表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/18

第14話 やったやった!と思ったら、試練があったよ

「男のお子の目は、生まれつきのもの。どうしようもできぬ。これからも様々なものを視るであろう。女のお子と同じじゃ」

「そうですか」

 大翁の言に、がっかりする。今日はがっかりがオンパレードである。やはりエルネストの目は一時的なものではないらしい。クローディアの目も。自分は楽しんでいるからよいとして、エルネストは苦しんでいるのだ。それがずっと続くとは、人生は非情である。

 ちらりと隣を見ると、エルネストが青ざめている。クローディア以上にショックなのだろう。

 エルネストの手を、力付けるように握る。エルネストはこちらを向いたが、顔は強張ったままだ。

 取り繕う余裕もないのだろう。頼む。再びひきこもりにならないで欲しい。力になるから。

「男のお子の目は領主の一族の業を受け止める為のもの。逃れることは叶わぬ。しかし、女のお子がいれば、我らからの助けをもえられるようになろう。仲良くすることじゃ」

 何をおっしゃる大翁!

「はい! 決して、決して! クローディアと離れません!」

 エルネストが食いぎみに返事をする。

 一縷の望みのように、痛い位クローディアの手を握るエルネスト。

 待ってほしい。大翁よ。煽るのはやめてくれ。人間の事情もあるのだ。

 背中にたらりたらりと汗をたらしながら、クローディアは最大限のスルースキルを発動して続ける。

「では、亡霊を追い払う事はできないでしょうか?」

「侯爵家にいる亡霊は、侯爵家ゆかりの者も多い。過去に侯爵家に仕え、戦で死んだ者が、縋ってきているのじゃ。追い払うのは筋違いだろう」

 この大翁様は、どこまで侯爵家の事情を知っているのか。そして、人外の者たちはすべて亡霊の類いが視えるのだろうか。視えていなければ、こんな話はできまい。そういえば、ララも当然のごとく亡霊について話していた。つまりはそういうことなのか。

 クローディアたちよりも、より状況が視えているならば、きっと解決策もわかっている筈。そう信じてクローディアは食い下がる。

「それでは、エルネスト様が壊れてしまいます。どうすれば、亡霊たちもエルネスト様も健やかに過ごせるでしょう! どうかお教えください!」

 大翁は腕を組み、しばし、目を瞑って思考する。

「人間の幼子には、あれら亡霊の姿は怖かろう。それも自分しか見えていないとなれば、なおさらだな。恐怖や苦しみを親兄弟も分かってくれない。それはこれからも続く」

 エルネストは下を向いて唇を震わせる。顔色はもはや真っ青を通り越して白い。

 大翁様、追い詰めすぎです。エルネスト様、泣いちゃうから。やめてあげて。

「亡霊を、すべて安らかにしてやることはできぬ。しかし、近づいてきた者たちを、導き、安らかにしてやることはできる。さすれば、家の中だけは、平穏に過ごせるやもしれぬ」

「それでよいです! 安全な場所が1つでもあれば! どうかその方法を教えてください!」

 もう黙って聞いていられなくなったのだろう、エルネストが身を乗り出して叫ぶ。

「サーフィス」

 大翁が、右側にいた無表情青年に、問いをする。

「レタの鏡を応用すればよいかと」

「そうだの。頼めるか?」

「御意」

 サーフィスと呼ばれたドワーフの青年は、2人に向き直った。

「大翁の命により、レタの鏡を改良して、そなたたちの問題を解決する道具を作ってやろう」

「「ありがとうございます!」」

 クローディアとエルネストは、ぱあっと顔を明るくして頭を下げた。

「道具を作るには、材料がいる。小さなそなたたちでは、高性能の道具を作る材料は揃えられまい。だから、最低限のものになる」

「それで構いません!」

 エルネストの心の平穏が取り戻せるなら、それでいいのだ。

「それでも、材料はいる」

「それは何ですか?! 私たちに出せるものしょうか!?」

「だせる。一番重要な材料、それはそなた達の髪だ」

「髪?」

「厳密にいえば、そなたたちの気が満ちているものが必要なのだ。それが髪。髪には、その者の気が一番蓄積されているからだ。それ以外は、こちらで用意する。大翁の言、お前たちはまだ赤子であり、種族問わず、女神の子とみなす。女神の子を救うのは必定。材料費の支払いは不要である」

