恋探し①
世の中に不思議なことはいくらでもある
例えば、本当に地球外生命体やUFOといった類の物は存在するのか
そんな壮大っぽいテーマ
例えば、この学校というシステム
ここは社会の縮図である
確かに勉学を教えてもらってはいるが、実際それが役立つ日が来るかは教えてくれないし、どんな道を行けばそれが役立つ可能性が高いのかも教えてくれない
教科書を音読するだけなら生徒にも出来る
それなのに何故我々、基い、我々の親はお金を払っているのだろう
中には嫌な思いをすることだってあるのに
まぁあんな災厄は滅多に降りかからないと信じよう
陸上部のいじめ事件に僕が巻き込まれるなんて災厄は、もう起きない
学年が変わってあの子と同じクラスにならなくて本当に良かった
件の陸上部のいじめが片付いたら、関係ないはずの子に妙に懐かれて困っていた
その噂は学年全員が知っているほど
思い出しただけでも身震いしてしまう
それは兎も角、安心出来る環境が整ったことで身近に最も不思議なことがあることに気が付いた
それは、モテることで男子からひがまれないこと
カースト上位でないモテる人はひがみの対象になる
それが僕の勝手なイメージ
僕があまりにも日陰者ならそうは思わないのかもしれない
だけど、学年が上がりクラス替えをして3週間、少なからず友達はいる
それに割と誰とでも話そうと思えば話せる
そしてそれは、あの悪夢の中にあった2年生のときも同様だった
不思議だ
「めーい、なに考えてんの?」
「去年も今年も沢山チョコレートを貰う機会があったわけだけど」
「両方0個の俺に喧嘩売ってんの?」
決して違う
分かりやすいと思っていっただけ
というかこの友人が0個なのは意外
僕なんかよりモテそうなのに
「どうして同性から嫌われないか不思議だな、と思っていたんだ」
茶々を無視して続けると友人はため息を吐いた
「誰も明のこと敵視なんてしないって」
「なんで?」
「次元が違うから」
意味が分からない
「モテる条件って顔、成績、運動神経が良いとかばっかじゃないんだからさ」
「それ以外にモテる要素が僕にあると」
「明は雰囲気イケメンなんだよ。あと優しいし、なにより1年のときの冴島さん事件があるから」
「あれ事件なんだ。というか3年になった今でも覚えている人がいるんだね」
「敵に回すと怖いって印象付けられたからな。学年中どころか学校中をその情報は駆け回ったぞ」
知らなかった
「それにどうせ、陸上部のいじめの件だって及川さんにアドバイスしたの明だろ?」
及川という名前に心当たりはない
だけど陸上部のいじめには心当たりがある
思い出したくないけれど、印象が強過ぎて今も考えてしまっていたところだ
部長さん関連でなにか勘違いがあるんだろうけど、訂正するのも面倒
適当に話しを合わせておこう
「どうかな。ところで僕は優しいの?」
「無自覚かよ」
「倒れている女の子がいたらどうする?」
「安全な場所に運ぶ」
「そういうコトがさらっと出来ないヤツらばっかなんだよ、世の中」
「なるほど、腐っている」
「人には出来ることと出来ないことがある」
至極当たり前のことだ
泳げない人が川で溺れている人を助けることは出来ない
「人を助けることは良い事だ。でも道端に倒れていた女子高生を40代のおっさんが助けようとして誘拐と誤解されることを恐れることは変か?」
「言っていることは理解した。だけど助けを呼ぶことは出来る。その場合救急車を呼べば良い」
「いや、分かってないな。だから変なのに付きまとわれるんだ」
「変なの?」
友人のため息をかき消すように教室に声が響いた
「明せんぱーい!」
「…誰だっけ」
小さな声で友人に尋ねると、再度ため息を吐かれた
「階段から落ちそうになったところを助けた後輩だ。1年にしてファンクラブがあるほど人気だから気を付けろよ」
「ああ…、確かカナメさんだっけ。お礼はしてもらったはずだけど、なんの用だろう」
「あのなぁ…」
文句は聞き飽きた
よく分からない後輩の相手の方がマシだ
確か素直だし
「どうしたの?」
「近くを通ったから寄ってみただけです」
「そう。もうすぐ授業が始まるから行った方が良いよ」
「そうですね。明先輩の顔が見られて良かったです」
満面の笑みで言われたので一先ず微笑んでみる
…どうしたら良いんだろう
「きゃっ」
廊下も冷暖房完備のこの学校で窓が開いていることは滅多にない
何故か開いていた窓から風が吹き込んで、カナメさんのスカートを巻き上げた
そのとき、なにかの香りが鼻を刺激した
「シャンプーでも変えたの?」
「そうなんです!気付いてくれて嬉しいです」
適当に言ったのにそんなに嬉しそうな顔をされると困る
会話を続けるなら変わってない方が良かったんだけどなぁ
どっちの方が良い?とか聞かれても分からない
前のシャンプーの香りなんて覚えていないから
あ、あと2分で授業が始まる
肩を掴んで教室の方を向かせて、あることに気付く
「良い香りだね。あと2分で授業が始まるよ」
「そ、そうですね…!もう行きます」
席に座ると訝し気な視線で友人が見る
「なに?」
「最後のわざと?」
「あ、肩に触れるのはセクハラだったかな」
ため息を吐いて小さく首を振る
「背後を向かせて耳元で囁く。少女漫画か?」
「いや、僕は漫画家自体目指していないよ」
「分かってる」
だったらなにを聞かれたんだろう
「どうせ授業だって言っただけだろうけど、あんま誤解されることすんなよ」
「誤解…あ、もしかしてあのシャンプー使ってみたら実は嫌な香りだったのかな」
「馬鹿…」