プロローグ:脈アリ!?
初投稿作品です。
いつから早乙女は俺に話しかけてくるようになっただろうか。
カラッとした晴れの日が続く五月のある日の昼休み、俺はいつも通り机に頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺めながらそんなことを考えた。
高校に入学して以来、俺はほぼ誰ともコミュニケーションを取らずに今まで過ごしているはずだ。そっちの方が楽だし、何より今みたいに考え事をするには人がいない方がちょうどいいのだ。
瞼を閉じて、ここ一ヶ月にあった出来事を思い返してみる。
四月には入学式があった。真新しい制服に袖を通すのはいくら感情が死んでいる俺でも心躍る気分だった………
……え、これだけ?
まあ最近まで授業中も登下校時もあくびと飲食以外で口を開けた記憶がないからな。ぼっちの高校生なんてそんなものか。まだ入学したばかりというのもあって、クラスには俺と同じようなカースト下位層の人が数人いる。もっとも、そういう人は大抵仲のいい人が同じクラスにいないだけで、休み時間とかは普通に友達と駄弁っていたりするものだが。
いやまて、本題からずれて自分を精神的に追い込んでどうする。大事なのはそんな俺がいつから早乙女陽葵とちょくちょく話すようになったのかではないのか。
四月中の授業はオリエンテーションや中学の復習ばかりだったが、五月からは本格的に我が校のカリキュラムが始まっている。……そうだ、現代文のグループワークだ。
一つ席を開けて座る俺と早乙女は少数班で一緒になっていた。課題は班員一人一人が別の問いについて答え、班内で共有するというもの。俺は相変わらず無口を決め込んでいたが、早乙女は自分の発表のみならず班員の答えに対して意見交換を行なっていた。それはゾンビのようなハリのない声で適当ノルマをクリアしようとした俺にも同じだった。
なるほど、謎は解けた。だが、WHENがわかってもWHYが未だ不明だ。
なぜ、早乙女は俺に話しかけてくるのか。
こんな表情筋がガチガチに硬直したぼっちを、どうして構うのか。
そんなことが頭に浮かんだ矢先、肩を2回ぽんぽんとノックされた。おもむろに振り返ると、緩んだほっぺに冷たい指が突き刺さった。
「ふお、な、なんりゃ?」
離れていく指を追うようにして向けた視線の先には先ほどの俺と同じように頬杖をつきながら無邪気に笑う早乙女が後ろの席に座っていた。
「あはっ、ひっかかったねぇ」
彼女の大きな笑い声が教室内に響く。それに気がついたクラスメイト数人が明らかな嫌悪の表情を俺に向けていた。
俺はこういう時、どうすれば両者が不利益を被ることなく丸く収まるのかを知らない。だから、俺はいつも通り早乙女と向き合った。
「さ、早乙女さん。昼休みなのに教室にいるなんて珍しいね」
「今日は新入生の陸上部の昼練は休みだしね。久しぶりにゆっくりお弁当が食べれてよかった」
「へえ、そうなんだ」
いきなり彼女ムーブはやめてくださいよ早乙女さん。普通にドキッとしちゃったじゃあないですか。それに、次そんなことされたら俺はクラスの男子たちにコンクリ漬けにされて東京湾に捨てられちゃうんすよ。
それに話しかけられるのは心底鬱陶しいのだ。向こうから話しかけてくると会話を強制されているようで窮屈だし、話せば話すほど自分の醜態を晒しているようで怖い。
一言二言の会話の後、数十秒の沈黙を挟んで授業開始10分前を告げるチャイムが鳴った。スマホをいじっていた早乙女は何も言わずに二つ隣の自分の席へと戻っていく。俺も自分から話しかけるほどではないので、またぼんやりと流れゆく雲を眺めていた。
視線を下に移すと、グラウンドの隅に集まっている陸上部の生徒たちを見つけた。見た感じ先輩方のようで、新入生の昼練がないというのは本当らしい。ちょうどチャイムと同時に部活は切り上げたらしく、何やら手を叩いて解散の合図をするとぱらぱらと視界の隅へと散っていった。
なんとなくそのうち一段と華やかで目立つ男女を目で追っているとまたも肩を2回ぽんぽんと叩かれた。軽くでも俺にスキンシップを取るような奴は一人しかいないので、先ほどの反省を生かして叩かれた肩と逆向きに振り向いた。
「ふぇ、なんえぇ」
「あはっ、甘い甘い。考えが単純っ」
「なんで罵倒されたの、俺…」
今のコンマ数秒の俺の思考はなんだったんだ。せめて逆向きに振り返ったことを褒めてくれたっていいだろうに。
「で、今度はなんの用?」
俺は先ほどのカップルに目を戻しながらいうと、早乙女はきょとんとした顔で首を傾げた。
「別にさっきも用があって話しかけたわけじゃなかったし」
「え。……いや確かにそうだけれども」
思い返してみればそうだ。というか、さっきはほっぺ刺されただけだ。
じゃあなんで俺に話しかけてくんの?もしかして好きなの?
「じ、じゃあなんで俺に話しかけてくるんだ?」
人と話すのに慣れない俺は案の定頭が回らなくなり気づけばド直球ストレートで超コミュ障発言をしていた。
口に出してからこの質問のヤバさに気づき、硬直したまま誰もいなくなったグラウンドを睨みつけることしかできなくなってしまった。心臓がバクバクと音を立て、冷や汗が溢れ出る。
窓の反射でうっすらと見える彼女の表情は、いつも通りの人が良さそうな微笑だった。
「なんでって、それはーーーー」
彼女が結んでいた口を開き、俺が俯きながら振り返った瞬間ーー校内放送で本鈴のチャイムが鳴り響いた。
「ーーーーえ、今なんて?」
うまく聞き取れなかった俺は彼女の顔を覗き込むようにして言った。単純に驚いていた。分け隔てなく誰にでも接する彼女に、俺に関わる理由があることに。
「や、なんでもない。もう先生来たし、席戻るね」
早乙女はにっこりと微笑んで自分の席に戻り、日直の起立の合図と共に元気よく礼をしてまた席についた。こちらをチラッと横目で見て、口元を綻ばせながら。
自ずと鼓動が速くなった。浅い呼吸を繰り返してどうにか心を落ち着かせる。
いわば『脈アリ』のこの態度に、俺は困惑を隠せなかった。
意味がわからない。動機が見当たらない。
彼女は誰にでもこうなのだろうか。いや、早乙女はクラスでは目立つ方だが、こういうやりとりは俺のステルス盗聴機能を持ってしても確認されていない。
、、、、
俺にだけ。
その単語が交友関係の少ない俺に甘い蜜を吸わせている。
ーーーー高校生活始まって早々、変なのに目をつけられてしまったな。
今はそう思うことで、精一杯だった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。あらすじにも書いてある通り、ある程度自分で筋を決めてはいますが、ここから先の展開を募集しています。急に異能力に目覚めても、異世界にとんでも構いません。多くの展開を待っています。
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