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作戦の依頼③

陸上部の顧問だと言った先生が言った通りの現実が起こった

あんなことを言っておいて来ないと思っていたわけじゃない

ただ、驚いた

3年生の色のリボンをしている生徒が僕を訪ねて来たのは、その翌日だったから


未来を予見出来るのかと思ってしまう

もちろん、本気ではない

多分クラスやら部活やらの予定を把握して今日辺りに赴くだろうと思ったのだろう

でも、それなら化学のノート集めを頼まれたのはなんだったんだろう


そうか

化学の担任はノートを突然集めると言い出すが、タイミングが読みやすい

それは生徒だけでなく他の先生も同じはず

僕が選ばれた理由は分からないけれど、僕なら頼まれたら手伝っただろう

それを陸上部の顧問の先生が分かっていたかは分からないけれど、来ることを願って他の先生を部屋から出したんだろう


「呼び出してごめんね。私は手毬唯、陸上部で部長をしてる」


「いえ、どんな用件ですか」


同じクラスの陸上部員についての話しだとは知っているけどそれは言わない方が良い

それくらいなんとなく分かる

それに、なんの話しかは分からない

分かっていて呼び出しに応じたのなら、強制的になにかに協力させられる可能性はぐんと高まる


顧問の先生が先回りして僕に話しをした理由は、恐らく僕がその呼び出しに応じないと思ったからだろう

実際、顧問の先生の話しを聞いていなければこの先輩の話しを聞かないだろうし


「上級生の女子に呼び出されたのに冷静だね」


「一度も顔を合わせたことのない人に告白されると思うほど馬鹿に見えますか」


「美人局かもよ?」


「あー、怖い。じゃあ逃げないとー」


棒読みも良いところだ


「逃げないの?」


「違うことくらい分かります。茶番はこれくらいにしてもらえませんか」


「ごめんね、面白くてつい」


顔を逸らして小さく笑う


「戻ります」


「ああ、ごめん。本題に入るから」


小さく息を吐くと真剣な目で真っ直ぐ目を見つめられる


「同じクラスの及川さんのことで話しがあるの」


「なんですか。面倒事は止めて下さいよ」


面倒事だということは既に分かり切っている

でも素直に言うことを聞くつもりはない

仮になんらかの作戦だった場合、それまで黙って聞いていたのに欠陥を見つけた途端反対意見を出すのは不自然

渋々過ぎるのも不自然

ではなにが自然か

面倒事だと分かっていてもやる価値があると思っていると思わせる

断るにしてもこの態度だったら不自然ではないだろう


「そう思うってことは及川さんがなにか悩んでいると思っているってことで良いの?」


「あまり話さないのでそこまでは。でも最近クラスで暇を持て余している印象があります」


昨日のことしか知らないけど


「去年は同じクラスだった?どんな様子だったの?」


去年…分からない

大体、陸上部の子って及川って名前だっけ

これ違う話しだったらどうしよう


「違うクラスでしたので、分かりません」


「じゃあ4月になって同じクラスになってから様子が変わったってこと?」


「そうなりますね」


この話しが本当なら、だけど

あのときの光景が偶然だった可能性は大いにある

観察する時間もなく訪ねて来てしまったからよく分からない

だけのあの感じ、あの空気に慣れていそうだった

でも落ち着きがなかった

近い間になにかの変化があったと見て間違いはないだろう


ただ、それには疑問が残る

僕の属するクラスには陸上部に属する生徒がひとりしかいない

それは顧問の先生の話しや戻ったときに聞いたクラスメイトの反応から明らか

クラスでの変化が部活に関係するのか


「実は4月になってから及川さんの私物が隠されるようになったの。1年のときは違うクラスでも陸上部員で集まって昼休みを過ごしていたみたいなんだけど、来なくなったらしいの」


なるほど、だから暇そうにしていたのか


「つまりその中の誰かが犯人だと思っているということですね。容疑者が絞れているのなら簡単じゃないですか」


「あの子たちはそんなことをするような子じゃない」


「部員を信じたい気持ちは分かります。ですが、物が隠されたのは事実なわけですよね」


「そうじゃない」


――ああ、そうか

4月からというのがポイントか


「当時の3年生を恐れてのことであれば、3年生が引退した時点から嫌がらせは始まっているはず。だから犯人は新入部員の中にいる。そういう推理なわけですか」


それでも不自然な気がする

でもここまで言ったし、続けるか


「ですが、容疑者が絞れていることに変わりはないと思いますが」


「それも違う。そうじゃないの。及川さんは誰のことも疑ってない。誰にも物が隠されたことを言っていない」


「それならどうして知っているんですか」


「上手く隠せているつもりかもしれないけれど、隠せていないから」


話しが分からなくなってきた


「誰のことも疑っていないのに、部員との関わりをひとつ絶った。及川さんは無意識の内に全員を疑っている。だから誰にも言わない。言えない」


「なるほど、確かにそれは問題です。気付いてしまったときのダメージは大きいでしょうから」


僕には全く関係ない

帰りたい

でも喧嘩を買ってしまったから、そういうわけにもいかない


「ただ犯人を捜すだけなら僕の協力がなくても出来ます。なにか僕や男子にしか出来ないことがあるんですね」


「そう。私は犯人は誰でも良い。分からなくても良い。ただ止めさせたいだけなの。だから、及川さんに言ってほしいの。仕返しに私のシューズを隠してって」


暴論だ

犯人が何故そうした行動をしたかよりも、止めさせることだけが大切


「お断りします。物を隠すという卑劣な行為は許すべきではありません。裁くためではなく、その行動の理由の根を絶つことになら協力しますが…最低ですね」


「私だってそれが一番良い方法だと思う。だけど…」


ぐっと拳を握った部長さんの目からは、涙が零れた

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