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ベルゴッド・ヘルハウンド  作者: 橘 禅
第1章 ベルゴッド・ヘルハウンド
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第7話 内なる謎パワー

綺麗に狩り揃えられた裏庭には、大きな1本の銀木犀の木が生えている。


裏庭を囲む民家に枝が伸びないように選定するのはコーデリアの仕事だった。


間口が通常の家の2倍近くあるエルマドーラは、直上から見ると横長の長方形の形をしており、逆に奥行はほかの家よりだいぶ短い。

両隣の家と奥行を合わせるように作られた裏庭には、アンナがこの土地を買った時から銀木犀が植えられており、二階建てのエルマドーラより更に高い立派な木だった。

シーズンになると、銀木犀特有の香りが漂うのは実はちょっとした名物である。


「戦闘のコツを言ってごらん。」


ベルゴッドは裏庭の端に植えられた銀木犀の下に背をもたれて徐に口を開いた。

葉の下は月明かりが届かないので、私の位置からだとすっぽりシルエットのように見えた。


「優先順位を予め定めておくこと。情報を常に更新し続けること。同時に相手に誤情報を掴ませること。受けではなく回避を重視すること。急所や怪我をした箇所を狙い続けること。」


私は、ベルゴッドから習ったこと(と言っても、戦闘の最中に呟いた程度のこと)を復唱した。私のことを戦闘のプロにでも育てたいのかと疑ってしまうぐらい実用的な教訓だった。


「全ては使い捨ての道具。これも忘れてはいけない。執着とはすなわち弱点だ。よく覚えておきなさい。」


真顔で珍しく教えを説いてくるベルゴッドに間髪入れずに返答した。


「よく覚えておきますから、とりあえずこの鎖を外していただけませんか。」


言葉尻に被せるように、文句をつけた。

自分は夜風を受けて逆立てた髪を軽く靡かせながら薄ら笑いを浮かべているが、一方私は未だにベルゴッドの鎖で体を縛りつけられ、拳を突き出した姿勢のままなのである。


「忘れてたよ。ごめんね。」


白々しい謝罪と同時に体が自由になった。意外なことに、体をきつく縛り付けられていたはずだが、全く条痕がなかった。


「さて、軽く体験してもらったところで、本格的に術を教えていこうか。」


「そもそも、僕らが一概に闘術と名指すものは非常に多岐にわたるんだけども、基本的に2つに大別出来るとされている。なんだか分かるかな?」


銀木犀の隣の切り株に腰を下ろすと同時に問いかけられた。


「エネルギーの質…でしょうか?」


9時を回っていたが、裏庭に隣接した各家はまだあかりが灯っていた。


後で聞いた話だが、こんな時間に騒いでも(悲鳴をあげても)文句をつけられないのは、ベルゴッドの掛けた聖祈術による隔絶結界のおかげらしい。


「違うよ、コーデリアちゃん。先天的(・・・ )後天的(・・・ )の違いさ。」


ベルゴッドはいつものグレーのシャツに黒いスーツの出で立ちで、小さく首を振った。


「闘術と呼ばれる、所謂、超能力的な力は基本的に先天的な素質がものを言う。素質がなければ、行使も出来ず、知覚すらできない場合ほとんどなんだよ。聖祈術のように大衆化した闘術というのは世界的に見て希少性が高く、その意味において非常に価値のある闘術だといえるね。」


聖祈術には、「共鳴」と呼ばれる特性がある。自身の近くに聖祈術を使える人間が存在したり目の当たりにすると、自身も発現しやすくなったり、技の強度が上昇したりする。聖祈術が「見て、聞いて、感じれば、万人が使える」と言われる所以はここにある。


「だけどね、そも、この闘術というカテゴリーにおける区分けには実は何ら意味が無い。」


「どういうことですか?」


先程までの話はなんだったのかと聞き返したいのをぐっと堪えて、左上に答えを求めて視線を向けた。


「単純な話だよ。『内なる謎パワー』を他人に見える形で発現する。どの闘術もこれを行うだけだ。無論、多少の例外はあるけど、広義に捉えれば全てこの枠に収まる。」


ベルゴッドは木陰の中で左手をかざすと、そこから光が、まるで閉めた蛇口から水がこぼれるように、ポタポタと地面に落ちていった。


「学院の定義する魔法は、体内には魔力があると定義した。東側では体を巡る()こそが重要だと説いた。でもね、彼らはそれらの本質的違いを認識していない。いや、出来ないんだよ。結局は同一の『内なる謎パワー』に他ならないから。」


ポタポタ零れていた地面は何時しか淡く輝き始め、光の蔦のようなものが生えてきて私の足に止まると、それは小鳥や兎に形を変えた。何ともメルヘンな幻想的な雰囲気だった。


「さっき、先天的、後天的って話をしたけど、実際はほとんどそんなことは無い。ただとてつもなく他人に伝えるのが面倒な上に難しいんだよ。『内なる謎パワー』の感覚なんてそれこそ千差万別。どれだけ優秀な師が居ても、いや優秀であるほど、その洗練された感覚は、その個人のそれまでの人生によって磨かれたものであるが故に、決して他者には伝わらない。これは親子のような近しい関係でも決して伝わらないものなんだよ。」


話した内容を示すように、ベルゴッドの手から溢れる光は絵を描いていた。最後に指を鳴らすと、膝に止まっていた小鳥達諸共、光の粒子となって消えてしまった。


「逆に言えば、君のような子供の持つ感受性の豊かさは無限の可能性を秘めている、そういうことなんだよ。」


そこでやっと話の筋が見えてきた。


「では聖祈術以外にも闘術を習得できる可能性があるということですか?」


冷静を装って聞き返したが、内心とても驚いた。ベルゴッドの言は高等修学舎の教える内容と完全に相反するものである。聖祈術以外の闘術はごく一部の天才しか使えず、使い手はほとんど居ない。また、護身術ならば聖祈術だけで十分であり、敢えて他の闘術を習得しようとするのは無駄である。


「治安維持の観点から言って、色んな闘術があったら、色々と厄介なんだよ。一般人には上辺だけの聖祈術以外にそういった手段( ・・・・・・・)を持って欲しくないのさ。」


深淵まで至ればその限りじゃないけどね、とベルゴッドは付け足した。

深淵とは一種のおとぎ話的な存在で、闘術の真髄、即ち力の根源にまで至ると神にも近しい何かを得ることができるらしい。

無論、修学舎に非常勤でやってくる教会職員でさえ、笑いながら話してくれるような眉唾物に相違なかった。


「ベルゴッドは私に何を教えてくださるのですか?」


この質問は私にとって至極当然な、真っ当なものだったが、目の前の男は真顔で首を傾げた。


「教える?今ので全てだよ。」


(2戦目の体力は……)

嫌な予感がした。切り株についていた手にうっすらと汗が滲むのを感じた。少し腰を浮かせてもう一度耳を傾けた。


「時間もないし第2ラウンドに行こうか。」

目の前の男は、究極の実践主義者だった。

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