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相手役探し②

私の名前は有住院鹿目

誰もが振り返る、自他共に認める美少女


なんとなく分かると思うけど、私は自分のことが好き

でも、ひとつだけ好きになれないところがある

それは名前

鹿目っていう男っぽい名前の方じゃない

有住院っていう印象付けたいモブみたいな苗字の方


推理小説で大した言動もないのに犯人って場合大体名前が特徴的

だから私は、この名前が嫌い

名前を呼ばれるたびに、お前は所詮モブだって言われているような気がする


私は誰もが認める美少女なのに、どうして


どうして私はこんな学校や家という狭い世界で鬱屈と日々を送っているのだろう

本当ならヒロインのはずで

相手役の男の子はせめて高校生になれば現れるはずだった


それなのにどうして


「有住院さん」


だから!

私をその名前で呼ばないで!


「なに?」


「次移動教室だよ。一緒に行かない?」


田中美智

高嶺の花扱いされて若干クラスで浮いている私に時々声をかけてくる

どれだけ不機嫌そうに返事をしても、一日に一度は必ず話しかけてくる

平凡な名前で優しいこの子がきっと、物語の主人公

だから嫌い

そうやって人に当たる自分はもっと嫌い


「そうだった。ありがとう、行こう」


「うん」


必要な物を持って歩き出すと、隣に来て歩く


「もしかして、誰かに声かけられるの待ってた?」


そんなわけないじゃない


「どうして」


「教科を確認せず準備して、正しい方向に歩いてるから」


「田中さんが理科総合の教科書を持っていたから。それでこの前の授業に言われたことを思い出しただけ」


「そう、本当は寂しいんじゃないかって思ってたから。違うなら良いの」


「寂しくはない」


確かに私は可愛い

だけど、こんな扱いを望んだわけじゃない


「ただ、少し…悲しいだけ」


「悲しい?」


「フィクションではいつだって高嶺の花は損な役回り。名前だってそう。フィクションの通りに現実が動いているのが、悲しいの」


「…有住院さんっていっつもそんなこと考えてるの?」


零れ落ちてしまった本音

それに対して「そんなこと」なんて言われるとは思っていなかった

やっぱりこの子は根っからのヒロインなんだ


「あ、言い方間違えた。待って、えっと…」


ヒロインのような役回りが出来る人に私のことなんて分からない


「私も似たようなこと思ってたから」


「田中さんは違うでしょ」


「違わないよ。平凡な名前だから平凡な人生しか送れないって思って。だからいつもモブみたいな行動を自分で選んでる。それを悲しいと思うの」


「悲しい…」


「そう、悲しい。今だって高嶺の花がクラスに馴染む手助けをする、ただのモブ」


それは私でしょ

田中さんの株を上げるために登場するモブ


「それを自ら選んでしまうのが、悲しい。有住院さんと話すこと自体は楽しいよ。でも役割を自分で決めてしまって、それを抜け出そうとしない自分を悲しく思うの」


名前の呪縛から逃げ出せない悲しさ…


「私もそうなのかな」


「そうなのかもね」


それなら試してみようかな

背が低いから視界に入り辛くて自分で人を避けてばかりだった

気付かないフリをして、ぶつかったらどうなるのか

漫画っぽい演出もある

だって、すぐそこには階段

私がモブじゃないならきっと、落ちる前やそのときに助けてくれる人がいる


「そこの男子、左見て!」


「へ?」


ネクタイの色が違う

あれは確か3年生

どうしてこんなところに


私を助けようと走っている

きっとこれが運命なんだ


「あ、」


やっと私に気付いた男子

それでもぶつかってしまう


「きゃっ」


わざと女の子っぽい声を出して、身体を逸らす

でもそこから見えた景色は、想像よりも恐ろしかった

なにも知らずに落ちる人みたいに、反射的に腕を伸ばしていた


その腕を引っ張られて、頭を抱えた状態で廊下に引き戻される


「大丈夫?」


「は、はい…」


「あ…有住院さん、ごめん…」


なにか言わないと

私が悪いの

だから……でもごめんなさい


「本当、どこに目つけてるのっ?」


「ごめん」


「さっきからそれしか言ってないじゃない」


役割やキャラを簡単に捨てることも忘れることも出来ない

今までそうやってしか生きて来なかった

だから、どうすれば良いのか分からない


「ねぇ」


耳元で囁くように声がした


「ひゃうっ」


変な声が出たっ


「僕はいつまでこの体制でいれば良いかな」


耳が赤くなってるのが分かる

それを誤魔化すために抱き付いて、それっぽい台詞を吐いた


「怖かったです…」


「そうだね」


ゆっくり頭を撫でられる


「でも避けてもらえるとばかり思っちゃいけないよ。自分で行動しないといけないときもあるからね」


わざと避けなかったことに気付いて…


「はい…」


ああ、私は本当に馬鹿だ

だからいつも、いつまでも、モブなんだ

変われないのかと思うと悲しくて涙が溢れた


先輩はずっと優しく頭を撫でてくれていた


「先輩…名前聞いても良いですか」


涙はそのうち自然と収まった

気付かせてくれたこの人が私の相手役かもしれない

名前を聞いておかないと


「天野明」


「私は有住院鹿目です。助けてくれて、ありがとうございます。あと、ご迷惑おかけしてすみません」


「何事もなくて良かったよ」


「何組ですか?」


一瞬視線が逸らされるのが、見なくても分かった

今から言うことは嘘


「2組だよ。でもお礼なんて良いから」


もう会いたくないってこと?

絶対探し出す


「そういうわけにはいきません。今度伺います」


立ち上がって一礼すると投げ出してしまった荷物を持って実験室へと走った


そういえばぶつかった男子…

どうでも良いや


これから私はヒロインになるんだから

天野先輩を落として、モブからヒロインに昇格

ちゃんと用意されてたんだよ、私の物語

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