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商法イベント参加者②

3年生のバレンタインデーは去年や一昨年に比べて更に最悪だった

自由登校になって、もう顔を合わせる機会もない

あったとして卒業式

気不味くならずに告白出来る絶好のタイミング


どれだけ考えてもみんなが僕を優しいと言う理由はやっぱり分からない

だけど、僕がそう思わせるなにかをしていることは間違いない

それは去年霧島さんが言ったことからも、これまで告白してくれた子から聞いたことからも、明らかだった


僕は無意識のうちに優しさや、なにかを与えている

それを好意と捉えてもおかしくないんじゃないか

南さんが僕に告白してくれたときに言われた言葉で、そう思った


転校初日から優しかったと言われたけれど、そんなことをした覚えはない

捉え方が人それぞれなら、捉えたものの根源をどう考えるかも人それぞれ

それが好意であると捉えることに不自然さはないことも多いんじゃないだろうか


それが僕が出した結論に近い過程だった


それにしても、朝登校してすぐに言っておいて良かった

もしそうじゃなかったら言えるタイミングなんてなかっただろうから


「お待たせ、霧崎さん」


霧崎さんは長時間待たされたことに文句を言おうとしたのか、口を開きかけた

でも、止めた

霧崎さんのそういう態度は珍しい

それほど怒らせてしまったのだろうか

だったら早く本題に入った方が良いかな


「話しを始める前に2つ確認したいことがあるんだ」


「なに?」


「あれから1年間、僕は霧崎さんに優しかったかな」


「私はそう認識してる」


優しい答え方

去年のバレンタインデー以降、僕は霧崎さんを目で追っている

理由は多分、あのときの言葉だと思う

ずっと考えていた

その度に霧崎さんがあの悲し気な微笑みで僕を見ている気がした

まぁ気のせいなんだけど


霧崎さんはバレンタインデーにチョコレートを渡したことなんてなかったことみたいに、普通に振る舞った

それで、ひとつ気付いたことがある

たまに話していた少し面白いクラスメイトがいなくなった

つまりそれは、僕がそのクラスメイトを認識したということ


僕はバレンタインデーよりずっと前から霧崎さんのことが気になっていたんだ


「今年はくれる?」


「一応ある」


なんだか安心して、思わず小さく頷いた

それから、霧崎さんの目をしっかりと見た


「ずっと去年霧崎さんが言ってくれたことを考えていたんだ」


「答えは分かったの」


「僕は優しくした覚えも誰かになにかを与えた覚えもないんだ。ただ、今日改めて考えて分かったことがあるんだ」


「なに?」


南さんに告白されて分かったとは言わないでおこう

転校初日のことを思い出されると、なんとなく気不味い

2人して僕らの会話を聞いていたって言うんだから


「捉え方が人それぞれなら、捉えたものの根源をどう考えるかも人それぞれ。それが好意であると捉えることに不自然さはない…かもしれない」


「相手は天野くんが自分のことを好きだから優しいと思ってるんじゃなかってこと?」


小さく頷く


「他の人は知らないけど、私は違う」


「じゃあどうして?そういえば霧崎さんはチョコレートを渡してはくれたけど、好きだとか付き合ってとかは言わなかったね」


「言えば断られるだけでしょ」


それはそうだけど

でもそれは


「チョコレートだって同じだよ」


霧崎さんは分かっていたはず

なのにどうして渡そうとしたんだろう


「でも受け取った」


だってキミという人間に、霧崎明美という人物に、興味を持ったから

でもそれじゃ分からないよね

だから分かるように言わなくちゃ


「…市販品は安全が保障されているよね」


これだけで気付いたのか、少し驚いた表情をする

すごい

でも最後まで言わないと


「でも「知らない人」から貰うものは例え市販品でも細工をすることは可能。だから僕は「知らない人」から貰った物は食べない」


クラスメイトは「知らない人」なんかじゃない

そんな平凡なこと、言わないよね?


「出来れば受け取らない」


去年のチョコレートだって落とし物BOXに置いておいた

その日の間になくなっていたから持ち主が持って帰ったんだろう


「僕が去年霧崎さんのチョコレートを受け取った理由は、答えが面白かったから、興味深かったから、本人に興味を持ったから。そして、答えを知りたかったから」


「さっきのが答えなら答え合わせはもうした。バツ、間違い」


「だと思ったから先に質問したんだ」


だって、霧崎さんは「違う」から


「…去年とは違うチョコレートをくれないかな」


一瞬なにかを考えて、鞄から出す


「はい」


「生チョコレートだね。美味しそう」


何故だか一点を見つめて呆然としている霧崎さんに微笑んで問う


「確か、学部は違うけど同じ大学だったよね」


友人に聞いても霧崎さんの志望校を教えてくれなかったから、適当なところにしたら霧崎さんもそこだと教えられた

全く、同じ学校だから良かったものの、違ったらどうするんだよ


「うん」


本人の口から最終確認が出来て良かった


「霧崎さん」


きゅっと手を握る

触れてみれば、なにか分かることがあるかもしれないと思ったけれど、なにもない


「な、なに」


「人の手作りを心から美味しそうと言えたのは初めてだよ。気が変わらなければ、毎年作ってくれないかな」


これも本題のひとつ

目で追っても良い理由に、これがなるかは分からない

でも、ひとつ「約束」がほしいと思った


「それは答えを知るため?」


「それもあるけど…ガナッシュ、本当に美味しかったから」


「私より美味しく作れる子なんて沢山いるでしょ」


「でも食べたくないから」


「私のは食べたいんだ」


だって美味しいからね

それに、興味のない人が作ったものなんて食べたくない


「気が変わらなければね」


手をほどかれて、背を向けられてしまう

それでも、霧崎さんはずっとその場にいた

それがほんの少しの絆のようななにかを証明してくれたような気がした

たったそれだけが嬉しいなんて、変なの

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