1話:転校生の兄妹二人、その一
更新遅れてすいません。
つい先日、この君流町に引っ越してきた坂原家での出来事。
坂原家の二階にある六畳くらいの広さの薄暗ーい部屋。あちこちに空っぽのダンボールが積まれてある。引っ越しの時に使った物だ。
そして窓際には、いかにも即席で置かれたという事がわかるくらい雑に置かれてあるベッド。
引っ越してきた時、本人は置き場所を全く考えなかったのだろう。
そのベッドの上で気持ちよさそうに仰向けで寝ている少女。
あざやかな黄緑色のセミロング。大きな眼が一番の特徴で、一目見れば大半の人は小学生か中学生くらいだと思うだろう幼い顔立ち。
しかし、少女がベッドで寝ていると、窓に付いてる緑色の新品のカーテンの隙間から、淡い光が差し込んできた。それは東の方角から、日の出だ。
すると差し込んできた光は、まぶたを通して、少女の閉じられたその大きな瞳に入った。
少女は突然目に入ってきた眩しい光に、痛くなるくらい思いっ切り目を閉じる。そしてこれ以上光を見たくな為に、うつぶせに寝返った。
彼女の名前は坂原波花。
坂原家の長女だ。
それからしばらくして、坂原家長男で波花の兄でもある海祐が、ベッドから重い身体を離し、高校の制服に着替え、台所で朝御飯の支度をしていた。
ギラギラした雰囲気を放つ目力や、短髪で全く癖毛のないサラサラした黒髪。誰から見ても現代には似合わない侍のような外見なのだが、内面は、どうしてもそんな風には見えないくらい陽気な奴だ。
今も何かの歌を歌い、そのリズムに合わせて腰を振りながらとても楽しそうに(一人で)朝食を作っている。かなりテンポの早い歌だ。
朝食と言っても引っ越してきたばかりで兄妹二人暮らし。荷物も片付いていない。まだまともな食事にありつけるほどの余裕はない。
海祐はコーヒーを入れ、食パンをトーストにして簡単な朝食を作った。
と、朝食が出来上がり、テキパキと新品の畳の匂いが香る和室に置いてあるテーブルの上に置いたところで肝心な、妹波花がまだ起床していない事がわかった(今頃)。
すかさず急ぎ足で二階に続く階段まで来ると、大声かつ早口で、二階の部屋で寝ていると思っている波花に、
「おーい!! 波花!! 飯だぞ!!」
と、目覚ましの一言。
あの時に差し込んできた朝日に起こされた波花だったが、まだ夢と現実との区別がつかないまま、ベッドの中にもぐっていた。すると海祐の大声が耳から頭に入って来て、今度は意識もはっきりして仰向けに寝返った。
そして目もほとんど開かないまま、150センチも無い小さな身体を起こし、部屋を出て、ボケた状態で階段をユラリユラリと下りた。
途中、あまりにもふらふらして下りて行ったので階段の壁や手すりに、
ガン!!
ギン!!
グン!!
ゲン!!
ゴン!!
なんて音立ててぶつかってしまった波花。
一階にいた海祐はそんな彼女を両手で綺麗に受け止め、
「あー、あぁ……もうだらしないなぁ……。ホラッ! 顔洗って来い!!」
あきれた顔でそう言って、波花を洗面所の方向へと、背中をドンッと押した。
若干よろけながらも、押された方向へ歩き出す波花を見て、安心した海祐は、さっき付け忘れたネクタイを付けようと、自分の部屋へ。
と、波花に背を向けて二・三歩進んだが、彼は洗面所と同じ方向にある筈の自分の部屋とは逆方向へ進んでいた事に気づき、また回れ右をした。まだこの家の事をよくわかっていないらしい。
速歩きでスタスタと廊下を歩き、向かう先は洗面所の手前にある自分の部屋。
そして今日、起きて部屋を出る時に見たのと同じドアを見て、自分の部屋だと確認し、ガチャッ!!
