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作戦の依頼⑥

「顧問はとーぜんシューズについて聞く。伊月ちゃんにはその前に「隠された」ってことを認識させるから、とーぜん顧問にもそう言う」


犯人捜しにはならないと部長さんが言っていた

その場でその話しにならないなら、なんの違いがあるのだろう


…そうか

ひとりいるじゃないか

その話しに出来る…いや、したい人物が

なんで部長さんと話しているときに気付かなかったんだ


「へへー、気付いたー?及川サンは悪いことをしてる認識がある。だから一度で済ませたいんだよ。だから作戦を続行させようと顧問に犯人捜しを提案する」


「でも顧問の先生はそういう人ではないと」


「そうだよー?でも犯人が分かってて、流れがあるなら指摘はする。及川サンは伊月ちゃんのシューズを隠した犯人だって顧問に指摘されるんだー」


「なんで楽しそうなんですか」


どんな理由があったって、悪いことをすることに変わりはないのに

本人にその気があるならまだしも、自分たちが誘導している

それなのに、悪びれないどころか楽しそうなんて…


「だって、自分の思った通りに人が動くなんて…これ以上楽しいことが法律を犯さずに出来ると思うー?」


「…人によるんじゃないですか。世の中は娯楽に溢れていますから」


「他人が作った世界で満足するの?」


「学校だって檻みたいなものじゃないですか」


「そうだよー?だけど檻は広い。そこそこ自由に動き回れる。誰かが作った世界ってゆーなにかの、どこかにある日本って名前の島国の、東京って名前の場所の、そのまた一区画にある学校、地域。小さな見える範囲が、自分の世界。そうでしょー?」


「確かに「世界は広い、羽ばたけ」みたいなCMは嫌いですけど」


どこへ行っても自分の手の届く範囲は限られている

その範囲が自分の世界なんだ

だから僕はそういうCMが嫌いだ


「わたしがこの学校で見てる世界はわたしだけのものじゃない。この学校に関係してる全員のものだよ。だからそれを操れることが楽しいの」


分からないでもない

そう思ってしまったことが嫌だった


「…話しが脱線しましたね、戻しましょう。シューズを隠した犯人だと指摘させてどうするんですか」


「予定通り素直に謝ると思うよー。それで、自分もやられて止めさせたくてやったって言うと思う。だってそれ以外どーしよもないからねー」


一気に興味がなさそうになった

この先輩は一体なにがしたいんだろう


「気持ちが分かったか、と尋ねられた伊月ちゃんは許した上で心当たりがないって言うよ。だってやってないんだもん、とーぜん。じゃーどーなるか」


「どうしてその先輩だと思ったのか、ですね」


「ご名答!そこで天野クンの出番。もちろん及川サンの回想シーンでだから、だいじょーぶ」


言い回しが鬱陶しい


「そこからは部長さんが言った通りですね。でもその後のことはどうするんですか」


「だいじょーぶ。唯ちゃんは気付いてないけど、顧問は及川サンの物が隠されてるのも、それを唯ちゃんがどーにかしよーとしてることも、犯人も知ってる」


「それなら早々に顧問自ら解決してほしいです」


無関係な僕まで巻き込んで…

良い迷惑だ


「それでは成長しないことは確かですが」


「そーそー、そーゆー人なの。子供に自力で出来ることはここまでだって分かってるだろーから、なにか考えてあると思うよー。だから任せてだいじょーぶ」


「信頼しているんですね」


「べっつにー。表面上落ち着けばなんでも良いって思ってるだけー」


「それなら部長さんの案でも良いんじゃないですか?」


「その日の内ってゆーのが重要なの。馬鹿なの?」


分かっている

でも、分からないことがある


「部長さんはどうして僕に依頼したんでしょうか」


「…分かんないなら秘密。あと、下の名前は皐月だから。それくらい覚えてから話しかけるよーに。分かった?」


「分かりました」


納得は出来ないけど


それからシューズを隠すことを伝える詳しい算段を話し合った

一方的に聞いていただけのような気もするけど、まぁ良い


「部長さんには手紙をひとり経由して「概ね予定通り決行」と「その日の朝荷物を職員室に持って行くように頼む」ということを書いて渡します」


「ひとりでだいじょーぶなの?」


「はい、「昇降口で陸上部の部長にって言われたんですけど、どなたですか?」と陸上部員がいるクラスで聞けば怪しまれないと思います。何組が良いと思いますか?」


「5組」


急に言われたのに全く悩まないんだ

この質問を予想していたのか、単に選択肢が他にないのか

まぁどちらでも僕には関係のないことだ


「決行日はどーやって知るの?」


この先輩との会話を部長さんに悟られてはいけないらしい

でもなんとなく分かる

他の部員が関与すると分かったら計画を中止するだろうから


だから僕は決行日を知っているにも関わらず、部長さんから決行日を聞く必要が出て来てしまう

あーあ、面倒

何故こんなことに巻き込まれてしまったのだろう


「移動教室で誰もいない時間を複数書いておくので、黒板の隅に日付を書いてもらおうと思います」


「他のクラスの人に見られたら不審がられるでしょー」


「2年生の理科は選択ですから、ガラ空きですよ。それに体育は3つ並ぶ内の2つのクラスが空になります。しかもいるのは階段から遠い方のクラスです」


「分かった、おっけー。巻き込んで悪いけど、よろしくー」


意外


「…なに」


「いえ、さっきの話しのこともありますし、友達のことばかり考えているのかと思っていたので少し意外な声かけだな、と」


「わたしにだって良心くらいあるよー、しっつれー」


「そうですね、すみません」


微笑んでみせると何故か顔を逸らされた

なんとなくムッとして、耳元で囁いた

触って悪戯するのはアウトでも、これならギリギリセーフだろう


「先輩が作る「世界」楽しみにしています」

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