5 血
「ただいまぁーっと。」
「おっ今日は早いな。」
これ以上遅くなってしまうと何らかのペナルティとかありえるんでね。
いつもより速足で帰ってきたというわけ。
まったくこの体は…
少し早歩きしただけで、くたびれてしまったよ。
とは言え、まず夕食の準備だ。
さっきの血のことは…夕食後に師匠に相談しよう。
重い足を無理やり台所に向かわせた。
夕食後、俺はクレアが部屋に戻ったのを確認すると
さっそく師匠に声をかける。
「それで、一体何があった?」
「いや、大したことじゃないと思うんですけどね。」
俺は血の件、ついでに最近魔物に知恵がつき始めていることを
端的に述べる。」
「そうか…魔物に知恵がつき始めている…というのは、
当たり前だろ。」
「はぇ?」
「お前…魔物を何だと思っている??
やつらだって生きるために強くならなくちゃならない。
そりゃ頭もよくなるだろ。」
「そいですか。」
「だが『血』…というのは気になるな。
ここは人里からかなり離れているし…」
「そうなんですか?」
え?
今知ったんだけど、俺たちってそんな孤立してる感じ?
もし万が一の事とかあったときはどうしたらいいんだよ。
そんな離れていたら、助けも呼べねぇぞ。
少なくともこんな森の奥深く、ぼろい家で、
引きこもり魔女と無口な弟子女とともに、死ぬのはイヤだ。
俺はこれからもっと楽して、楽しんで生きたいのに。
「それに…赤い血ねぇ…
まぁ、人で間違いないだろうが…」
「そうですよね。」
「不安だな。
まぁ仮に人だとしても、私らには関係のないことだ。」
「え?」
「なんだ?」
「あ、いや、、
人里とかに知り合いはいないんですか?」
「いいや全然。
だから人里の人間がどうなろうと知らんし。」
「なーるほど。」
どうやらこの魔女は周りとの関係を断っていると思っていたが、
それは意図的によるものらしい。
何て、魔女だ。 寂しくないのか。
少なくとも俺は寂しいぞ。
俺のこのかわいそうな状況を哀れんでくれるヤツがいない。
「まぁ、すいうことなら、ね。」
椅子をぎぃと唸らし、立って部屋を出る。
今思えば、簡単な話。
仮に人だったとして、何だ?
バカなヤツが夜の森に入って、魔物に襲われようと
俺にとっては知ったことじゃない話なのだ。
つまりまったくの無関係。
「このことは忘れよう。」
視点を自分の部屋のある方向の廊下に向かせた瞬間、何か
何かが廊下を曲がったのが目に入った。
白い髪だったからクレアか?
はて?あいつの部屋は一番奥だよな。
もしかして聞かれていたか?
まぁ聞かれていたところで。
俺はいつものように、ゆっくりと部屋までの道のりを
とくに何も考えずに歩む。