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誠意?①

今日も蝉が自分の命を燃やして鳴いている

既に教室で席に着いている僕からは本来聞こえないはずの音


「おはよう明くん、暑いね~」


そう言う割にこの友人はニコニコと涼しい顔をしている


「おはよう。暑いと認識すればより暑いと思ってしまうよ。だから風を涼しいと思うようにすると良いと思うんだ」


この教室が暑いことには理由がある

冷暖房設備が壊れてしまったこの教室は土曜になるまで扇風機と自然の風で乗り過ごさなくてはいけない

夏本番というただでさえ過酷な時期に過酷な状況にある

どこか空き教室へ移動させてくれれば良いのに、3日間くらい我慢しろとのお達しだ


確かに面倒であるのは分かる

移動するこっちだって面倒だ

だけど座って息をしているだけで命が削られていくような感覚に比べればマシどころの対比ではない

今日を入れて残り2日の辛抱

残り2日…

2日もあるのか…


「なるほど~」


女子3人組が登校して来て、クラスが騒がしくなる

中心人物の席周辺の人口密度が高くなる

普段でも思うけど、今は特に席が近くじゃなくて本当に良かった


それにしても今日もご機嫌取りか…、ご苦労様

この暑い環境でよくもまぁ、ゾロゾロとまとまろうと思うよなぁ

風通しが悪くなる

中心人物はそれよりも威張ることの方が大切なのかもしれないけれど


そこでふとある疑問が湧いた

暇だし、聞いてみようか

あの周辺は五月蠅いし、聞こえないだろう


「ところで、何故女子のカースト1位はあの派手で下品で馬鹿な3人組なんだろう」


「知らないけど、親が金持ちだからじゃない?」


「親が金持ちだと自分も偉いんだ。知らなかった」


ため息を吐かれる

そんなことを言った覚えはないけど


「天野?今ウチらの方見てなに話してたの?」


そういうことか

彼女たちは僕の死角にいた

僕と向かい合っていた友人は彼女たちが近づいて来るのが見えていたのだろう


自意識過剰だと言っても良いけど、面倒なことになっても困る

しかも彼女らは「ウチらの方」と言っている

更に言えば僕はちらりとも彼女らを見ていないのだから、話しの内容を聞かれていたと考えるべきだ

ただ、こうして少し上機嫌気味で聞いてくるということは単語しか聞こえていないのだろう

なにが聞こえていたか分からない以上、そこそこ本当のことを言うべきだ


「今日のアクセサリは僕のセンスからすれば下品だ、少し前にしていたピンク色のアクセサリの方が派手ではあるけど、どちらかを選択するなら好みではある」


「ばかっ」


単語しか聞こえていないのなら割と良い逃げだと思うけれど、怒られた


「って言ったからどんなアクセサリか確認しようとしたんじゃないかな」


「あれが天野の好みなんだ…」


「今日のと比較するならね」


嘘だけどね

ピンクならしていたことがあるだろうなと思って言っただけで、していたかどうかも知らない

もししてなくても適当に誤魔化せると思って言っただけ


「じゃあ天野の好みは?」


「もう少し落ち着いた色の物かな」


「寒色系ってこと?」


そんな言葉を知っていたとは意外だ

寒色系でも派手なものはあるけど、まぁ良いや


「そうだね。それから、ラメが反射して眩しい」


「今ウチ輝いてるってこと?」


馬鹿にポジティブがプラスされるとこうなるのか


「物理的にね」


「えぇー、嬉しい」


聞いてねぇ


「ねぇ天野」


「なに」


わざわざ呼びかけられなくても聞いている

あと声が甘くて気持ち悪い


「天野がウチに似合うと思うアクセ、選んでくれない?」


他人に自分の趣味を馬鹿にされたのにコイツなに言ってんの

うーん、でもこのまま教室で威張られるのも面倒だし少し労力を使うか

良い物もあるし


「良いよ。明日渡す」


「一緒に選ぼうよ」


「どんな物にするからもう決めてあるから」


「そうなの?じゃあ楽しみにしてる!」


「明日一日外さないでね?」


「うん!」






翌日彼女はクラスの笑い者になった

付けているアクセサリーがこの町のダサいゆるキャラのヘアピンだからだ


「に…、似合う…よ…」


なんとか笑いを堪えてそう言うと彼女は顔を真っ赤にした


「役場へパートに出ている母さんが買わされて家に沢山あってね、そういえばお父さんが市長なんだっけ?」


「お父さんが考えたんじゃないわよ!」


「そんなことはどうでも良いよ。それより、無理に職員に購入させるのって、なにハラなんだろうね?」


肩がビクリと動く

監督責任というものを知っているらしい

説明が省けて良かった


「家に沢山あるんだ。似合うし、買い取ってくれるよね?」


「分かったわよ…」


「それは良かった。じゃあ明日全部持って来るね。6千円くらいになるんだけど」


「そんなに無理矢理買わせたの…?」


「そうだね。詳しいことは知らないけど、母さんはパートだし少ない方なんじゃないかな」


頭を勢い良く下げられる

それがどういう意味なのか、僕には分からなかった

彼女が頭を下げる必要なんてない


「その上司に代わって謝るわ。ごめんなさい」


…これまた意外な対応だ

クラスがざわつくけれど、顔を上げると少し静かになる

僕の目をじっと見る彼女をクラス全員が見守っている


「お父さんに言って実態調査をさせるわ。権力を使って買わせるなんて最低よ、処置と対策を約束する。ごめんなさい」


彼女に対して少し誤解していた部分があるようだ

こんな子供の約束なんて正直意味を成さない

そんなことは僕はもちろん、彼女だって分かっている

けれど、この約束は意味のあることだ


「それならこのヘアピンはもういらないね」


安心したような表情で外すのかと思った

でも彼女は今までに見たことのないキリリとした表情で僕を見た


「約束通り今日一日付けるわ」


その言葉は流石に予想外だった

それ以降も彼女こと冴島琴子は相変わらずクラスカースト1位ではあった

でも威張ることはなくなった

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