空と手の届かないラブレター
新連載です、よろしくおねがいします★
「あの、縁くん……これなんだけど」
戸惑うように差し出された手紙には、ハートのシールが貼られていた。
クラスメイトの女子はいい匂いがした。
「……えっ?」
一瞬、頭の中が真っ白になる。
も、もしかして……告白ってやつ?
まさか、非モテな僕にも春が来た?
「ユウキ君に渡してほしいの。縁くん、同じ部活でしょ?」
「……あっ!? あぁユウキね!? い、いいよ」
僕――片結縁は恋のキューピット役だったらしい。
「何キョドってるの? キモイんだけど」
「いっ、いや別に」
「あ、勘違いさせちゃった? ごめーん」
きゃはっと軽く笑う。傷ついた心なんてお構い無し。可愛いサイコパス。
「べ、べつに。勘違いなんてしてないし」
思わず憮然としてしまう。顔はたぶん真っ赤だったと思う。
「あー。あのさ、ま、その……縁くんはいい人だけど、なんかそういう対象にはならない感じだね。見た目、女子っぽいし」
「なっ……!」
女の子っぽくて悪かったね、気にしてるのに。
二度もぶたれた気分だよ。今に見てろ、背も伸びてめっちゃイケメンになったる。
「じゃ、よろしくね!」
「うん……」
なにが「いい人」だよ。
そりゃぁ、誠実に真面目には生きてるけど。
地味だし、中学生男子のモテ要素は背の高さか、足の速さ。あとはヤンキー成分が多いかどうか。
「あーもう」
とはいえ、またこの役割か。
同じ吹奏楽部の超絶モテ男子、ユウキへと手紙を運ぶ。これで何通目だろう?
僕は伝書鳩か郵便屋じゃないっての。いい加減にしろ。痴情のもつれで刺されてしまえ。
――あの頃。まだスマホもSNSも無かった。アナログな時代だったと思う。
手紙を透かして仰ぎ見る空は、とても青かった。
恋に焦がれた、中学生のころ。
――あぁそうか、これは走馬灯なんだ。
そして時は流れた。
気がつけば俺は三十代も半ばを過ぎ、中学生の従姉妹らに「おじさん」と呼ばれる年になっちまった。
いい人だよね!
縁君は、いい人なんだけど……。
そんなことを言われ続け、なぜか恋愛には縁遠いまま、気がつけばこの年だ。
いい人で紳士、ジェントル。
一緒にいて安心できる。
でも恋人にはなれないらしい。
そんな俺が手を出したのが、マッチングアプリ。文明の利器。
出会いの場、縁結びの神様ならぬアプリさま。
最先端のAIがお似合いの相手を見つけてくれる。カップリングの相性もいいと評判は上々。
人生チャレンジ。課金は痛いが仕方ない。
なんとか相手を見つけ、SNSで交流し、何となく良い雰囲気なり。会ってみようということになった。
やったね!
顔なんてどうでもいいから、いい人に巡り会えますように。途中の神社と寺にお参りしつつ、彼女との待ち合わせ場所へと向かう。
空は抜けるように青い。
待ち合わせ場所は……駅前。
いた! あれが、彼女か!?
心臓が高鳴る。アースカラーのワンピースに、肩までの髪。地味目で上品な雰囲気で、すこし緊張しているようにも見える。
むこうも俺に気づいたらしい。逆光で顔は良く見えないが、ぺこりと頭をさげた。
微笑んで手を軽く挙げ、フレンドリーに近づく。
「――あ……?」
次の瞬間、視界が暗転した。
突然目の前が真っ暗になり、落下する感覚。
空が丸く切り取られた。
暗い穴に俺は落ち、視界は真っ暗になった。地面が陥没して生き埋めになったと、ようやく理解できた。
だが、もう遅かった。
酸素が無い。全身が冷たい土で動かない。
やっと……素敵な出会いがあったのに。
これからなのに。
こんな人生の幕切れって、ある……?
無駄死にすぎる。
不幸すぎる。
無念すぎる。
唯一の救いは、誰にも迷惑かけてないってことぐらいか。トラックに轢かれたワケでもない。悲しんでくれる人間はいるだろうか……。
あ、やばい意識が遠のいてきた……。
走馬灯が見えた。
中学の頃に見あげた空。手の届かないラブレターと青い空が。
このまま……死ぬ……のか。
いいひと、のまま――――――――
<つづく>
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