8 クレア事件(後のこと)
「あぁああ!よかった…灯りが見えてきた…」
あの後はさんざんだった。
どうやら俺はクレアの心配より自分の心配をした方がよかったに違いない。
魔力が尽きてまともに魔物と戦えなくなった上、
道まで見失うとか、冗談抜きでこっちが死ぬところだぞふざけんな。
というのも俺が師匠みたく移動魔法が使えたらいい話なのだが。
日々の鍛錬や闇魔法以外も魔法がどれだけ役に立つか、あらためて痛感したのだった。
いや、おかしいから。
なんで俺がひどい目に合わなくちゃならないんだよ。
今日の俺とか祝福されてもおかしくないレベルだぞ。誰か祝福しろ。
ただいまも言わずドアを開け、廊下を歩く。
ふらふらのまま靴を脱ぎ散らかし、段差を引きずり上がる。
クレアの部屋の方向から話声が聞こえる。
恐らく何か、怒られでもしているのだろう。
いいぞいいぞー。
盗み聞きでもしてやろうか。
あぁでももう体力の限界。
気配を遮断する魔法は以外に難しいので断念する。
自分の部屋に入って、着替えもせずベッドにダイブした。
「あぁーーー。
気持ちぃいい。ベッドさいっこう!布団さいっこう!!
一人立ちしたら移動式ベッドを使って、世界一周でもしてやりたいわ。」
本当に疲れた。
なんだって俺が俺以外のヤツのために
ここまでがんばらなくちゃならない?
「そりゃ助けてくれた代わりに、いいことしてあげる」とかなら別だよ?
でも今日も明日も永遠とそんなことはないのだろう。
無駄な期待はあまりしたくない。
だから望みもしない。
俺が今心から望んでいるものは、安息さ。
本当だったら今頃ぐっすり寝てる時間帯だ。
今度クレアが厄介なことをしてくれたら、そのときはただじゃあおかない。
パンツのひとつでも拝借してやろうと思う。
しないよ?そんなこと? 多分。
あーあ…頼むから起こさないでくれよ、もうくたくたなんだ。
何者も俺の睡眠を妨害してはならないのである。