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「チナミ、なんか最近忙しそうじゃない?」
そうサエちゃんに言われたのは、その日の放課後、部室で雑談をしていたときだった。
「え、そう? そんな疲れてそうな顔でもしてる?」
「いや、むしろ充実してそうな感じ? 最近昼休みになるとどっか行っちゃうし。いつもどこ行ってんの?」
「え~と……」
「もしかして、実は大山くんといい感じ?」
きらーん、とサエちゃんの目が光る。さすが、そういうところは地味に鋭い。
「いや、そういうわけじゃないけど……」
私は言葉を濁す。でも、別に嘘はついていない。だって、本当に大山くんは無関係だから。こっちの世界の大山くんとは。
「んー、もうこの際だからいっそのことチナミにざっくり訊いてみたいんだけど、大山くんのどこがいいの?」
「え、だっていいじゃん、大山くん」
「あのね、それ全然答えになってないから」
「そう言われてもー……」
いざこうやって問いただされると、なんて答えていいのかわからない。即答できずに、ぼんやりと大山くんのイメージ像が私の中で形作られていく。そして、まだ結論がまとまらないまま、言葉が出た。
「たぶん大山くんは、同じだから」
「……どういうこと?」
「うーん、言いにくいんだけど、私と大山くんって、どこか共通した空気を持ってるっていうか、雰囲気? なんかお互いわかりあえそうな……」
「つまり波長が合いそう、って意味?」
「そう……なのかな?」
言われてみればそういうことなのかもしれない。でも、どこか違和感が残る。そういうシンプルな言葉では片づけられない、何かがある気がする。
わかりあえそうと感じたのは、境界線を越えて大山くんと出会って、楽しく話せたから?
でも私にとって大山くんが気になる存在だったのは、境界線を越えるより前からの話だ。
そもそも、なぜ私と大山くんはこんな途方もない回り道をして遭遇しているんだろう――
「もしもーし」
「……はっ!?」
「おー、帰ってきた帰ってきた」
サエちゃんの呼びかけで、私の思考は現実に戻ってきた。
「私からこの話題振っといてあれだけど、波長の合う合わないの話は『何で合うんだろ?』ってことを考え始めたらキリがないと思うよ」
「あ、やっぱり?」
「ただし、これは私の持論なんだけど、そういう言葉にできない感覚ほど大事にしたほうがいいと思うの。これは恋愛に限らず、写真でも一緒。いわゆる第六感、ってやつ?」
「ほぉー……!」
サエちゃんの言葉に、私は感心する。こういうこと嫌みなく言い切れるサエちゃんって、やっぱり格好いいと思う。
「だからその感覚を忘れずに、さっさと告白してちゅーしていっそのこと一線を越えたピリオドの向こう側へ「行っちゃダメだよ展開早いよ!」
格好いいアドバイスが台無しだった。
私はサエちゃんにほどよくイジられつつも、愉快な写真部は今日も平和だ。