17 バカ
家の周りには兵士と思われる人らで溢れていた。
「これ全部クレアが助けたのかよ…」
まったくもって、すごいやつである。
一人一人ずつに歩けるくらいには治療が施してある。
完璧にもほどがあるくらいに。
いまいち理解できないのは、どうしてこんなことをするんだ?
クレアを見る限り、余裕があるわけではなさそうだった。
自分に不利益なはずなのに、、
「おーーーーい!!!」
この声は、聞き覚えがあるぞ。
いない間さんざん心の中で陰口を聞いてきた、張本人。
「師匠…何してんすか…?」
「いや…クレア探してたんだが…??
それより…何だよこの人の群れは…気持ち悪いな。」
「なんてこと言うんですか。」
仮にも一人一人命があって人生を歩んできたんだぞっ
まぁ人がいっぱいいるのは俺も好きじゃないが…
「というか!お前こそ何やっているんだ!
クレアはどうしたっ」
「あぁ…あの子はもう立派に成長しましたよ。」
「は?」
それから俺は師匠にことのてん末を大まかに説明した。
無論、俺のかっこ悪そうなところは省いてな!
「…で、お前は何でここにいるんだ」
「そりゃもちろん、助かるために決まっているでしょう?」
「自分だけ?」
「いや俺が行っても100%死にますよ。
しかも救助ですよ?一人だけで精一杯なんですよ。」
そうしている間にまた一人と負傷した兵が転送されてくる。
「お前は…お前という奴は……」
師匠が額に手をかざして首を振る。
あれ?もしかして呆れられてる??
俺の武勇伝はひとしきり述べたはずなんだけどな。
まぁ、呆れられるのも無理はないか。
結局女の子二人を森に残して、自分だけ帰ってるんだからな。
だがそれについて、俺は一切! 恥じたりなどしないッ!!
「ま、そういう道もあるよなぁ…」
「その通りですよ。」
「…私に似てきたか。」
最後何かを言い残すようにして、師匠は家の方へと行ってしまった。
似てる?
俺と師匠が?
何を言っているんだか。もしかして後々に分かるやつか?
そんな焦らす必要なんてないっての。
「…それにしても。」
周りをあらためて、ひとしきり見渡してみると…
本当にたくさん人がいるな。
男だけじゃなく、フォーラみたく女の人もいたりする。
男とか屈強そうな体つきのヤツ。
こんなの移動させんのとか絶対きついじゃん。
「ちょっといいすか?」
「おぉ…何だ?」
周りの中でひとしきり、体の大きい兵隊さんに声をかける。
普段喋る方ではない、俺が。
いつも受動的な俺が、能動的に行動した理由は、
ひとつの引っかかる、いや気持ち悪く引っかかっていたこと。
「あんたたちは、その、何で怪我とか負ってまで…」
「あぁ?」
うわ。怖っ。
あんたただでさえ怖い見た目と顔と体してんだからもう少し優しく接してくれよ。
そうしないと俺みたいなガキは泣いちゃうぞ!
ではなく、、
「えと…他人を助けようとしてるんですか??」
「…他人……かぁ。」
「俺、どうしても分からないんですよね。
自分に余裕がないときまで、どうして自分じゃなく、他人のことを考えようとするのかってことが。」
「お前みたいな年のやつに、そんなこと分からなくたっていいと思うが。」
「気になるから仕方ないだろ。」
少し俯いてから、その男は口をゆっくり開く。
「…そうだな。
俺もこの職業を長く続けてきたが、、
行動の理由なんてのは、人それぞれってもんだ。」
「人それぞれ…」
「お前には他人を助ける理由は無い、
だが他人にとっちゃ、人を助ける理由なんて、なくても良かったりするもんだ。」
「はぁ…つまり結局考えるだけ無駄ってことですか。」
「…ぷっ」
「へ?」
「だっはぁははははははははあああ!!!!!」
「うっわ!!」
びっくりした!
あんな険悪そうで気難しそうな顔のデカ男が、いや兵士さんが。
いきなり大笑いして、、何してんだコイツ??
