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第2話 波乱の予感。叔父様やってくれましたわね

第1話が短めだったので、続けて投稿します。

「おお、クローディア、来たか」

 執務室の扉を開けると、今か今かと待ち構えていた父がソファから立ち上がった。

 ギャノン=グレームズ。この男爵家の当主である。栗色の髪に茶色の目。少々童顔に見える割に、髪が細くて切れやすいのを密かに気にしている。少し繊細なところがある男である。

 父に促され、向かい側のソファに座る。

 執務室にはこじんまりしたソファセットがある。仕事の話をする場合、応接室を使わず、こちらを使用することが多い。

 応接間は目上、あるいは自分よりも上位の貴族が来た時に使用するのみである。

 要するに見栄を張りたい時のみに、応接室は使用される。

 それ以外は執務室が使用される。

 こちらのソファは布のカバーが使用され、万が一汚した場合でもすぐに対処できるようにしてある。節約、これ大事である。

 クローディアが座ると、執事のマルコムがお茶を出してくれた。

「ありがとう。ちょうど喉が渇いていたところよ」

 執事のマルコム。

 白髪を綺麗に後ろに撫で上げて、綺麗に手入れされた髭も品がよい。

 なぜこんな弱小男爵家に仕えているのかと思われるほどに有能な男である。

「お父様、随分とお早いお帰りですね。今日は領地の見回りをしていたのでは? どうでしたか? 作物は順調に育ってましたか」

「ああ。概ね順調だ。チクネ村の村長がぜひとも収穫前に一度訪ねて欲しいと言っていたぞ。お前が畑を視察すると、収穫量があがるのだと」

「まあ! お世辞でも嬉しいですわ!」

「うむ」

 ついクローディアのペースに巻き込まれたギャノンだったが、次の瞬間くわっと目を見開いた。「ちっがーう! そんな話をしている場合ではないのだ!!」

「お父様!?」

 クローディアは執事のマルコムが出してくれたお茶を取り落としそうになった。

 娘にここまで大声出すのは珍しい。

 何やら追い詰められているようである。

 ギャノンはその理由を早速話し始めた。

「今日、手紙が届いたのだ」

「お手紙、ですか?」

「その差出人をみて、マルコムが私の元に早馬を走らせたのだ」

「それほど、大切な人から来たのですか? まさか誰かがお怪我をされたとか?」

「いや、誰も怪我はしていない。病人もいない。いや、いないともいえないか?」

 ギャノンは自問自答しつつ、首を傾げる。

 手紙を読んだ父がそうなのだから、クローディアには全くわからない。

「あー、すまない。あまりに驚きすぎて混乱してしまったよ」

 父は、大きく息を吐き出した。

「実はパースフィールド侯爵から手紙が来たのだ」

「パースフィールド侯爵ですか? お父様、お手紙をやり取りするほど、親しい間柄だったのですか?」

 初耳にある。父にそんな甲斐性があったとは。

「いや。全くない」

 完全否定である。やはり父は父のようだ。

「では、なぜ雲の上のような方からお手紙が来たのですか?」

 そこで、父がクローディアをじっと見つめた。

「お前だよ」

「え?」

「お前に会いたいそうだ」

「ええ!? なぜでしょう!? 私一度も、お会いした事などございませんよ!」

「私とて、お話した事はない! うちは貧乏で底辺な男爵家なんだからな!」

 何も自らを傷つけるようなことを言わなくてもよいのでは。やはり父は混乱しているようである。

「お父様、落ち着きましょう。そしてどうかお手紙の内容をもっと詳しくお話ください。私に会いたいという理由を」

「ああ。済まない。取り乱してしまった。まあ、その正確に言えば、侯爵様が会いたいのではなく、お前を侯爵様のご子息様に会わせたいそうなのだ」

 手紙によると、侯爵には2人の息子がいる。1人は12歳、もう一人は6歳。

 この6歳の息子が、引きこもってしまったのだという。今年に入り、色々学ばせるために、王都の屋敷に上の子に(なら)って連れて行った。するとどうしたことか、段々と人を避けて、部屋から出て来なくなってしまった。それだけなら、まだしも食事もろくにとらなくなり、体調を崩してしまったそうだ。急ぎ、領地に静養の為に連れ帰った。何とか食事はとるようになったものの、部屋から出たがらない。一度叱りつけて、無理やり連れ出そうとしたところ、おう吐して倒れてしまったそうだ。

