作戦の依頼⑦
ああ!
アイツわたしの唯ちゃんに抱き付いてる!
「人が弱っているところに付け込もうとするなんて最低!あなたに協力を求めた私が馬鹿だった!今の話しは忘れて!」
…そっか、わたしに気付いたんだ
犯人かもしれないから協力はしないフリ
良いねぇ、天野クン
でもわたしの唯ちゃんになにしてくれてんの
おこなんだけどー
来るなら作戦だろうから仕方ないし、一度忘れてあげる
このまま戻るとは思えないけどねー
「こんにちは、犯人ですか?」
角を曲がって姿を現した天野クンに手を振ってお出迎えしたのに、その第一声はないんじゃないかなぁ
唯ちゃんに抱き付いたの、おこなんだからね!
「違うよって言ったら、信じる?」
「一先ず」
「そー言うと思った」
だって話し聞きたいもんねー
「じゃー自己紹介から。陸上部所属3年、望月紗矢」
「2年の天野明です」
「ぶちょーである唯ちゃんの提案が補完出来るんだけど、聞くよね?」
天野クンに聞かないなんて選択肢ないよねー?
「ここまで来たら聞きますよ」
「良かったー」
童顔と仕草とか話し方の幼さには惑わされてくれないかぁ
さすが顧問が目を付けた生徒
及川サンだって馬鹿じゃないし、この子は良い、良いよぉ
「ただし、一緒に来ず、部長さんにアドバイスもせず、ここで聞いていた理由を教えて下さい」
「そんなの簡単だよー。唯ちゃんは優しーいの。だからわたしたちを巻き込めない。唯ちゃんの作戦は今初めて聞いたよ」
「それでも補完出来ると」
もぅ、睨まないでよー
「唯ちゃんの考えることなんて、おみとーしだからねー。信じないならあれでやっても良いけど、ほんとーに良いの?」
「少なくともあのまま実行する気はありません」
だよね、だよね
顧問のこと、気付いてもないのに穴だらけだもん
「ただ、内部のことを知らないので僕が作戦を立てるにしても協力者は必ず必要です。部長さんとのやりとりはもう出来ないでしょうから、先輩の話しを聞かせて下さい」
「素直じゃないんだからー」
「じゃあ戻ります。協力はしないので頑張って下さい」
あ、これホントに帰っちゃうやつだ
うーん、あ、そうだ
「先生との喧嘩は良いのかなぁ?」
キッと睨まれる
「あ、誤解しないでよー?顧問に会いに行こーとしたら喧嘩を買うって聞こえただけ。結び付けて考えるのは普通でしょー?」
「廊下でぶつかりそうになったタイミングを考えると聞いているのはおかしいと思いますが」
「んー?覚えてたんだー」
これはほんとーに意外
だってー、何度も名前が出てるクラスメイトの及川サンですら名前覚えられてないじゃない?
「聞いてたのはほんとーにそこからだよ?込み入った話しっぽかったから、出て来るまであそこで待ってたんだよー。2年なら反対の階段から降りると思ったのに、こっちに来るからビックリしちゃったー」
これもほんとー
聞いてたって顧問にバレるとめんどーになること多いから
だからほんとーにその言葉しか知らない
でも証明なんて出来ないけどね
「分かりましたよ。それで?」
信じたわけじゃーなさそう
考えはわたしと同じかなー
証明なんて出来ないから、これについて言い争うのは時間の無駄
そしてやっぱり顧問、先になにか仕掛けたんだ
そっかー、じゃなかったら話し聞いてくれないか
だって自分は全く関係のないことだもんねー
「シューズを隠すのはもっと曖昧な言い方をした方が良いと思うんだー」
「それはその提案自体ですか、それとも対象となる人物についてですか」
「人だよー、決まってるじゃん。例えばー、一番威張ってるヤツとか、自分以外で一番良い選手だと思う人とか…3番目に勢力のある先輩、とか」
眉をひそめる
顔に出ちゃうんだ、かっわいー
「それから、シューズって言わずに部活用の靴、とか、競技用の靴、とかって言った方が良いと思うなー。あと、第三者から見ていじめだと認識されることを本人に気付かせないとねー」
「「相手も悪いことをしている、自分は苦肉の策でやるだけだ」になるわけですね」
「そーそー、あと物を隠されたことがあるかはちゃんと確認してね?言ってないのになんで知ってるのってなると面倒でしょー?」
分かってるとは思うけど念のための確認
うっかりとかされちゃうと、困るからねー
でもまた怒っちゃうかなー?
「はい」
へぇ、素直に頷くんだ
ただの確認だってことが分かるからかなー?
「あとあとー、止めてほしくてやった、だと悪意があることになるのは分かるよね?」
「それは僕も気になりました」
「だから、「自分も隠されたことがあったので、そういう遊びが流行っているのかと思って。先輩と仲良くしたかったので」って言わせる。どー?」
「悪意なき悪意、ですか。良い趣味ですね」
同じこと考えてたクセに
言っちゃおー
「そー?天野クンも同じだと思ったけど?」
「質問という形で悪事を晒し、悪いことなのか質問させれば良いんですね。タイミングが重要でしょうから、トイレにでも行ったフリをするようにでも言います」
「そーだよ、せいかーい」
肯定しちゃうんだー、つまんなーい
どっちとも取れない感じで返してくれると思ったのにー
まーいっか
話しを進めましょー
「っていうのが建前。及川サンに説明するのはその通り。でも実際はトイレに行くタイミングなんてないんだなー」
「部活でやることに僕は関係ありません。僕は僕の役割を理解したので戻ります」
まぁまぁ、焦らずに付き合ってよー
誰か知ってる人がいないとつまんないでしょー?
「全容を分かってないと動けないかもよー?毎日同じネジを作るにしても、それがなにに使われてるのか知ってるのと、ただネジを作ってるのとじゃー全然違うでしょー?」
「分かりました。聞きますよ」
「よろしい!」
わざとらしく咳払いをする
「伊月ちゃんは普通の運動靴で整列することになる」
小首を傾げる
そっか、伊月ちゃんのことは知らないかー
でもしょーがないよねー
伊月ちゃんは名選手なのになぁ
「あ、伊月ちゃんはシューズを隠される人だよー。ちなみに知らせない」
「それで上手くいくんですか」
「うん。伊月ちゃんなら、だいじょーぶ」
興味なさそー
だけど頷いて聞いてくれてるし、まーいっか
「顧問はとーぜんシューズについて聞く。伊月ちゃんにはその前に「隠された」ってことを認識させるから、とーぜん顧問にもそう言う」
気付いた?
やっと気づいちゃった?
あははははっ!