……と開けたのだが、その瞬間、海祐は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、自分のベッドで寝ている波花を見つめた。
「……」
唖然とする海祐。
どうやら彼女は洗面所に入ろうとしたが、間違えて手前の海祐の部屋に入って、そのままベッドにダイブしたらしい。少々、彼女の黄緑色のパジャマが乱れてるのがその証拠だ。
海祐は、ほんのちょっぴりの間その光景を見ていたが、すぐにハッとしてベッドで寝ている波花までズンズン迫ってゆき、
「バカ! 何をしてんだ波花!! 早く腰上げて顔洗え!!」
そう言いながら、波花の身体を揺さぶった。
波花は、普段は大好きな兄も、こういう時だけはうるさい目覚まし時計みたいで嫌いだった。もうあと少しくらい寝かせてもいいものではないかと思う。いやそうにまだまだ軽くなりそうにない身体を持ち上げて、今度は海祐に背中を押されながら洗面所に連れて行かれた。
「ちゃんと顔洗えよっ!」
そう言い残して海祐は早々と自分の部屋へ。なぜこんなにも焦っているのかは、不明だ。姿見の前に立ち、さっき着替えた時にしてなかったネクタイをしっかりと付ける。だが彼はこういう事に関しては苦手だ。彼のしっかりの基準では、他の人が見れば適当であった。
とりあえず本人は納得しているようなので良しにしよう。
そしてきちんと身だしなみをととのえた海祐。その間約二分。予想外に時間をムダにしてしまった。
最後にチラッとだけ鏡を見て確認するとまた急ぎ足で出ようとした。が、出ようとしたその時、突然さっきまで洗面所にいた波花が洗面所とは逆方向からやって来て、右手に持った歯ブラシをくわえてシャコシャコ言わせながら洗面所の方向へと歩いてるのが目に入った。しかも、彼女のもう片方の手にはコーヒーカップが。
中身が入っているかは確認できなかったが、カップから湯気が立っているのを見ると、さっき海祐が入れてテーブルに置いといたのを持ってきたのだろう。
(…………何故に?)
訳がわからない。海祐は波花のすぐあとに続いて行く。兄が後ろについていることに気づかない波花は、洗面所に入ると、どういうワケかくわえてた歯ブラシを取り、そのままコーヒーを口に含んだ。
「??!??」※海祐
そして、誰がどこからどう見てもおかしな行動を取った。
「ガラガラガラガラ〜〜〜〜〜…………ペッ!!」
「何をしてんの!?」
海祐は、波花の行動に仰天し、
「コーヒーで口ゆすぐ奴、どこさがしているんだよ!!?」
と、持っていたコーヒーを取り上げ、まだ寝ぼけた状態の波花に叱りつけた。
なぜこのような事になったかと言うと、彼女が洗面所に行った時に歯ブラシはあったが、コップが無かったのだ。まだ片付いていないダンボールの中に眠っている。そうとは知らず、コップを探してた彼女は、コーヒーカップが目に入りそれを使ったのだ。
それから海祐は、まるで早送りみたいに素早く行動し、波花に顔を洗わさせ、身だしなみをととのえさせ、制服に着替えさせ、朝食を食べるところまでをわずか数分でやって見せた。誰に、かはわからないが……。
そして現在、着替え終えた波花と二人で朝食。
この二人の両親は、普段は別々に仕事をしていて、なかなか帰って来ない事が多い。
たまに疲れだけを増やして帰って来るが、その時もあまりのんびりはしていられず、両親が結婚した当時から使っている黄色いフワフワ気持ちの良いソファに腰を下ろしていると思えば、すぐに立ち上がって仕事へと戻って行く。だからだいたいは二人暮らしなのだ。
テーブルで向かい合わせに正座し、手を合わせて、
「「いただきまーす」」
の一言。
二人共、小さい頃から変わらぬ環境下でそだってきた為、互いの顔を見るだけで一日一日を満足に過ごしていた。
「……ん? どうした波花?」