 サーフィスと呼ばれた青年は、理屈っぽい。その青年ドワーフはひたりと二人を見る。

 特にクローディアを。

「鏡の使用者たるそなたたちの髪が必要不可欠である。それも材料は多ければ多い程いい」

 その瞳は、まるで彼女を試しているようだ。

 エルネストが叫んだ。

「女性の髪は、とても大切なものです! 私の髪だけではだめでしょうか! 私の問題なのですから!」

「無理だ。レタの鏡はそなただけでは、扱い切れぬ。そこの女児の助けがなければ、無理だ。したがって、2人の髪が必要だ」

 髪は女の命。髪は大切にしろと母からは常々言われていた。今この時までクローディアは大して重要とも思っていななかったが、いざ切れと言われると、胸がぎゅっと軋む。

 やはり自分も女子だった。髪は大切なものだったようだ。その大切にしていた長い髪を切るのはすごく勇気がいる。

 クローディアはそっと隣を見た。エルネストの泣きそうな横顔。自分の方が辛いのに、それでもクローディアを気遣ってくれる。そんなエルネストを見て、ここで断るなんてできようか。

 クローディアの心が決まった。

 髪はまた伸びる。今の長さよりももっと伸ばしてやろうじゃないか。そうだそうだ!その意気だ!

 笑えクローディア!GOだ!

「もちろん大丈夫ですわ。ナイフを借りても?」

「私が切ろう」

 黙ってみていたガクトルと呼ばれた青年が立ち上がって、クローディアに近付く。

「クローディア! いけない!」

 エルネストが、首を振って止める。

「いい! 僕は今のままでいい! だからやめて!」

「だめです! この機会を逃したら、一生苦しむかもしれませんのよ! チャンスは掴まないと!髪なんてすぐに伸びます!」

 クローディアは震えそうになる唇に、きゅっと力を入れる。

 ガクトルは尋ねる。

「どのくらい切る?」

「できうる限りばっさりとやってくださいませ」

「クローディア!!」

 ガクトルは頷くと、首元からクローディアの髪をためらいなく切る。

「ああ‥‥‥」

 意識せず、クローディアの目から一筋の涙がこぼれる。

 腰まであった髪。それがなくなり、頭が軽くなる。

 クローディアは頭を軽く振り、エルネストに笑いかけた。

 顔は少し強張っているかもしれないが、それは見逃して欲しい。

「さ、次はエルネスト様の番ですわ。覚悟はいいですか?」

 見つめる先のエルネストの瞳に、涙があふれんばかりに浮かんでいる。

 エルネストはそれをぐっと飲み込むと、ガクトルに告げる。

「よろしくお願いします」

 そしてリボンで結ばれた彼の髪も短くなった。

 ガクトルが2人の髪をサーフィスに持って行く。

 サーフィスは2人の髪をみて、頷いた。

「これだけあれば十分でしょう」

 2人はほっと息をつく。

「作るのに3日かかる。作ったら、持って行かせる」

「とんでもないことでございます! 私たちが受け取りに参りますわ!」

 道具を作ってもらうだけでもありがたいのに、届けさせるなどできる訳がない。

「あまり、ここに人間を招きたくないのだ。村には、人間を嫌う者が多い」

 サーフィスはちらりとガクトルに視線をやる。

 きっと彼のようなドワーフが多い、と言いたいのだろう。

「わかりました」

 これは好意に甘えるしかない。

「話は終わったな。帰りも小人に先導させる」

「本当にありがとうございました」

 サーフィスの締めの言葉に、2人は深々と頭を下げた。

 そして目に映るは、テーブルにある酒とお菓子。

「あの、お気に召さないかもしれませんが、私たちも心を込めて作ったものなので、どうかこちらをお納めいただければ、幸いです」

 改めて酒の壺と、お菓子を示す。

 ガクトルが立ち上がり、大翁の前に置く。

 大翁はそれらをじっと見つめる。

「2人で作ったもの。確かに2人の気持ちが篭っておる。特にこちら」

 示されたのは、クローディアが作った酒とお菓子だ。

「我らの好む気が満ちておる。小人が騒ぐ筈じゃ」

 ララもいつもそういうのだが、クローディアには今一つわからない。ただ

「喜んでもらえたら、嬉しいです」と、答えるだけである。

「そなたらの気持ちは、受け取った」

 突き返されなくてよかった。

 ほっと肩から力を抜く。

 刹那、大翁が再び口を開く。

「我らからも一つ願う」

「はい」

 クローディアとエルネストの背に緊張が走る。

「お主らの領を汚さぬようにしてほしい。戦をすると大地は穢れる。穢れた大地では我らは住めぬ」

 2人は顔を見合わせる。

 まだ子供だ。約束はできない。それでも努力はできる。

「精進いたします」

 2人は再度、頭を下げた。

 そこで話し合いは終わった。

この回は書くのにすごい苦しみました。今はこれが精一杯(涙)精進していきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