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作戦の決行③

「あれ?アタシのシューズ知らない?」


予定通り

すごいなー、天野クン

唯ちゃんすっごく焦ってる

かっわいー


「知らなーい」


あ、やっぱり

計画変更してシューズを回収しようとする

唯ちゃん優しいもんねー


「及川」


「なんですか?」


「なんか知ってるでしょ」


「どうしてですか?」


でも及川サンがそれで引き下がるハズないでしょーに

及川サンも良いねぇ

不測の事態なのに、4月に入ってからのいっつもの笑顔を崩さない

それに、知らないとか持ってないとか言わない


「……別に」


だよねー、証拠がないもん

どーする?唯ちゃん

守ってよ、及川サンと伊月ちゃんのこと


「ヤバい、もう先生来る時間なのにシューズがない」


やっぱり伊月ちゃんは不測の事態に弱いなぁ

だから本番に弱いって言われるんだよー


伊月ちゃんは別に本番に弱いわけじゃない

不測の事態に弱いの

大会って人が多い

人が多いと全く予定通りってわけにいかないから

数分のズレが伊月ちゃんを大きく変えてしまう


もちろん、わたしなりに対策は考えたよ

でも多くの人が関わるからわたしにだって細かいことは予測出来ない

何度か色々試して、無理って結果になった

それは先手の対策だけで、後手の対策はちゃんとした

でもわたしだって出場選手だから他人の世話ばっか焼いてられないんだよー


「とりあえず着替えだけして、隠されたこと言えば良いんじゃなーい?」


「うん」


伊月ちゃんがギリギリ着替えたところで先生の姿が見え始める

最後まで唯ちゃんは及川サンと伊月ちゃんを見比べてたけど、部室を出て行ってしまう

やっぱりそーなるよねぇ

楽しみだなぁ


「整列!礼!」


「よろしくお願いいたします!」


「…畑、シューズはどうした」


「誰かに隠されました」


まだ決まってないよー?

わたしがそう言ったんだけど、こうすんなり言ってくれちゃうと将来高級な壺とか買わないか心配だよ


「そうか。その靴でいつも通りのメニューをこなしては痛めてしまうかもしれない。今日はストレッチや軽い走り込みだけにしなさい」


「はい」


さぁ、及川サンの出番だよー

割と天野クン任せだけど、シューズを隠してるってことは上手く誘導出来たってこと

ここからも上手くいくと思うなー


「待って下さい。あの…実は私も隠されたことがあるんです。今解決しておかないとこれから大事な時期ですし、大変なことになってしまう可能性もあるんじゃないでしょうか」


うん、大体予想してた台詞

これなら先生の反応も分かる


では、犯人を捜したら良い


その言葉に及川サンは感情論で返す

だから犯人は及川サン

問題はそこからなんだけどねー

なーんにも知らない伊月ちゃん、ちゃんとやってよー?


「では犯人を捜したら良い」


「先生はなんとも思わないんですか」


思うよねぇー?

昔散々自分がやられたことだもん

今だっていじめってほどではないけど若干の仲間外れだもんね

良い大人が子供みたいなことしちゃって、みっともなーい


「この中に戦う前から負けを認めている者がいるという事実は非常に悲しい。他者を落としても自らの価値は上がらない。及川、シューズを出しなさい」


やり返したって意味がない

それを知ってるから、感情論で反発した及川サンを疑う

この先生のそういう人間っぽくて理性的なところ、好き

ホントだよ?


「どうして私が持っていると思うんですか」


「わたしに異論を唱えたからだ」


「確かに今回シューズを隠したのは私です。でも、私がこれまで様々な物を隠されたり、練習の妨害をされたことは間違いありません。止めてほしくてやりました。悪いことだと思っているので謝罪はします」


素直に認めて伊月ちゃんに頭を下げる

そーゆー子だから協力しよーって思ったんだよねー

可愛い後輩

唯ちゃんをプレッシャーから救ってくれた、可愛い後輩

でも練習の妨害かぁ

それは計算外

どーなるかなー


「すみません。でもこれで気持ちが分かってもらえたんじゃないでしょうか」


さぁて、伊月ちゃんはどう返すかなぁ?

分かってるようなものだけどねー


「反省してるのが分かったし、及川ならシューズ自体にはなにもしてないと思うから許す」


それでそれで?


「でもひとつ確認させて。物を隠されたり練習を妨害されたりって、どういうこと?」


「しらばっくれるつもりですか」


「本当に心当たりがない。練習の妨害ってのは受け取り手によるし、知らない間にやってしまったのかもしれない。だけど、物を隠したことなんてない」


流石伊月ちゃん

今まで世話を焼いた甲斐があったよー


「私からもひとつ質問、良いかな」


だよねー

ここらで自分の作戦の狙いに戻すために割って入る

及川サンがだんまりだったからその感じもないし、良い調子で進んでるねー


「はい」


「物を隠されたのと練習の妨害をされたと感じたのは、どっちが先?」


「……!」


ふふふっ、ここで気付くのはちょっと想定外だったかも

及川サンのこと見くびってた

ごめんね?

でも狙いは部員全員に分からせることだから、唯ちゃんの解説はどっちにしろ入るかなー


「そう、隠したのが私たちだと思っていれば、私たちからの些細なお願いが練習妨害に思える。普通だったら運が悪かった、で済むことがそうは思えなくなる」


「その反応を見るに物を隠されるのが先だったみたいだね。及川がなんの根拠もなく特定の誰かを疑うとは思えない。どうしてアタシらだと思ったの」


「その質問に答える前に私からもひとつ良いですか」


うーん?

伊月ちゃんの言葉で天野クンだって気付くはずだったんだけどなぁ


「私のことを随分信頼してくれてるみたいですけど、どうしてですか。どんな理由があってもシューズを隠したのは私です」


気付かないんだ

恋は盲目ってやつ?

これ使い方違う?


「そういうところ」


どーでも良いや

気付いてくれなくちゃだから、言っちゃおう


「これだって、どーせ誰かにそそのかされたんでしょー」


横からひょっこり顔を出して言うと、唯ちゃんが若干苦い顔をした

もー、ポーカーフェイス!


「……まさか」


お、天野クンだって気付いたね

でもメリットってない

だから誰かに頼まれたんだってなる

誰に?

そんなの決まってる

ぶちょーの唯ちゃんだよ

だって唯ちゃんは優しいからねー


「練習の後に話しましょう。及川さんも言った通り、今は大切な時期だからね」


あ、問題先延ばしにした!

唯ちゃんの悪い癖だぞー!

もぅ、っぽいこと言うしかないよ


「そーそー、強化選手なんだから!」


「それは関係なく、部員全員大事な時期でしょ」


「そーだね、伊月ちゃん」


「ごめんなさい…」


うえぇぇぇ!

なんで泣き崩れるの?!


「ぼさっとしてないで練習!」


唯ちゃんがちらりと見て苦い顔をした方向を見ると、先生が笑顔だった

踊らされてたって気付いたかー

別にどっちでも良いけどねー

あとは先生が上手くやってよね

どーせ犯人、分かってるんでしょ

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