ってくれるだろう。ただし、クローディアは飲んだことがないので、すべて両親や使用人たちからの受け売りである。

「それと、果実酒には向きませんが、ククリの実も、今はとれるかもしれません」

「まあ! ククリの実も!」

 ククリはゆでても、蒸かしてもほくほくしていておいしい。パンに練り込んでもいい。

「きのこや山菜なども採れたりします?」

「ええ、もちろん」

 これは目的の実をとったら、時間があればできるだけ採取したい。

 折角行くのだから、存分に楽しみたい。。

「エルネスト様! 木の実やキノコ、山菜採り、楽しみですね!!」

 思わずクローディアは、力拳を握る。

 それに最初きょとんとしていたエルネストだったが、同意してくれた。

「ああ。沢山とれるといいね」

「どっちが多くとれるか競争ですわよ!」

 エルネストが少しでも元気がでるように、少し挑戦的な視線を向ける。

 エルネストは彼女の意向を汲んでくれたのかはわからない。

 エルネストは一瞬ふっと笑うと、力強く頷いた。

「望むところだ」


 木の実、山菜採り競争。

 結果から先に言えば、引き分けであった。

 元々のスペックが違うのか、木の実の採集については、機動力がよいエルネストが。

 きのこや山菜については、慣れないエルネストが要領を得るまでに時間がかかったために、クローディアに軍配は上がった。

 クローディアとしては、いつも通う森と違うとはいえ、森へは頻繁に行っているのに引き分けは、悔しいかぎりである。

 帰りに馬車で、ついそれが顔に出てしまったのであろう、エルネストがおかしそうに、こちらを見ている。

「楽しかったね」

「そうですわね」

 少し口がとんがってしまうのは、見逃して欲しい。

「こんなに楽しかったのは久しぶりだよ」

 クローディアは膨れていたのも忘れて、隣に座るエルネストを見た。

 まだ目の下に隈があるものの、顔色は良くなっている。

 きっと今日一日、外でお日様を浴びたのが、よかったのかもしれない。

 後は、亡霊に悩まされずにいられたことか。

 亡霊は出会った時ほど、接近する者はいない。クローディアたちが気づかない間に、ララが遠ざけてくれているのかもしれない。

「よかったですわ。折角豊かな森が近くにあるのですから、問題が解決しましたら、遊びにいらしたらよいですわ。お友達をお誘いして」

「クローディアを誘って? それはいいな」

「私、ですか?」

 本来クローディアは、エルネストとこうして話ができる身分ではない。

 亡霊の件が片付いたら、エルネストはクローディアと会う暇もないだろう。

 相応しい身分の子供と、付き合うことになるだろう。

 折角できた同い年の知人。残念だが仕方がない。

「グレームズ男爵家の領地はここから遠いですから。他の同性のご友人をお誘いした方がよいかもしれません」

 クローディアは曖昧に微笑み、話題を切り替える。

 この話題はなんだか危ない香りがする。

「それより、明日は早起きになりますわ。色々下準備がありますから。今日は早く休みましょう」

「‥‥‥わかった」

 エルネストは何か言いたげだったが、彼女の言葉に頷いた。

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