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依頼の答え合わせ⑦

紗矢が意図して行動することは大抵誰かのためになる

好奇心が全くないとは思わないけど、でもそういう子だから


わたしも詳しくは知らないんだけど、唯ちゃん後輩クンになにかお願いをしたらしくて

そのお礼がデートの練習なの

心配だから、尾行しよう?

あ、楽しんでないからね?絶対だよ


――なんて、建前に決まってる


唯がしたお願いはこの前アタシのシューズが及川に隠された件で間違いないだろうと思う

それくらいしか唯が自分となんの関わりもない後輩に頼むことなんてない


問題は紗矢の態度

動いた可能性が極めて高いのに、唯だけがお礼をって言っているということは、唯は紗矢が動いたことに気付いていない

そう考えるのが唯に対しての普通

もし気付いたのなら紗矢にもなにかお礼をさせるはずだから


唯がジュース1本で納得するような性格ではないと分かってはいても、デートの練習なんて普通に考えて面倒

でもそれをする理由を、一般的な理由として考えるならば、元から唯が気になっていたか、この一件で好きになったか、だけど…

唯が大好きな紗矢の反応を見るに、それはない


だったらこれしかない

わざと鉢合わせさせるつもり

紗矢の態度から考えるに、その後輩くんが勝手にやることに乗ってあげるって感じなんだろうな

でも後輩くんは気付いて乗って来ないはずがないって思ってるんじゃない?

その子のこと知らないからなんとも分からないけどさ


でも紗矢と一緒にあの作戦を考えた子なんでしょ

それくらい分かってやっててもおかしくないと思うけど


…それなのに紗矢は、本当に楽しそう


「あ、伊月ちゃん、あの子だよー。唯ちゃんは5分前行動がぜっったいだからー、まだ待ち合わせ時間の前みたいだねー」


「うん。ねぇ、紗矢」


あの後輩くんがやろうとしていることに気付いていて、行って本当に良いの?

唯が簡単に人を、紗矢を嫌いになるとは思えない

でもそれを考えてしまうくらい心配

自分の計画を乗っ取って思い通りに動かしたなんて…


「なぁに?伊月ちゃん」


「…紗矢はあの後輩くんのことをどれくらい分かっていると思っている?」


「国語辞典の3単語くらい?なにー?どーしたのー?」


全然分かってない

いや、アタシの聞き方が違ったのかな

本人のことを理解していなくたって、本人の思考の傾向を理解していれば分かることはある

紗矢はいつもそうだから


「おかしな伊月ちゃん。だいじょーぶだよ」


アタシがじっと目を見ると、にへらと笑った


これは気付いてるけど気付いてないフリをするっていうサインかな

だったらまたアタシは全てのことに知らないフリをして、歯車を演じるしかない

でも、それで本当に良いのかな


「お待たせ」


考えている間に来てしまった


「いいえ、今着いたところです」


…ああ、そういう子ね


「そう、それなら良かった」


「私服だと雰囲気が違いますね。似合ってますよ」


うん、そういう子ね


「そう?ありがとう。行こう」


分かっていることなのか、唯に照れた様子はない

紗矢も比較的落ち着いている


「はい」


引き留めるときに腕とか手首とかじゃなくて手を掴む

これが勘違いさせ男のすることなわけだ

隣にいる紗矢は頬を膨らませている


「なに?」


「お礼、なんだか忘れていませんか?」


「デートの「練習」でしょう?」


「デートって言ったら」


手を持ち変える

これは…


「こうですよ」


「なっ…!」


紗矢は案の定酷い顔をしている


「紗矢、落ち着いて。ほどいてる」


「でも手は繋いでる!」


「聞こえるから静かに」


「恥ずかしくても、今日はこれです。大丈夫ですよ、誰も僕たちのことなんて気にしていません」


納得出来ない、みたいな顔で睨みつけている

視線が気になってこっちの方を見たのか、唯とばっちり目が合った


「あ、見つかった」


「えっ、ほんとーだ。慌てて柱に隠れてる。かっわいー。あ、顔覗かせたよ!」


「動物園にパンダ見に来たんじゃないんだから…」


「ねぇねぇ、伊月ちゃん、死角から声かけて驚かせようよ!」


こうなった紗矢を止めるのはアタシじゃ無理


「後ろから付いて行くから好きにして」


「部長さん、誰か見られたくない人がいるな…」


帰る提案をしている

鉢合わせさせるつもりじゃないってこと?


「ゆーいちゃん」


「わっ!ぐ、偶然だね…。紗矢、伊月」


ダラダタと冷や汗をかく唯を余所に、紗矢が繋いだままの手をわざとちらりとだけ見る

慌てて離した唯を見てニタリと紗矢が笑った


「もしかして、デートかなー?いつの間に彼氏なんて出来たのー?なんで教えてくれなかったのー?」


「これはデートの練習に付き合ってあげているだけだから!」


「なにそれー」


「紗矢、それくらいにしてあげなよ」


「でも、わたしの唯ちゃんがー」


「この間のお礼。違う?」


空気が一瞬で変る

唯はハッとしたように私と紗矢を交互に見る

紗矢は嫌そうな顔をして視線を落とす


「アタシは顧問に「明日ハプニングがある。それだけを予告しておく。乗り越えなさい」って言われただけだったから、なにがどうなってああなったのか、詳しくは知らない」


だけど顧問が部員を思いやってやったことだってのは分かる

だからって関係のない生徒を巻き込むのはどうかと思うけど、必要なことだったんだと思う


「手間かけさせたね」


「少し早起きしたくらいです」


…そういう子じゃないと巻き込めないよね


「…聞かないの」


「聞かない。なにも言わないってことは秘密にしたいんでしょ?」


アタシには知られたくないことだってあるし

2人になら話してもって思ったことがないわけじゃない

でも、わざわざ話す必要なんてない

出来れば知らないままでいてほしい


「1年のときからずっと仲良し3人組でやってきたけど、アタシは3人の中に隠し事なし!なんて気持ちの悪いことを言うつもりはない」


だから聞かないよ

正確に言えば、聞けないのかな


「伊月ちゃん、やっぱり大好き!」


「分かったから抱き付かない。だけど紗矢、アンタは唯に言うことがあるはずだよ。唯がやろうとしていることを知って乗っ取ったことくらいは分かる」


あー、嫌な言い方しちゃったな

本当のことだし、良いや


「えぇー、なんでー?」


これでもしらばっくれるんだ、すごいね


「シューズがなくなる理由なんて確かに隠された以外には考えにくい。でも紗矢は言い切って、顧問に言うようにまで言った。だから」


「分かってて作戦に乗ってくれたんだー」


「アタシは及川のこと全然気付いてなかったからなにが起きるかは分からなかった」


今から言うことは絶対に嘘じゃない

でも本当のことだけじゃない


だから嫌いになっても良い

アタシにそれを止める権利なんてないから


だけど許されるなら、卒業までだけは今のままでいたい

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