4 修行(夜)
陽はすっかり山に隠れてしまって、淡い残光が少しずつ消えていく。
もうすぐ、夜だ。
これがあるから毎日、厳しくて現実的な修行にこらえられる。
今から何をするんだと?
決まっているだろう。それは…
「そろそろ暗くなる頃だな。
私たちは少しばかり先に帰るぞ。
クレア、夜には魔物がうろつくからな。」
「わかりました。」
「そういうことで、あんまり遅くなるなよ。
お前には夕食を作る義務があるんだからなっ!」
義務って…いつから俺の義務になったんでしょうかね。
誰か。いつでも俺の仕事をお譲りしますよ。遠慮なく、どうぞ。
さてと…俺もそろそろ動こうかなぁ…
ここら一体は夜になると魔物たちの巣窟になる。
とくに小型の魔物が多くて、こいつらは群れると非常に厄介だ。
そして極めつけはたまに出没する、大型の魔物。
たまに魔法を使ってくる魔物もいて面倒くさい。
だがうってつけの、『練習台』である。
2年くらい前、俺は師匠に夜間での自主訓練を申し出た。
本当はものすごく危険なのだが、俺が得意とする闇魔法は、
『夜』に強い。
まぁようするに暗いとき、便利だっていうこと。
闇=暗いでしょという簡単な原理だ。
魔力の量が増えたり、少ない魔力で高威力の魔法が使用できたり。
まあデメリットも多いのだが。
どうだ、クレアよりかは分かりやすいような気がする。
ちなみに当のクレアにはこのことは言ってない。
師匠曰く、心配するから言うなとのこと。
心配なんてするわけないだろアイツが。
…心配してほしくないわけでは…ない。
そういうわけで、現在。
どんどん薄暗くなっていく森の中を探索中。
最近はよく新種の魔物を見る。
たまに本気でヤバいときがあるから注意をはらおう。
「カサ…」
右の方の草影が僅かに動いた。
恐らく、小さい草影に収まる大きさなので獣類の魔物だろう。
近づく前に即席の魔法陣を作っておく。簡単なものを。
そして慎重に近づいて、魔法で草を少し振動させた瞬間。
「ガグウゴォアアアアア!!!」
隠れていた魔物が跳びかかってきた。
それと同時に多方向からも魔物が跳びかかってくる。
待ち伏せされていたか。
最近は小型の魔物にも知恵がついてきて…神経を削る…!
周囲を確認する簡易的な魔法で数、方向を確認。
数は3…いや4匹、前と右、左から。
「黒炎。」
あらかじめ作っておいた魔法陣の範囲内に入った魔物は
黒い炎に包まれて消えてしまった。
「ふぅ…なんかひやひやするなぁ…」
最近怖いわ。ほんとに。
なんでこんな怖い生物に知恵がつくの?
だめでしょ?人間滅ぼされちゃうよ本当に。
あともっとかわいくならないの?
本当に見た目と鳴き声怖すぎる…
何よりもっと楽たいなぁ
しかし、いい経験にはなっていると思う。
師匠も魔法使いは経験が大事とか言ってたし、多分。
しばらくそこらの魔物と適当にたわむれていた後。
「大分、奥の方まで来たな。」
夕食も作らなきゃいけないし、そろそろ潮時だろう。
今日もがんばった。
よくがんばったよ…俺。
「ん…?」
ふいに見かけた、大きめの木の幹。
薄暗くよく見えないが…これは……
持っていた小さいランプで照らす。
それは間違いなく黒く赤い色をしていた。
「血…か?」
変だな。
ここらの魔物の血で赤色は…ないはず。
「気持ち悪いな…」
若干の懸念を残したまま、俺はその場を後にした。
おふぅ…