不審なものを見る目で波花を見つめる。
「……」
両手の、白くて細い指で優しそうに包んだトーストを、口元の高さ辺りに持ってきて、今すぐにでも食べるぞと言ってそうな体勢の波花だが、食べようとする気配はしない。大きくて綺麗な瞳は半開きの状態。
「……波花。お前、バターぬらないのか?」
「あっ!」
ビー玉一個分くらいの大きさに開いてた口を、二つ分くらいまで開けて、海祐の言葉で忘れていた何かを思い出し、サッとバターの入れ物に左手を伸ばす。まだまだかなり寝ぼけている様子。
本当の彼女は、普段は明るく元気に振る舞う素敵な美少女なのだが、夜更かししたその朝のテンションは異常な程に低い。まるで眠っているうちに彼女の中のあるものが逃げ出したみたいに。
しかし、それでもちょっと時間、彼女のまばたきの回数を数えてれば、その内すぐに元通りになる。問題はその間に何をしでかすかだが……。
「「ごちそうさまー」」
空腹で穴が開きそうだった腹に食べ物を詰め込んだ海祐は、テキパキ急いで食器を片付ける為に、和室と台所を二、三、行き来する。
波花はと言うと、食べ終わってもそこを動かず、残像でも作り出したいのか、ユラリユラリと体を左右に妖しく揺れる。だがこの行為は、ただ単に寝ぼけているだけの訳だ。
冷たい水で顔を洗ってもなかなか眠気が取れない、そんな波花に対してただ見てる事以外する事がない海祐。コーヒーカップ等、朝食で使った食器を洗い終えた彼は、染みで色が茶色くなりかけてる障子から、目が半開きの波花を待ち人を待つ目でのぞいていた。
少々、困ったような顔して、右手の人差し指と中指で自分の鼻を触っている海祐。その時、ふと右手首に付けていた、高校の入学祝いに両親に買ってもらった腕時計が目に入った。
「……」
それを見て全身が固まった海祐。
ただいまの時刻は八時十分前。
「やっ…………」
遅刻だ。
「やっばあぁあぁぁぁぁははあぁぁぁいぃぃ!!!!!!!!」
さっきまで妹の波花を困ったように見ていた自分を吹き飛ばしてしまうくらいの大声で叫んだ海祐。あまりにでか過ぎるその声は、彼の身体を破裂させてしまう程、近所迷惑なものだった。
物凄い慌て様で、自分の大声にも微動だにしなかった妹の右腕を捕まえて家を飛び出そうと思いっきり足に力を込める海祐。
一方腕を兄に捕まえられた波花は、人形のように簡単に海祐の行き先に付いてくる。彼女の方は力を入れていないのでそれは当然だった。
そして、鞄の中身もチェックしないまま勢い良くドアを開けて家を飛び出した二人。
すると二人が外に出てきた直後。
とても緩やかで暖かい風が吹いてきた。その風の波に合わせてなびく二人の髪、そして周りの木も気持ち良さそうにざわめき、太陽の光を受けながら、綺麗な緑を揺らしていた。
つい先日引っ越してきた二人。高校三年生の海祐と、中学三年生の波花は、今日からこの町の咲原学園に転校する事になっているのだが、このままでは初日から遅刻になってしまう。
そうなっては出会ってすぐの印象も悪くしてしまう。
それだけは絶対に避けたい海祐は、そんな君流町のささやかな歓迎にも気づかなかった。
君流町とは、本当はそんな読みがなではなく、ちゃんとした読みがながあったのだが、ある日、とある総理大臣がこの町に訪れた時に、日本のトップともあろう者が君流町というのをそうやって読み間違えてしまい、そこから広まった。今では本当の読み方を知っている方が少ない。
……はいどうも〜皆さんこんにちは!
オバコバでーす!!
いかがでございましたか今回の?
え? これ恋愛なんじゃないかって?
いえいえバリバリコメディですよ!
ヒロインが寝ぼけてて、性格ちょっとわかりにくかったですか?
次回はちゃんと起きた彼女が見れますのでもう少しお待ちください。
あと、もしよろしかったら、ご評価お願いします。
それでは、長々と失礼しました!