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興味ありません

クリスマスの1ヶ月ほど前から煌びやかだった街のネオンも、今日で落ち着くことでしょう

興味や関連のない人間にとっては意味のない装飾です

私には光に集まる虫のようにしか思えず不愉快でしたので、今日で終わってくれることに清々しています


「ねぇ吉野!」


「はい」


「遠藤先輩って知ってるでしょ?」


…記憶にありませんね

そもそも部活動をしていないので、先輩との関わりは委員会程度しかありません

委員会は集まって話しを聞くだけですし、顔と名前が一致する方が珍しいと言っても過言ではありません

相手もそうでしょうから、失礼ということもないでしょう


「知りません。男性ですか、女性ですか」


「あんな有名人知らないの?」


そう言われても知らないものは知りません

それより、随分慌てた様子ですね


「じゃあ天野くんは?」


「…「くん」ということは男性で同級生ですね」


「知らないってことね」


「そうですね」


「あんな有名人を知らないなんて学校でどう生活してればそうなるの」


「特定の気を許せる友達としかろくに会話せず、放課後になればすぐに家に帰る生活です」


真面目に答えたのに、顔を逸らされてしまいます


「と、とにかくっ、その2人が大変なのっ!」


「聞きますから、落ち着いて下さい」


今日はバレンタインデーです

どちらかがどちらかに告白したのでしょう

一般的に考えるなら遠藤先輩が女性で、天野さんという私と同じ学年である男性にチョコを持って告白したと考えるのが普通でしょう

逆チョコなんて言葉もある時代ですから、正確なことは分かりませんが


「自由登校期間に遠藤先輩がわざわざ来て、校門で天野くんを待ち伏せてたのに天野くん受け取らなかったの!」


「好きでないなら当然だという主義の人もいると思います。受け取ってしまえば、変に期待をさせてしまうだけですから」


「でもあんなに仲良さそうだったのに…」


「見たことがあるんですか」


「うん、一緒にお昼食べてるところを何度か。まんざらでもないって感じだったのに」


価値基準の相違ということですか


「いつ付き合うんだろうって話題になるくらいだった。でも…」


暗い顔ですね

遠藤先輩を私が全く知らないということは、自分とは全く関わりがないのではないでしょうか

解説も「有名人」でしたし

関わりがあるなら遠藤先輩の話しを聞かされたことがあるはずです


なにか個人的な思い入れがあるのでしょうか

それとも…もし自分に起きたら嫌なことでもあったのでしょうか


「覚えてなかったんだって」


「どういう意味ですか」


「そのままの意味。天野くんは遠藤先輩のことを覚えてなかった」


「仲が良さそうで、いつ付き合うのか話題になるような人がですか」


「そう」


髪型に特徴があって、髪型で覚えていたけれど気合を入れてお洒落をしたら別人と間違われた…

にしても悲しいですね

まさか、くらいなら分からなくはないですが、微塵も覚えていなかったような言い方です


「2組の子…天野くんと同じクラスの子に聞いたんだけど、冴島琴子のチョコも受け取らなかったらしい」


「また有名人ですか」


「それもあるけど、名前を呼ばない主義の天野くんが名前を呼ぶの。そんな人のチョコでも受け取らないってこと」


「彼女がいるのではないですか?」


極々一般的な質問をしたはずなのに、その表情はなんですか


「いないよ」


妙にはっきり言い切りますね


「あたしも、天野くんのこと知ってる人全員、誤解してたんだよ」


「誤解、ですか」


「天野くんは確かに天然だと思う。そして優しいと思う。だけど、冷たい人なんだよ」


冷たい人は優しくないと思いますが…


「まるでAIみたいに、人に優しくするように性格が出来てる。でも誰のことも見えてないんだよ」


天野さんという人物の外見すら知らない私は、それに対して反応出来ることがありません

どう反応して良いのか分かりません

ただ、分かることがあります


好きまではいかなくても、憧れのようなものを抱いていたのです

そんな人物がそのような人間だと知ってしまった

例え事実ではなく、思い込みにしても、そう思ってしまった

そう思えてしまう出来事があった

それこそが重要なんです


「ウサギ事件のアイツ、覚えてるでしょ」


「はい、中2の夏休みに飼育小屋のウサギが殺されたことですね。犯人だと疑われた人物がいましたが、決定的な証拠がなく分からず終いでしたね」


あの中学からここへ進学した人物は多くありません

見つければ覚えているはずです

それに天野という名前の生徒はいなかったはずですが、一体なんの関係があるのでしょう


「天野くんが一番仲が良いのがソイツなの」


「…そこは驚くべきところですか?疑われた理由だって前日の当番だった人物の中から「なんとなくこいつだ」となっただけのはずです」


「なんとなくで疑われるような人が、少なくとも良い人のはずないでしょ!」


「それは分かります。ですが、聞いた限りでは似た者同士のようですが」


2年以降は事件のこともあってチョコを渡す人が減ったようですが、それでも渡す人はいました

それに優しかったはずです


「そうだよ。でもあたしはアイツのことが嫌いだった」


「嫌いな人に似た人に好意を寄せていたことがショックなんですか」


「簡単に言えばそんなところ」


どうしてそんなに暗い顔で苦虫を嚙み潰したような顔をしているのか全く理解出来ません


「確か「なんとなくは理由にならない。疑って距離を取るのは個人の勝手だけど、集団で寄ってたかって刑事ごっこなんてなんのつもり」と庇ったのは…」


「あたしだよ。調子の良い笑顔に騙されるように出来てるのよ」


「まるでAIのように…ですか?」


「そう」


言って俯いていた顔を上げます

その顔は、悲し気な表情をするときに良く見る表情でした

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