妖精レベルアップとスキルガチャ
――妖精レベルが上がりました♪
どこからともなく聞こえるファンファーレ。
それはまるで天界の祝福のようだった。
「ハートジュエルをゲットすると、レベルが上がるわけね」
実にわかりやすい。
街路樹の小枝に腰かけて、ステータスウィンドゥオープンと言ってみる。
すると眼前にポップアップで半透明のステータスが表示された。
+-----------+
妖精エニュル:レベル2 (+1)
:濁り水晶級
+-----------+
「おー? レベルが上がってる!」
レベルの値がプラスされ、カッコ書きで加算された値が表示されるらしい。実に親切設計である。
「『濁り水晶級』……?」
しかし妖精の二つ名が気に障る。
二つ名にしてもディスリ感が半端ない。
「ったく。なんでもランキング化すりゃいいってもんじゃないわよ」
天界も競争社会の縮図なのか。
もっとふわふわした世界だと思っていたのに。実にせちがらい。
とはいえこれは組織の常だ。
階級を明示すれば上下関係も、指揮命令系統も明確になる。
先輩の妖精と遭遇したとき、『エメラルド級』だの『ルビー級』だのと表示されることで無用な争いも起こらない。
「圧倒的な上位クラスの妖精……ッ!」
と、怖じ気づいておけばいい。
「異世界転生者だけあって「世渡り上手」! ……なんちって。デヘヘ」
妖精エニュルの中身(魂)のせいか、オヤジギャグを口走って赤面してしまった。
次の画面は入手したハートジュエルについて書いてあった。
+-----------+
【入手ハートジュエル】
:1個 (+1 品質C/不純物多)
+-----------+
「って、なによ『品質C』って。腹立つわぁ、苦労して手に入れたのに」
いや、そんなに苦労もしてないが。
たまたま偶然、ちょうど良い二人がいて、想いを通わせることが成功したに過ぎない。
子持ちのバツイチママと美少年のカップルは、当面は母と息子のようだか、やがて真の恋人となることだろう。めでたしめでたし。
初回特典の簡単なクエストだったのだろうか。
「ま、二人が幸せならそれでいいじゃん」
エニュルは、品質評価は受け流すことにした。
複雑な気持ちを抱きつつ、エニュルはウィンドゥをスクロールさせてゆく。
+-----------+
【各種耐性】
妖精標準結界
:全天候耐性 レベル2 (+1)
:対物理攻撃耐性 レベル2 (+1)
:対魔法攻撃耐性 レベル1
:ABC耐性 レベル1
(A放射能毒、B生物毒素、C化学毒素)
+-----------+
レベルはあがっているが一部だけだ。
全天候への耐久性や殴られたときの耐久性がアップしている程度だろうか。
「ケチ臭いわね、パラメータ全部あげなさいよ!」
下の方に「ただし書き」があった。
『入手したハートジュエルの「質」にレベルアップは左右されます』と。
「ぐぬぬ……!」
愛の形に良いも悪いもあるわけ!?
次に妖精が使えるスキルの画面に切り替わる。
+-----------+
【妖精スキル一覧】
:カップリングアロー レベル2 (+1)
:ペインニードル レベル2 (+1)
:熱殺妖精球 レベル1
:地雷検知 レベル1 (New!)
+-----------+
「あ!? 新しいスキルが増えてる」
レベルもスキルも増えると嬉しい。
悔しいけれど悲しい性である。
罠の探知だろうかと、指先で『地雷検知』をタップする。詳細な説明がサブウィンドゥにポップアップされた。
+-----------+
→【地雷検知 レベル1】
:危険な地雷女、地雷男を見抜く
+-----------+
「地雷ってそっちかい!」
いや、しかし……これは有益だ。
妖精として危険人物を察知できれば、カップリングしてしまうリスクを避けられる。
恋愛成就の成功率もあがるだろう。
実は「めんどくさい女」だったり「やばいクズ男」だったりしたら困る。
カップリングしても不幸になられては意味がない。真の愛があってこそ質の良いハートジュエルが手に入るのか。
さっきのママと少年は「清らかな純愛」だったから良かったものの、必ずそうとも限らない。
世の中にはいろいろな人間がいるのだから。
「なるほど、これは使えそうなスキルね」
と、ふたたびファンファーレ。
目の前に赤い表示が浮かび『おめでとうございます!』とポップップ表示が重なった。
「おぉ!?」
『妖精転生初回特典! アンド、ジョブ成功報酬として、一回スキルガチャ無料!』
「まじ!?」
やったぜ!
一気にテンションがあがる。
何かもうひとつスキルがもらえるらしい。
ログインボーナスというより、成功報酬のごほうびガチャか。
そもそも有料のガチャもあるんかい! というツッこみはさておき、目の前で回り始めたルーレットを止めろ、ということらしい。
「はぁあっ!」
エニュルが射幸心まるだしの顔でスロットを止めた。くるくると回転していたスロットが停止。
紙吹雪と光のエフェクトののちに、『新スキルゲット!』と表示された。
+-----------+
【妖精スキル一覧】
:カップリングアロー レベル2 (+1)
:ペインニードル レベル2 (+1)
:熱殺妖精球 レベル1
:地雷検知 レベル1 (New!)
:恋愛察知 レベル1 (New!)★
+-----------+
さっそく新スキルが増えていた。
「『恋愛察知』!?」
読んで字のごとく、恋愛を察知できるスキルだろうか。タップして詳細を確認する。
+-----------+
→【恋愛察知 レベル1】
:半径数百メートル圏内の恋愛需要を察知。
眼前に輝点として方向、距離を表示。
恋愛分類A~Dを表示。
任務遂行中の妖精個体を同時表示。
+-----------+
「すごいじゃん! 有能スキルだよこれ!」
やったね!
思わず飛び跳ねるが、むしろ標準装備でいいんじゃない? 必須スキルな気がする。
「まぁいいわ!」
早速、スキルを使ってみる。
ちなみに、使うと何かが減るのだろうか?
『使用制限:無し
移動中の使用は不可。レベルアップで探知範囲向上、探知精度向上』
どうやら安心のスキルらしい。空中に浮かんだまま町を見回し、スキルを発動する。
光の粒子が集まり、左目を覆うバイザーと耳に羽根飾りのような固定具が実体化した。
ハープを思わせる電子音(?)を響かせながら、いくつもの輝きが表示された。
「ドラゴ●ボールのスカウターかよ……」
意匠が違うので大丈夫か。
ピンクの光が点としていくつか見える。
道行く人の上に重なっていて数値もある。
これが恋愛需要表示ね。青年の男女は明確に数値が大きく、思春期の少年少女もやや多め。老人達は少ない。といった具合に。
探知精度を落とすと、強い想いを抱いている人物だけが目立つので使えそうだ。
「あれ? これは……」
町の反対側を青い光の点が移動していた。
どうやら同業者。妖精を示す輝きらしい。
妖精レベル5『紫水晶級』とある。
もしかして妖精同士の「縄張り」的なものでもあるのだろうか?
となるとハートジュエルの奪い合いとかも?
一抹の不安を感じつつ、エニュルは青い光とは反対側へと移動することにした。
「次はあの娘にしようかな」
近くで一番強い、ピンクの光に向かって。
<つづく>