見つけたわ①
アタシはいつも入学式の日、昇降口で見ている
新入生を部活に勧誘しようとか、そういうのじゃない
ただ、どんな子が入学するか見たいだけ
取り巻きはイケメン探しでもしていると思ってるみたい
だから周囲であの子がイケメンだとかこっちの方が良いとか騒いでる
イケメンなんて興味ない
どうでも良い
アタシはただ見たいだけなの
正確には見つけたいのかもしれない
なにかを変えてくれる人を
現状から救ってくれる人を
別に今の生活に満足してないわけじゃない
でも、満足はしてない
不満でなければ満足している
その考えが腐っているのよ
だからアタシは父さんが嫌い
満足か、という問いに不満ではない、と答える
それが精一杯の抵抗なの
親が偉ければ子供が偉いなんて、そんなハズない
恩恵を受けられることに感謝はしてる
でもアタシは「このアタシ」じゃないアタシがほしい
それを手に入れることが簡単じゃないことくらい分かるわ
それに、ただのないものねだりってことも分かっているのよ
そんなの…分かってるのよ
多分貧乏に産まれたらお金持ちになりたいと願うんだもの
それでもアタシは――
「――いた」
「なになに?イケメン?」
「イケメンではないわね」
「じゃあ気になる子ってことだ!どの子?」
平凡そうな顔立ち
眠そうな表情
でも不思議なオーラをまとった子
「えー?真美あんなのが好みなの?」
「好みというわけではないわ。でも、気になるの」
「それって好みってことだよ!ニュースニュース、ついに真美のお眼鏡にかなう子が現れた!」
うるさいわね
アタシはひとりしか取り巻きにした覚えはないのに、いつの間にかくっ付いていた
ひっつきぼぼなのかしら?
こちらの視線に気付いたのか、単にうるさかったのか、とにかくあの男子生徒がこっちの方を見る
――いや、確かにアタシを見てる
「なにか?」
「名前、聞いても良いかしら」
「先に名乗るのが礼儀だと思います」
ひっつきぼぼの方の取り巻きがなにか言いそうなのを手で制する
この子の言うことが正しい
それにこの子に話させると感情論ばかりでうるさいのよ
「3年の遠藤真美」
「1年の天野明です」
女の子なら普通だと思うけど、男の子にめいって変わった名前ね
「…ところで、教室の場所は分かりますか」
これ天野くんのって意味よね
別に案内するのは構わない
でも一応アタシにもメンツってものがあるから、ごめんね
「地図があったでしょ」
「普通の地図なら読めるんですけど、建物の地図を読むのは苦手で」
同じでしょ
「それならどうやって教室に行こうとしてたのよ」
「偶然同じクラスの子が騒いでいたので付いて行こうと思っていたのですが、当然のごとく見失いました」
あくまで先に声をかけたのは自分なのにアタシが悪いみたい
でも事実を述べているだけね
やっぱりさっきの気になる発言なし
ちょっと苦手かもしれないわ
でもそういう人と関わることも大切だわ
今日限りだろうし、付き合いましょ
「送って行ってあげるわよ」
「場所だけ教えて下さい」
仮にもそれが人に物を頼む態度なわけ?
「先輩、多分ずっとここで見ていたんですよね。綺麗ですし、話題になっている可能性があります。目立ちたくないんです」
表情変えずにサラッと綺麗って言ったわ
この子なんなの!
「褒めてくれるのは嬉しいけど、読めなくても見れば分かるでしょ。ぐねぐねしてて説明しにくいのよ」
「……じゃあ良いです。自分でなんとかします」
そういうこと
綺麗ってそういう意味
やっぱりこの子嫌いだわ
「待ちなさい。親の金で「綺麗」に着飾って虚しくないのかって、そう言いたいなら言えば良いじゃない!」
静かに笑う
「じゃあ頼みます。案内お願いしても良いですか、髪の「綺麗」な先輩」
髪も肌も、ただ良い物を使えば綺麗になるわけじゃない
それなりには努力が必要なのよ
きっとそれを分かって言ってるんだわ
この子…本当に好きじゃない
別に笑顔がどうとか、そんなこと思ってなんてないわ
その淡泊な無表情よりは遥かにマシってだけよ
「2人は教室に戻っていて」
「え?一緒に行くよ」
「目立つでしょ」
「ふふっ、ありがとうございます」
「早く来なさい」
黙ってアタシの半歩後ろを歩く
「ひと昔前の理想の伴侶じゃないんだから隣を歩きなさいよ。それともアタシの隣は歩きたくないわけ?」
「違います。3歩です」
そこしか訂正しないのに隣には来るのね
この子に意味を求めるのは難しいのかしら
「ここまで来れば分かるでしょ」
「はい、ありがとうございました」
頭を下げる後輩くんを放置して歩き出す
「先輩」
「今度はなによ」
振り返ると、妙に真剣な目をしていた
「王子様は待つより探した方が効率が良いですよ。選べる王子様はひとりですが、出会える王子様は沢山いるはずです」
この子…
「…そうね。ありがとう」
言葉を借りるなら王子様候補…かしら?
見つけたわ
やっぱりアタシの勘は間違ってなんてなかったのよ
だって、「このアタシ」じゃないアタシを見てくれたのは天野明、アナタが初めてなんだから
「決めた」