「お前…さてはバカだろお!?」
「バカっ!?
ちょ……何でバカなんすか!?」
「いやいや!
お前ほどのやつは久々だっ!!あっははははははは!!!!」
小ばかにされるのは気分がいいものではない。
さっさとその『理由』とやらを聞かせろ。
俺はあんたのバカでかい笑い声なんぞ聞きたくない!
耳が痛いっ
「っはは…あぁ久々だぞこんなぷっ、、
あっははははははは!!」
「うるせぇぞっ!!!
さっさとバカの理由教えろよ!さすがに怒るぞっ」
するとデカイ男はデカイ咳払いをしてから、
真剣な表情になる。 やっぱ怖い。
「いいか、人のことを考えること。
それに無駄なことなんてねぇ。
それは、人として…いや知性をもつ者として何より大切なことだからだ。」
「はぁ…」
「俺がさっき言った通り!
人なんて所詮、人それぞれの勝手バカどもだっ!!」
「やっぱりね。」
当てはまるのは、俺が今まで出会ったヒトら…
師匠、クレア、フォーラ…
そして、俺か。
「だがな! 例えば兵士ってのは、
その中でも極めつけの大バカってことだ!
なんせ、自分より他人の命を優先して、満足するやつらなのだから!!」
「っは!!その通りさっ!!!」
「違いねぇ!!」
デカ男の大声に周りが呼応していく。
あんたら今まで全然元気なさそうだったじゃん。
「…はぁ…その通り、バカっすよ。」
「おいバカども!!
俺は今からあんの白髪の嬢ちゃんの加勢に向かうぞ!!
バカガキの言ったよう、所詮は他人!!
助ける義理もないわけだ!!お前たちは好きにしろ!」
「何言ってんすか!隊長。
『俺たち』も、大バカの仲間なんですよ!!」
「そうだっ」
「行かないやつはもとより兵士になんて!
なってなあああああああああああい!!」
「っはっはは!!
こんの大バカどもがあ!!!
おい! バカ一番!!」
「誰がバカ一番だっ!!」
「見ての通りだ。
ここからお前がどうするかは、お前次第!!
せいぜい、バカ一番らしい理由で! 行動をすることだなあっ!」
そう言って壊れかけた鎧を手に、魔物に負けず劣らずの奇声を発しながら
全速力で走りだして行き、お仲間さんとともに森の中に消えていった。
俺はというとその間、それを唖然と眺めていただけだ。
「何が…一番バカだよ…」
それに俺らしい理由…?
何だそりゃ。俺にとっての理由はもうとっくに決まっているんだよ。
「うるさい寄声がしたが、魔物か?」
「あぁ師匠。」
「私はしばらく家で休むことにするよ。ここは結界が張ってあって、
安全だしな。
お前はどうする?」
「俺は、アイツらを助けません。」
「ほう。……それじゃ
「アイツらが、勝手に助かるだけなんで。」
「は?」
『ドゴオオオオオオオオオゴゴゴゴゴ…』
森の奥の方で爆発音(?)がし、勢いよく土煙が空に向かって舞う。
あれは確か、アイツらがいる方向。
「そんじゃ、師匠。」
それだけ言うと、振り返らず、
俺は全速力で走りだす。
俺は他人を助けない。
俺の中に、他人を助ける理由がないから。
だが、こんな俺の力でも、少しでも力になれたら。
そういう理性に矛盾した感情はたしかに存在する。
なら、助けなければいい。
俺は、俺自身の都合で魔物と戦えばいい。
もともと俺は『魔物と戦うことで実戦的な経験を学ぶ」
という理由で、今まで魔物と戦ってきた。
俺にはその理由で十分なのだ。
あの土煙の大きさは…
かなりの大型の魔物だろう。
大丈夫、交戦した経験はある。
今回はどんな魔法で倒してやろうか。
どれぐらいの強さだろうか。
そもそも勝てるのだろうか。
いつものように、俺は不安だったが、少し興奮する。
なっっが。




