12 究極の選択
「あぁ…ああ、」
視界がぼんやりと開けてくる。
うるせぇなこの女。
さっきから何を叫んでやがんだ？
違う。
俺確か…こいつに蹴られて…
「お前…！何てことしやがる…」
「ごめんなさいごめんなさいい！！」
「おっおう…謝ってくれたなら、」
いいわけないだろ！
思いっきり顔にキックとごめんなさいがどうしたら釣り合う。
今のはあれだよ。
生まれてこのかた、そんな真剣に謝られたことがなかったから、動揺しただけだ。
……よく考えたら、俺すげぇ環境で育てられてない？
「う…いてぇ…
お前…こんなところで何してんの？」
「それはこっちの台詞！
あなたこそ何してんの！危ないでしょ！！」
はぁ？
何言ってんだまったく。
つーか、コイツ…
片足けがしてんのか？
ふくらはぎのあたり、いくつか穴が空いている。
「お前、その足どったの？」
「これは…気にするな。」
「いや気にするし。大分深くないか？
魔物にでも噛まれたか？」
「まぁね。そんなとこ。
悪いけど、あなたを家に帰すとか無理だからね。
私も自分のことで精一杯だから。」
「そうか。」
「大方、迷子ってところでしょう？
本当に。私と同じくらいの年だろうに頭悪いの！？」
んん？？
何か口悪くない？？
「ヤルト地方の速報伝達聞いた？？
ここらの魔物は今危険だから、近づくなって言ってたじゃない！」
「へぇー。」
「厳重警戒だってのに、バカなの！？」
「うっせぇよ。」
知らない知らない！
今初めて知りました！！
そんな世間体一般常識でしょみたく語られても、
俺も師匠もクレアも！
引きこもりなんで分かりません！！！
せめて外の情報くらい仕入れとけ！マギアス！！！
「お前こそ何やってんだ。」
「見て分からないの？
この服装と紋章を見なさい…」
「分からねぇから聞いてんだよ。」
その『当然』理論。
いい加減やめろ。
今までの会話で俺が常識人じゃないこと分かっただろ？
……自虐じゃねぇんだよ。
「はぁ…私もけっこうヤバい状況なのよ…？
魔物討伐よ。
付近の村にも現れるようになって、死人も出たの。
そりゃ地方兵の私たちが戦わなくて、誰が戦うの？？」
「はぁ…一人一人戦えばよくねぇか?」
「本当にあなた人間？
普通の農民や村人が魔物にかなうわけないでしょう？」
「へぇ…弱。」
「当たり前でしょ…
というかあんただって、どっかの村人かなんかでしょ。
……もう…無理よ。」
「何がだよ？」
「生きることよ。
もう助からない。
隊はバラバラ。兵もちりぢり。
しばらくしたら、どうせ魔物がやってくるわ。」
「あっそ。」
「何でそんな他人事なのあなた…
まぁいいわ…」
その女は急に笑顔になる。
気持ち悪いな。感情なんてそんな急に変化するもんじゃないぞ。
「最後に話相手ができてよかった。
これ。」
何だ？
魔水晶かな…？
変わった形をしてるな。
「私の父さんの形見よ。
私の父さんも昔は兵隊さんでね。
本当に危険とき、使うんだぞって。」
「それを俺に？」
「えぇ。
どうせ私が持っていたって、無駄よ。」
「なんで。」
「魔物もバカにならないわね。
どうやらキバに毒を含んでいたみたい。
もう下半身が痺れてちゃって、、歩けそうもないわ。」
「重症じゃん。」
痛そう。
なるほど、だからあんなところでじっとしてたのか。
「あなたは普通に歩けそうだし、これで生き延びなさい。」
どうしよう。
師匠は、
里の人間や外の世界は関係ないと言っていた。
本当にそうか？
果たしてこれは、俺らが無関係でいられるものなのだろうか。
少なくとも俺は今、目の前にいる、この同年齢くらいの彼女が幸せだとは思わない。
目の前に助けられるものがあるのなら。
それは助けるべきなんじゃないのか？
かといって。
それがきれいごとであることもまた事実なのである。
今、俺が彼女を援護したまま、安全な場所へ移動できるか。
それは不可能に近い。
下半身が動かせないとなると、移動は絶望的。
かといって、移動せずにここに留まるとなると、当然魔物の襲撃が待っている。
その場合、俺だって無限に魔法が使えるわけではないんだ。
詠唱の時間、魔法陣生成の時間だっているわけであって。
ここは確実に、自分の命を優先させるか。
それとも危険だが、俺と彼女、両方の命を優先するか。
参ったなぁ…
難しすぎるわ、この選択……。
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