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見つけたわ②

ただでさえ建物の地図を読むのは苦手なのに、入り組んでいる

入学式なんてダルいし、帰りたい


「やった!同じクラスだ!」


「本当だ!2組に3人とも名前ある!」


「良かったー!俺だけ違うのがテンプレだからドキドキしてたんだから」


同じクラスか

声をかけるのは面倒だから、こっそり後ろから付いて行こう

同じ中学だったんだな

羨ましいとは思わないけど、若干の憧れがないわけではない


「――いた」


微かな声が聞こえた気がした

普段でも振り返らないけど、今は殊更振り返るわけにはいかない

あの3人を見失うわけにはいかない

見失ったら完全に迷子だ


「えー?真美あんなのが好みなの?」


「好みというわけではないわ。でも、気になるの」


切なそうなその声に、つい振り向いてしまった


「それって好みってことだよ!ニュースニュース、ついに真美のお眼鏡にかなう子が現れた!」


目が合ったその人物は良質な物を身に付けていた

声に似合わないその外見に、思わず声をかけた


「なにか?」


互いに隣の五月蠅い取り巻きは無視した


「名前、聞いても良いかしら」


「先に名乗るのが礼儀だと思います」


まぁ僕から声をかけたようなものだけど

さっきから五月蠅い取り巻きがなにか言いそうなのを手で制する仕草は慣れている


「3年の遠藤真美」


「1年の天野明です」


ああ、完全にあの3人を見失ってしまった

この人に聞くか

でも文句言われるかな

だって見失ってしまった

背に腹は代えられない


「…ところで、教室の場所は分かりますか」


「地図があったでしょ」


予想通りの反応ありがとう


「普通の地図なら読めるんですけど、建物の地図を読むのは苦手で」


だって仕方がないじゃないか

田舎には建物の中の説明が必要な建物なんて滅多にないんだから


「それならどうやって教室に行こうとしてたのよ」


「偶然同じクラスの子が騒いでいたので付いて行こうと思っていたのですが、当然のごとく見失いました」


事実だけを述べただけのはずだったのに、先輩を悪く言ってしまった気がする

やっぱり怒ったっぽい

怒りっぽい人は嫌だなぁ


「送って行ってあげるわよ」


「場所だけ教えて下さい」


思わず速攻で言ってしまった

仮にも物を頼む態度ではない

だけど、だって、今だってすごく目立っている

クラスメイトだと分かればあとでなにか聞かれそう

ちょっと嫌味でも言っておこう


「先輩、多分ずっとここで見ていたんですよね。綺麗ですし、話題になっている可能性があります。目立ちたくないんです」


「褒めてくれるのは嬉しいけど、読めなくても見れば分かるでしょ。ぐねぐねしてて説明しにくいのよ」


綺麗って言葉だけに反応した

気付かないのか、つまらない


「……じゃあ良いです。自分でなんとかします」


なんとか出来るかな

その辺の人捕まえて聞こう


「待ちなさい。親の金で「綺麗」に着飾って虚しくないのかって、そう言いたいなら言えば良いじゃない!」


気付いたんだ

最初に気付かなかったのに、なんでだろう

まぁ僕には関係のないこと


「じゃあ頼みます。案内お願いしても良いですか、髪の「綺麗」な先輩」


髪も肌も、ただ良い物を使えば綺麗になるわけじゃない

そんなことくらい誰でも分かる

でも髪も肌も綺麗

この先輩なりに努力している証拠


そういうのは、嫌いじゃない

僕が立ち去る前に嫌味にも気付いたことだし、総合してまぁ嫌いじゃない


「2人は教室に戻っていて」


「え?一緒に行くよ」


この人は馬鹿なの


「目立つでしょ」


「ふふっ、ありがとうございます」


「早く来なさい」


さっきの2人がしていたように、半歩後ろを歩く

話すことはないので無言


「ひと昔前の理想の伴侶じゃないんだから隣を歩きなさいよ。それともアタシの隣は歩きたくないわけ?」


「違います。3歩です」


ひと昔前の伴侶の歩数だけ訂正

ご希望通り隣を歩く

案内してもらっている身だ、これくらいの言うことは聞かなくては

言う通りにしたのに若干不服そうに見えるのはなんなんだろう


「ここまで来れば分かるでしょ」


「はい、ありがとうございました」


頭を下げる僕をちらりとだけ見て歩き出す

その背中がなんだか寂し気で、思わず呼びかけた


「先輩」


「今度はなによ」


文句を言いながらも振り返ってくれる

本当は優しい人なのかな、なんて想像してみる

でも想像は想像

言ってしまえば、妄想だ

レッテルのようななにかを張り付けて、こういう人だって決めつけて見る

それは押し売りと変わらない行為だ


「王子様は待つより探した方が効率が良いですよ。選べる王子様はひとりですが、出会える王子様は沢山いるはずです」


今の生活に不満がある

…いや、それは違う

ただ満足していないだけだ


そして、ひとつひとつの出来事に負の感情がついて回っている

だからこの先輩は笑わないんだ


「…そうね。ありがとう」


やっと見せたその笑顔は、儚く寂し気だった

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