依頼の答え合わせ③
確かにお礼をさせてと言ったのは私だけど…
なんでデートの練習なんて…!
練習とはいえ仮にもデートなんだから、それらしい服をと思ったけど、洋服ダンスを開けて思い出した
私、そんな服持ってなかった
天野くんのデート相手がどんな子か分からないし、私の好きな服を着れば良い
そんな結論になったのに妹に見つかるなんて…!
このパーカーなら大きめだし、お姉ちゃんでも着られるよ
デートなんだからさ、少なくともボーイッシュは止めよっか
レースがあるしちょっとは可愛らしくなるよ
頑張ってね
って!!
妹よ、デートしたことがあるのか!
お姉ちゃんは許しませんよ!
こ、こんな可愛い服を着て…変に見られないかな…
「お待たせ」
「いいえ、今着いたところです」
「そう、それなら良かった」
「私服だと雰囲気が違いますね。似合ってますよ」
あ、そうだった
例え似合っていなくてもはっきりとはそう言わない子だった
一応似合うって言ったってことは変ではないのだろうけど…
ムズムズする
「そう?ありがとう。行こう」
「はい」
歩き始めると、手を掴んで止められる
気軽に触るから勘違いされるの
私は平気だけどね、私は!
「なに?」
「お礼、なんだか忘れていませんか?」
忘れてない
「デートの「練習」でしょう?」
「デートって言ったら」
手を持ち変える
「こうですよ」
「なっ…!」
こ、恋人繋ぎ…!
無理無理無理無理無理
すっごく手が密着して…!
「今日は練習なので普通の繋ぎ方にしますけど」
「それでも十分恥ずかしい…」
手を繋いでいないカップルなんていくらでもいるのに
…カップル?
彼女がいるのにこんなことしているの?!
「恥ずかしくても、今日はこれです。大丈夫ですよ、誰も僕たちのことなんて気にしていません」
確かに、人は自分が思っているより他人に興味を持たれない
だけど、もし知り合いに見られたら…!
「それに、これなら歩くスピードも合わせられますし」
思ったそばから紗矢と伊月が…!
伊月は良いにしても紗矢には見つかりたくない
柱に隠れて顔を出して確認
見える範囲にいないってことは2階に行ったのかな
「一体どうし」
「静かにっ」
もしかしたら死角にいるのかもしれないし、安心出来ない
「部長さん、誰か見られたくない人がいるな…」
「ゆーいちゃん」
「わっ!」
わざと死角から出て来たってことは隠れるところを見られていたんだ…
最悪
「ぐ、偶然だね…。紗矢、伊月」
繋いだままの手をちらりと見られて、慌てて離した
「もしかして、デートかなー?いつの間に彼氏なんて出来たのー?なんで教えてくれなかったのー?」
「これはデートの練習に付き合ってあげているだけだから!」
「なにそれー」
「紗矢、それくらいにしてあげなよ」
「でも、わたしの唯ちゃんがー」
「この間のお礼。違う?」
その一言に一瞬で空気が変わる
紗矢の態度まで変わったってことは2人とも知って…!
「アタシは顧問に「明日ハプニングがある。それだけを予告しておく。乗り越えなさい」って言われただけだったから、なにがどうなってああなったのか、詳しくは知らない」
天野くんをじっと見る
「手間かけさせたね」
「少し早起きしたくらいです」
肩をすくめて小さく笑っただけでなにも言わない
「…聞かないの」
「聞かない。なにも言わないってことは秘密にしたいんでしょ?」
そうだった
伊月はそういう子
私、目の前の問題ばかり気にして忘れてばかりだったんだ
「1年のときからずっと仲良し3人組でやってきたけど、アタシは3人の中に隠し事なし!なんて気持ちの悪いことを言うつもりはない」
「伊月ちゃん、やっぱり大好き!」
「分かったから抱き付かない。だけど紗矢、アンタは唯に言うことがあるはずだよ。唯がやろうとしていることを知って乗っ取ったことくらいは分かる」
乗っ取った…?
まさかあのとき話しを聞いていたのは紗矢…?
「えぇー、なんでー?」
「シューズがなくなる理由なんて確かに隠された以外には考えにくい。でも紗矢は言い切って、顧問に言うようにまで言った。だから」
「分かってて作戦に乗ってくれたんだー」
「アタシは及川のこと全然気付いてなかったからなにが起きるかは分からなかった」
伊月はあまり周囲に関心ないからね…
「でも出来るだけ誰も傷付かないように唯が一生懸命考えて、紗矢が多分仕込みまでしたその計画の歯車を演じなきゃと思って」
「伊月…」
「じゃあ今日はその話しを3人でしてもらうってことで、僕は帰りますね」
天野くんも一貫してる
それは感心
だけど
「そういうわけにはいかない。約束は約束だから」
「唯ちゃーん、天野くんのそれ、多分ってゆーより絶対嘘だと思うよー?」
「そうなの?」
苦笑いで顔を背ける
そうなんだ
「天野?」
「先輩は自己紹介がまだでしたね、2年の天野明です」
「アンタが天野明?ふーん…、聞いてると思うけど一応。アタシは畑伊月。他に聞きたいこともあるし、付き合って。アンタだって当事者なんだから」
有名人だし、知り合いのことでなにかあったのかな
「…分かりました」
渋々頷いた天野くんを連れてドリンクバーのあるお店に入った




