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作戦の依頼④

「犯人は誰でも良い。分からなくても良い。ただ止めさせたいだけなの。だから、及川さんに言ってほしいの。仕返しに私のシューズを隠してって」


暴論だ

犯人が何故そうした行動をしたかよりも、止めさせることだけが大切


「お断りします。物を隠すという卑劣な行為は許すべきではありません。裁くためではなく、その行動の理由の根を絶つことになら協力しますが…最低ですね」


「私だってそれが一番良い方法だと思う。だけど…」


ぐっと拳を握った部長さんの目からは、涙が零れた


「自信がないの」


「自信?」


「心に巣くっているいる闇から助け出す自信がないの。中途半端は正義は人を傷付ける。もしいじめられたら…学校に来なくなったら…自殺してしまったら…怖いの」


「……………」


確かに水面下で動いたとしても誰も気付かないという保証はない

偶然会話を聞いていない者がいないと断言出来はしない

自分の軽率な言動が誰かの人生を変えてしまう可能性はいくらでもある

ただ、こうして自ら行動しているということは怖がりで責任の分散をさせようとしているとは思えない

この人の覚悟、聞こう


「分かりました。協力するかはまた考えますが、部長さんの考えを聞かせて下さい」


「うん」


力強く大きく頷いて涙を拭うと再び僕の目をじっと見る


出来ないことをしないという選択が出来るのは学生の間だけ

社会に出れば出来なくても出来るまでやらなくてはいけない

だからって練習に学生時代、誰かの人生を壊して良いはずなんてない

それらを全て分かっているような気がする

この人が部長である理由が少し分かったかもしれない


「顧問の先生が本格的に練習を見る日は決まっているの。その日に私のシューズを隠すように言ってほしい」


「問題になるに決まっているんだから自分が隠せば良いじゃないですか」


「及川さんが隠すことに意味があるの。バレたら素直に謝る。それから自分はこういうことをされてきて、止めてほしくてわざと騒ぎになるような日にやったと言うの」


でもそれは隠す後輩に悪意があることになる

それで良いのだろうか

まぁ話しを進めよう


「犯人の罪を被るわけですか」


「違う。私は心当たりがないと言う」


「犯人捜しになりませんか」


「そういう先生じゃないから」


そう言われれば納得出来てしまう対応だった

あまり言及するとボロが出そうだ

さらっと触って次の問題の話しをしよう


「先生については分かりませんが、後日生徒だけになった際誰も言いはしなくても、そういう雰囲気にはなるんじゃないですか」


「だと思う。だから私はこう言う。誰かに私だと思い込ませされるようなことを言われたんじゃないかって」


「犯人捜しですね」


「普通そうなる。でもそこで及川さんは気付くはず。それが天野くんだって」


「なるほど、僕が部長さんの、と誘導するわけですからそうなりますね。でもどうして僕はそんなことをする必要があったのでしょう」


嫌な役回りだ

絶対にやりたくない


「天野くんに悪気はない。誰か全く分からないなら部長のでも隠したら?って言うだけだから」


「それで部長さんが犯人だと思いますかね」


流石にそれは無理があるんじゃないかな


「悪いことをする自覚があるんだから思い込むと思う。相手も悪いことをしている、自分は苦肉の策でやるだけだ。そう思っている間に犯人は勝手に私になる」


なるほど、この作戦には悪いことをする、悪意を持っているという自覚が必要なわけか

けれど知らなかった感情を教えてしまって良いのだろうか


「理屈は分からなくはないです。それで、本物の犯人はどうするんですか?」


「止めてくれるならどうもしない」


「止めなかったら?」


「そのとき考える」


行き当たりばったり

それに、大切なことを見落としている

いや、分かっていて無視しているのか?

どちらにしろ一度指摘した方が良い


「なにも行動しない。それが犯人の運命を変えてしまうかもしれません」


「分かってる。バレなきゃなになっても大丈夫なんだって思ったら、もしかしたら殺人だってしてしまうかもしれない」


殺人とは飛躍するなぁ

でも


「それなら止めてあげるべきです」


「でも自信がないの」


「自分ひとりで救わなくたって良いんです。なんなら救えなくたって良いんです。兎に角犯人だと分かっていることを教えてあげないと」


「犯人の見当はないの」


風が吹いた

特別大きな風ではない

でも、部長さんの小さな声はかき消されそうだった


そしてもうひとつ

建物の影からスカートがなびく影が見えた

誰かが覗いている

もしかしたら犯人かもしれない


これ以上聞かれるのは不味い

人物の見当がつかない以上、部長さんの教室へ僕が訪ねるのも危険だ


そっと部長さんを抱きしめる


「え、ちょっ…!」


「僕がなにか考えます」


わざと大きめの声で言ったあと、小さな声で付け足す


「誰かが聞いています。僕はここに残ってその人物と話すので、戻って下さい」


完全に話しに乗る形になってしまった

まぁ最終はこの作戦に参加することになるんだろうけど…


「突き飛ばして協力しない感じのことを言って走って」


「わ、分かった」


「うわっ」


誰が本気でって言った!

もやし男子と体育女子どっちが強いかなんて分かるでしょうよ


「人が弱っているところに付け込もうとするなんて最低!あなたに協力を求めた私が馬鹿だった!今の話しは忘れて!」


部長さんが走って行くのを見送って角を曲がる

そこにいたのは、満面の笑みで手を振る3年女子の先輩だった

この特徴的な髪飾り…

陸上部の顧問と話したとき、廊下でぶつかりそうになった先輩か?

まぁ誰でも良いや

言うことは決まっている


「こんにちは、犯人ですか?」

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