作戦の依頼⑧
「顧問はとーぜんシューズについて聞く。伊月ちゃんにはその前に「隠された」ってことを認識させるから、とーぜん顧問にもそう言う」
気付いた?
やっと気づいちゃった?
あははははっ!
「へへー、気付いたー?及川サンは悪いことをしてる認識がある。だから一度で済ませたいんだよ。だから作戦を続行させようと顧問に犯人捜しを提案する」
「でも顧問の先生はそういう人ではないと」
「そうだよー?でも犯人が分かってて、流れがあるなら指摘はする。及川サンは伊月ちゃんのシューズを隠した犯人だって顧問に指摘されるんだー」
「なんで楽しそうなんですか」
そこ眉寄せちゃうー?
自分だってホントは楽しいクセに
「だって、自分の思った通りに人が動くなんて…これ以上楽しいことが法律を犯さずに出来ると思うー?」
「…人によるんじゃないですか。世の中は娯楽に溢れていますから」
間があった
やっぱりそーなんだねぇ
「他人が作った世界で満足するの?」
「学校だって檻みたいなものじゃないですか」
「そうだよー?だけど檻は広い。そこそこ自由に動き回れる。誰かが作った世界ってゆーなにかの、どこかにある日本って名前の島国の、東京って名前の場所の、そのまた一区画にある学校、地域。小さな見える範囲が、自分の世界。そうでしょー?」
「確かに「世界は広い、羽ばたけ」みたいなCMは嫌いですけど」
そのCMが嫌いな理由は、「どこへ行っても自分の手の届く範囲は限られているから」でしょー?
わたしもそー
手の届く範囲だけが自分の世界だと思ってるんだー
まー今の時代、電子的に手が届く範囲ってのもあるけど、やっぱり世界は自分の目で確認しないとねー
「わたしがこの学校で見てる世界はわたしだけのものじゃない。この学校に関係してる全員のものだよ。だからそれを操れることが楽しいの」
「…話しが脱線しましたね、戻しましょう。シューズを隠した犯人だと指摘させてどうするんですか」
今の間は「分からないでもない」って思ったからだー
まー、そろそろタイムリミットだし、お望みどーり話しを戻しますかー
「予定通り素直に謝ると思うよー。それで、自分もやられて止めさせたくてやったって言うと思う。だってそれ以外どーしよもないからねー」
唯ちゃんの考えたことの補填はつまらない
だって唯ちゃんは真面目さんなんだもん
でもこの作戦じゃーないと多分天野クンは釣れない
だって、先に唯ちゃんと話しちゃったから
だけどわたしが先に話さなかったのは、先に唯ちゃんと話さなくちゃ駄目だったから
あーあ、セカイって難しー
「気持ちが分かったか、と尋ねられた伊月ちゃんは許した上で心当たりがないって言うよ。だってやってないんだもん、とーぜん。じゃーどーなるか」
「どうしてその先輩だと思ったのか、ですね」
「ご名答!そこで天野クンの出番。もちろん及川サンの回想シーンでだから、だいじょーぶ」
まーた眉を寄せるー!
「そこからは部長さんが言った通りですね。でもその後のことはどうするんですか」
「だいじょーぶ。唯ちゃんは気付いてないけど、顧問は及川サンの物が隠されてるのも、それを唯ちゃんがどーにかしよーとしてることも、犯人も知ってる」
「それなら早々に顧問自ら解決してほしいです。それでは成長しないことは確かですが」
でも自分は巻き込んでほしくないよねー
分かる分かる
わたしだって動いてるのが唯ちゃんや伊月ちゃんじゃーなかったらこんなことしないもん
「そーそー、そーゆー人なの。子供に自力で出来ることはここまでだって分かってるだろーから、なにか考えてあると思うよー。だから任せてだいじょーぶ」
「信頼しているんですね」
テンプレートな気持ち悪いこと言わないでよー
「べっつにー。表面上落ち着けばなんでも良いって思ってるだけー」
「それなら部長さんの案でも良いんじゃないですか?」
「その日の内ってゆーのが重要なの。馬鹿なの?」
んんー?
なに考えてるのかなー?
「部長さんはどうして僕に依頼したんでしょうか」
その話ししてなかったの?
まず聞くところでしょーに
途中で生徒指導に捕まっちゃったから最初から聞けてないんだよー
本題は最初から聞いてた
じゃーそれまでの間なに話してたの?
天野クンのことだから警戒心剥き出しの猫みたいになってるのをなだめられてたのかな
でもちょっと不自然
聞いても答えてくれないだろーし、まー良いや
本人を認識してないってことは、とーぜん気持ちになんて気付くはずがない
でもわたしが言って良いことじゃないし
そもそもこれに関してはわたしホントに関係ないし
「…分かんないなら秘密。あと、下の名前は皐月だから。それくらい覚えてから話しかけるよーに。分かった?」
「分かりました」
なんでって聞かないんだ
それって全くきょーみないってことだよ
及川サン、天野クンは諦めた方が良い
シューズを隠すことを伝える詳しい算段を伝える
文句のひとつでも言われるかと思ったけど、素直に頷いただけだった
なーんか気味悪い
「部長さんには手紙をひとり経由して「概ね予定通り決行」と「その日の朝荷物を職員室に持って行くように頼む」ということを書いて渡します」
「ひとりでだいじょーぶなの?」
「はい、「昇降口で陸上部の部長にって言われたんですけど、どなたですか?」と陸上部員がいるクラスで聞けば怪しまれないと思います。何組が良いと思いますか?」
わたしたち3人がいなくて陸上部員がいるクラスはひとつ
「5組。決行日はどーやって知るの?」
「移動教室で誰もいない時間を複数書いておくので、黒板の隅に日付を書いてもらおうと思います」
「他のクラスの人に見られたら不審がられるでしょー」
「2年生の理科は選択ですから、ガラ空きですよ。それに体育は3つ並ぶ内の2つのクラスが空になります。しかもいるのは階段から遠い方のクラスです」
「分かった、おっけー。巻き込んで悪いけど、よろしくー」
きょとんって表現が合ってるのかな
そんな顔されても困るんだけどなー
「…なに」
「いえ、さっきの話しのこともありますし、友達のことばかり考えているのかと思っていたので少し意外な声かけだな、と」
「わたしにだって良心くらいあるよー、しっつれー」
「そうですね、すみません」
その微笑みを見た瞬間、なんでか顔を逸らした
意味分かんない
どーしちゃったんだろ
「先輩が作る「世界」楽しみにしています」
耳元で囁かれたその声に、久しぶりにゾクゾクした