 それから、もう無理に部屋から出すことはしなくなったそうだ。

「ずっとお部屋に引きこもっていては、お体に悪いですよね」

「そうだ。動かないから、食も細くなるばかりだそうだ」

「まあ」

「侯爵様もこれではいけないと、子供がいる知人の貴族に声をかけて、家に来てもらったそうだ」

「同じくらいの子供とお話すればかわるのでは、と思った訳ですわね」

「そうだ。だが、それを(ことごと)く拒否されたそうだ」

 元々メイドさえ避ける傾向にあったようなので、子供でもだめだったのだろう。

「侯爵様も他にも色々手は尽くされたそうなのだが、やればやるほど、閉じこもってしまわれたそうだ。この頃は侯爵様をも避けようとするらしい」

「お気の毒ですわ」

「もうだめかと、思った時に、お前のことを知り合いに聞いたらしい」

「私のことを?」

「ああ、少し変わった、いや、とても興味深い少女がいると」

 父。本音がダダ漏れである。

 クローディアは不思議な目を持っている。

 妖精や精霊が視えるのだ。

 気が付いたのは、物心ついてすぐ。

 はじめは誰でも視えると思っていて、それを両親やメイド達に話をした。

 最初は子供の戯言と笑っていた両親も、段々と奇妙な目でクローディアを見るし、メイド達もしかり。

 それで悟った。どうやら視えているのはクローディアだけなのだと。

 それからクローディアは慎重になった。誰にも妖精が視えると話さなくなった。

 気持ち悪いと思われたくなかったから。両親を遠くに感じたくなかったから。

 それでも、油断すると行動に出てしまうらしい。

 それはしょうがない事で。

 彼ら妖精達は自分達が視えるクローディアに気さくに話しかけてくる。

 それを無視はできない訳で。

 だから、6歳のクローディアはちょっとおかしな女の子として両親やメイドに認識されてしまっている。空想好きな女の子として。

「侯爵様はどなたからお聞きになったのでしょう?」

「ニコルだ」

「ああ」

 ニコルは父の弟で、クローディアの叔父だ。叔父は商人でユールリア大陸中を飛び回っている。

 その叔父は度々、このグレームズ男爵家へと訪れては、クローディアに旅した時の面白いエピソードを話してくれた。そしてクローディアの妖精達とやり取りを目撃している。叔父の目には、1人で空に話しかけている奇妙な姪の姿を。それでも気味悪がらず、逆に興味津々でクローディアの妖精達とのやり取りを聞きたがった。だから、ついクローディアは両親にも言えないエピソードを色々話してしまうのだが。

 そんな叔父が、クローディアの不利益になる話をしてはいないだろう。

 ただ、商売よろしく、きっと侯爵が食いつくように話に持っていったに違いない。

 いつもは優しく頼もしい叔父だが、今回ばかりはいただけない。

 クローディアは唇をきゅっと内側に丸めた。

 向かい側を見ると、ちょうど父も同じ顔をしていた。

 親子である。

「それで、侯爵様が私にご子息様と会わせたいと?」

「ああ。お前をぜひにと」

「ああ」

 叔父、仕出かしてくれた。

「断る訳にはいかないですわね」

「ああ。侯爵家に睨まれれば、うちなど、一瞬で貴族籍抹消だ」

 平民になってもと思わないでもないが、貴族だからこそ、行ける場所も多々ある。

「私が会ったところで、状況は変わらないかと思いますわ」

「私もそう思う。お前は畑仕事が上手いだけの子供だからな」

「まあ、ひどい!」

 これでも、勉強はしている。将来は叔父について大陸中を回るのが夢だ。

 色んな土地に行って、美味しいものを沢山食べたい。その土地にいる妖精達にも会ってみたい。

そしてそれらをいつか本にしてみたい。

 クローディアの夢である。

 それはひとまず置いておく。

「お父様もそう思われるなら、そのままお返事にそう書いてくださってよいので、お断りをしてみては?」

「子供を救いたいと思っている親が一縷に掴んだ綱だぞ。断るなんてしてみなさい! 本当に一瞬でこの男爵家は塵と化すぞ!」

「でも、侯爵様の領地は遠いのでしょう? そんな遠くまで遠出なんて無理です。私も体調を崩してしまいます」

 うそである。畑仕事を毎日しているせいか。体力は並の令嬢よりは遙かにある。

 それが分かっているのだろう。父が目を細めた。

「今何か言ったか」

「いいえ」

 クローディアはさっと目を逸らした。

「遠くても馬車でゆっくり行けばよい。泊まり掛けになるが、その宿泊費やあちらに滞在する費用などすべて出していただけるそうだ」

「滞在費って、私、あちらでもお泊りをするのですか?」

「少なくとも、一泊はな。お前が全く役立たずとわかれば、一泊ですむだろう」

「胃が痛いです」

「奇遇だな。私もだ」

 マナーは一応習っているとはいえ、所詮田舎の男爵の娘である。洗練などされていよう筈もない。

「そこはあちらが半ば強制的に招待してるのだ。目を瞑ってもらえるだろう。」

 クローディアの顔色を読んで父が、自分に言い聞かせるように呟いている。

「それに断るなどできぬのだ。この手紙を出された2日後には、迎えの馬車が侯爵家から出発している。明日にはこちらに到着するだろう」

「ええ!? そこまで切羽詰まっていらっしゃるのですか?」

「ああ。本当にワラにもすがりたい気持ちなのだろう。子を思う気持ちお察しするが」

 自分たちにその影響がでると複雑な思いであるのだろう。

「ニコルめ、余計な事をしてくれた」

 まったくである。

 しかし、これは事実上、大貴族さまからの召喚状である。しかもお迎え付き。

 もう諦めるしかない。

「わかりました。お母様と早速準備しますわ」

「ああ、ベリーヌには先にお前の部屋で着替えなどの用意を進めさせている」

 いつも畑仕事ばかりしているクローディアのクローゼットに、果たして侯爵家訪問に耐えうるドレスがあるのか。きっと母は必死に探しているに違いない。

 誠に申し訳ない。

「お父様もご一緒に行っていただけるのですよね」

「当たり前だろう。お前を野放しになどできん!」

「ひどいですわ!!」

 かけねない父の叫びを聞き、クローディアは本日3度目の不満の声をあげた。

もし少しでも、おもしろいと思っていただけたら、星をポチっとしてもらえたら、嬉しいです(*^-^*)

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