作戦の依頼②
「犯人は誰でも良い。分からなくても良い。ただ止めさせたいだけなの。だから、及川さんに言ってほしいの。仕返しに私のシューズを隠してって」
「お断りします。物を隠すという卑劣な行為は許すべきではありません。裁くためではなく、その行動の理由の根を絶つことになら協力しますが…最低ですね」
「私だってそれが一番良い方法だと思う。だけど…」
思わずぐっと拳を握った
そして、目からは涙が零れた
「自信がないの」
「自信?」
「心に巣くっているいる闇から助け出す自信がないの。中途半端は正義は人を傷付ける。もしいじめられたら…学校に来なくなったら…自殺してしまったら…怖いの」
本当はその場じゃなくたって自信がない
やって後悔するよりやらずに後悔するのが私なの
中途半端な正義という武器を振り回して人を傷付けてしまったとき、そう決めたの
もうこんな思いはしたくないからって
だから…犯人は特定しない
もちろん全てが同じ結果になるとは限らない
でももし同じ結果になったら?
人生なんて大きなものの責任なんて、どれだけ偉い人にもとれないわ
ましてや私はただの高校生なのよ
そんな無責任なこと、出来ない…
「……………」
しばらく俯いてなにか考えて、顔を上げると私を真っ直ぐ見る
「分かりました。協力するかはまた考えますが、部長さんの考えを聞かせて下さい」
「うん」
涙を拭って天野くんの目をじっと見る
逸らさない
逃がさないから
「顧問の先生が本格的に練習を見る日は決まっているの。その日に私のシューズを隠すように言ってほしい」
「問題になるに決まっているんだから自分が隠せば良いじゃないですか」
最もな言い分
着せなくても良い罪を着せようって言うんだから反対されるのは分かってる
「及川さんが隠すことに意味があるの。バレたら素直に謝る。それから自分はこういうことをされてきて、止めてほしくてわざと騒ぎになるような日にやったと言うの」
「犯人の罪を被るわけですか」
呆れたような言い方
天野くんにはきっと分からない
偏見で悪いけど、トラブルとは無縁そうだから
あっても勝手に周囲の女の子か解決しそう
これじゃ悪口かしら
なんの苦労も知らないって言っているようなもの
それは流石に失礼ね
「違う。私は心当たりがないと言う」
「犯人捜しになりませんか」
「そういう先生じゃないから」
「先生については分かりませんが、後日生徒だけになった際誰も言いはしなくても、そういう雰囲気にはなるんじゃないですか」
知らないからと言ってももう少し疑った方が良いと思う
自分には関係ないからって思っているのかな
呼び出しに応じたときも、少し驚いたような顔を一瞬しただけで素直に付いて来てくれたし
なにか知っているんじゃ…?
「だと思う。だから私はこう言う。誰かに私だと思い込ませされるようなことを言われたんじゃないかって」
「犯人捜しですね」
「普通そうなる。でもそこで及川さんは気付くはず。それが天野くんだって」
「なるほど、僕が部長さんの、と誘導するわけですからそうなりますね。でもどうして僕はそんなことをする必要があったのでしょう」
絶対にやりたくないって顔に書いてある
「天野くんに悪気はない。誰か全く分からないなら部長のでも隠したら?って言うだけだから」
「それで部長さんが犯人だと思いますかね」
「悪いことをする自覚があるんだから思い込むと思う。相手も悪いことをしている、自分は苦肉の策でやるだけだ。そう思っている間に犯人は勝手に私になる」
…と思う
「理屈は分からなくはないです。それで、本物の犯人はどうするんですか?」
「止めてくれるならどうもしない」
「止めなかったら?」
「そのとき考える」
ため息を吐かれてしまう
行き当たりばったりだってことは分かってる
それに…
「なにも行動しない。それが犯人の運命を変えてしまうかもしれません」
そうだよね
分かってる
「分かってる。バレなきゃなになっても大丈夫なんだって思ったら、もしかしたら殺人だってしてしまうかもしれない」
「それなら止めてあげるべきです」
「でも自信がないの」
「自分ひとりで救わなくたって良いんです。なんなら救えなくたって良いんです。兎に角犯人だと分かっていることを教えてあげないと」
どうして必死に言うの
今まで気だるげだったじゃない
なんなら自分は関係ないって顔してたじゃない
「犯人の見当はないの」
風が吹いて、私の小さな声はかき消された
そっと抱きしめられる
「え、ちょっ…!」
私はあなたに近づきたくて軽い相談をするような軽い女子どもとは違うの!
真剣に悩んでこの方法を考えて、及川さんが好きな相手なら突飛な話しを素直に受け入れると思ったから天野くんにしたの!
「僕がなにか考えます」
今までで一番大きな声
誰かに聞こえてしま…!
まさか誰か聞いて…
「誰かが聞いています。僕はここに残ってその人物と話すので、戻って下さい」
自分にとってはただの手段でも相手がどう思うかは分からない
こうやって女子たちを勘違いさせてきたんだ
及川さんがこういうことに弱いとは思わないけど、きっと無自覚に色々しているのね
「突き飛ばして協力しない感じのことを言って走って」
「わ、分かったわ」
小声で言われた言葉に小声で返答し、突き飛ばす
「うわっ」
え、そんなに強く押してないんだけど
でも心配してる素振りなんて見せられない
「人が弱っているところに付け込もうとするなんて最低!あなたに協力を求めた私が馬鹿だった!今の話しは忘れて!」
思ってもいないことを言って、走った
そういえば、天野くんはどうして自分を選んだのか聞かなかった
最後にしようと思ったけど邪魔が入ったから聞けなかったのかな
でも普通気になって最初に聞くよわね
やっぱりなにか知っているのかしら?
それにしては及川さんのことをあまり理解していそうじゃなかったわよね
…よく分からない子




