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依頼の依頼

何故か僕は雑用を頼まれることが多い

僕自身じゃなくても手伝ってと頼まれる

そしてそれを引き受けてしまう

今も化学のノート集めと職員室へ持って来ることを教科担任に頼まれて、終えたところだ


この学校は先生が多いせいで職員室がいくつもある

担任を持っていない理科系の先生がいる職員室は何故か理科室から遠い

本当に謎


「天野くん、少し良いかな」


初老という言葉が似合う、狸爺ですと言っているような顔が僕を呼び止めた

こんな先生は見たことがない

関わりがない先生に名前を覚えられるような問題行動をした覚えはない

…ということは、また頼まれ事か


他に先生はいない

誰かに聞かれては不味いことを頼まれるということだろうか

僕を売ったのは誰だ

普通に考えれば化学の教科担任か


「嫌です」


「警戒心剥き出しの猫のような態度だ」


「当然です。僕は先生のことを知りませんから」


「確かにそうだ。でも聞くだけ聞いてくれないか。きみのクラスメイトのためでもある」


全く興味がない


「…きみは表情豊かだね」


初めて言われた


「表情筋の動きこそ少ないが、すぐ顔に出る。興味がないなんて言わずに、世間話だとでも思って聞いてくれないか」


それも初めて言われた


「話しを聞いたら頼まれ事を引き受けてしまいそうなので嫌です。失礼します」


ドアに手をかけた瞬間


「それなら仕方がない。話しも聞いてくれなかったと言ったらきっと化学の授業ではパシリのように使われてしまうだろうけれど、仕方がない」


「…教師が脅しですか」


「可能性の話しをしただけだよ」


「話しを聞いたら引き受けてくれなかったと同じように可能性について言うんですか」


面倒だ

関わりたくない

帰りたい


「いいや、さっきからわたしは話しを聞いてくれとしか頼んでいない。キミが勝手にお願いがあると勘違いしているだけだ」


笑った顔は本当に狸爺としか表現出来ない


「僕がここで話しを聞くだけで誰かのためになるはずがないです」


「それは聞いてみないと分からない」


もうこれ以上の抵抗は無意味か

売ったということは見返りがあるだろう

それに期待するしかないか


「分かりました。話しは聞きます」


「良かった」


自分の正面の椅子を引いて勧められる


「長居するつもりはありませんので、立ったままで結構です」


少し寂しそうに笑っただけで、なにも言わなかった

そういうところで人間味を出すのは卑怯だと思う


「わたしが顧問をしている陸上部には少し問題がある」


「そうですか。それでは」


「待ちなさい。話しは終わっていない」


「僕には関係のないことです」


「全く関係のない生徒にこんなことは言わない。同じクラスに陸上部の生徒がひとりいるだろう」


クラスメイトが入部している部活動なんて覚えているはずがない


「1年の頃からエースなんだが…。及川皐月という生徒だ」


興味がない


「その子について陸上部の3年生から話しがあるはずだ。聞いてやってくれないか」


「やっぱりお願いじゃないですか」


「本当だ」


驚いたように、けれど愉快そうに、笑う

僕は不愉快だ


「しかし特別なお願いではないだろう?」


「それ、断ったらどうなるんですか?」


「天野くんにはなにも起こらない」


嘘だ


「本当だ。わたしからは以上だが、質問はあるかな」


これを確かにしておこう

見返りを受け取る必要があるから


「誰から僕を買ったんですか」


「聞かなくても分かるはずだ」


「はい、でも言葉にすることは大切なことです」


睨むように見る僕を笑って見ている

いけ好かない先生だ

なにもかもを見透かしたような人は嫌いだ

本当はなにも見えていないクセに


「わたしだよ」


「…はい?」


「誰からも買ってなどいない。きみに目をつけるだろうと思ったから先回りしただけだ。今ここへノートを持って来たときにわたししかいないことは全くの偶然だ」


信じられるはずがない

3年の生徒が僕に目をつける?

昼休みのど真ん中に当たる時間に他に先生がないのが偶然?

そんな馬鹿な話しがあるか


「きみは及川皐月を認識していないようだが、及川皐月はどうだろう」


「クラスメイトなんで、顔と名前は一致するかもしれませんね」


それだけじゃない

そう言いたいことくらい分かる

でも話したこともないクラスメイトがなんで…

そうか

僕が認識していないだけで話したことがあるのか


「もう少し他人に興味を持った方が良い」


「興味を持ちたいと思わせてくれたのなら、持ちますよ」


「そうか。少しは及川皐月に興味を持ったか」


「クラスへ戻ったらどの子か確認はします。でも先輩の話しを聞くかは別です」


「では予言しよう。きみは必ず協力する」


協力?

先輩が僕になにを話すか知っているということか?

それとも自分が用意させた台本を言わせるつもりか?

どちらにしろ、その話しを生徒に任せる理由が分からない

明らかにこの先生が交渉した方が話しが早い

というより、僕は恐らく協力するだろう


「期待しているよ」


「分かりました。その喧嘩、買います」


「喧嘩を売ったつもりではなかったが、引き受けてくれるようで良かった」


別にあの先生が言ったように、おい…誰だっけ、陸上部のクラスメイトに興味を持ったわけじゃない

あの先生が片付けようとしている問題に興味を持っただけ


「失礼します」


廊下の角を曲がると、誰かとぶつかりそうになった


「すみません、大丈夫ですか」


「うん、ごめんねー」


大きな満月の髪飾り…

綺麗な髪飾りだけど、少し変わった趣味をしている


「ねぇ、陸上部の子ってどの子?」


教室へ戻ると適当な場所にいた女子に声をかけた


「皐月だよ」


クラスメイトが向いた先には少し色黒の肌で、髪をポニーテールに結った女の子が暇そうに足をぷらぷらさせていた

なにか言って呼ぼうとしたのを人差し指で防ぐ


「ありがとう。このことは2人の秘密だよ」


「うん…!」


確かに話したことがある気がする

でもなんだったかな

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