4話:答え合わせ?
シンと静まり返ってしまった教室で、女性がすぐに「……こ、この子は坂原波花さんよ」と言って生徒達は丸くしていた目をまぶたにおさめた。
その後で波花は空いている、右から四番目の三列目の席に座った。波花が座ると女性がすぐにHRを始めた。
数分後、HRが終わり、女性は自分の腕時計をチラッと見て時間を確認した後で、教室を出て行った。
生徒達は女性が出て行くと次々に自分が座ってた椅子を鳴らして立ち上がり、他の生徒の所へ行ってさっきの話を再開したが、波花の所へは一人も、近寄ってさえ来なかった。もちろんそれは、先ほどのとんでもない自己紹介が原因。
代わりに、話の内容は波花の事。
窓側の一番後ろの席では、二人の女子がそれぞれ机の前と右に居て、波花の方をチラチラ見ながら席に座る女子一人と合わせて三人で話している。
「朝に、教室の鍵取りに職員室行ったらクラスの男子が私の方に来て、『今日、高等部の三年と、中等部の三年に転校生が来る』って言った」
「あの子がそうだった訳ね。キョウダイって言うんだからもう一人は兄かしら?」
……今、「三人で」と書いたのだが、実際のところ、話に参加しているのは机の周りにいる二人で、席に座る一人は黙って左手で頬杖をつき、黒眼だけを動かして、相手を見合う二人をただ見上げているだけだった。
最初に前にいる女子が「ねえ見た? あの子」と言って、右にいる女子がさっきの様に応えて会話が始まった。
そして、今度は右にいる女子のセリフから始まる。
「でも一体あの自己紹介はどういう事なのかな?」
「ふざけてみんなを笑わすために言ったのじゃない? もしそうだとしたらあの静寂はすべったという意味かね?」
「あ!! すべったといえば昨日のエ〇タ見た?」
そう言って今の話題を振り払うように前にいる女子に右手の人差し指をビシッと突きつける左側の女子。
「ああ、見た見た! 何番目だっけか忘れたけど、最初の内に出てきた芸人めっちゃすべってたでしょ? ねえ春花も見た?」
「へっ?」
席に座って頬杖をついてた女子、新芽春花は、いきなり話かけられた拍子に、顎が左手の平から離れた。
ずっと自分なんか全く相手にせずに二人だけで話していたのだ。
それでももし話しかけられたらと考えて、マジメにとは言えないが、ボーっと二人の会話を聞いていたので、ある程度は急に話しかけられても答えられる自信はあった。
ところが話の内容が変わってすぐに話しかけられたんだから、返す言葉は、やはり一つも考えてなかった。いや、考える暇はなかった。
「エっ……ーと……」
何か言わなくてはと思っても、見てないからには何か言うといっても、「ゴメン見てない」とだけしか言えなかった。
そのまま二人は春花を差し置いて、一時間目のチャイムが鳴るまでずっとエ〇タ話をそこでしていた。
春花は、今度は波花の方に黒眼を向けて、見ていた。
二人の波花の話題の中で、もしもこちらに話しかけてきた時の為に用意しておいた『答え』を頭に浮かべながら、本人をじっくりと観察して、答え合わせのような事をしているのだ。
しかし波花、は自分の右の席で寝ている男子の方に首を動かして、こちらには彼女の黄緑色の頭しか見えないのでどんな表情なのかもわからなかった。
春花は、一瞬だけ、わからないなら彼女の側に行っていろいろと実際に確かめようかと思いついたんだが止めた。
結局、その日は波花のところには誰も寄って来なかった。