5
思い出す。
私は、夕日を見ている。
「きれいだね……」
「うん……」
隣には、双子のお姉ちゃんがいた。お母さんに買ってもらった白のワンピースはお揃いで、髪型までもそっくり同じ。まさに、お姉ちゃんは私の分身みたいだった。
そんな私とお姉ちゃんはどこへ行くにもいつも一緒で、この日もずっとお姉ちゃんと一緒に公園を縦横無尽に駆け回っていた。おかげで着ていたお揃いのワンピースは埃まみれ。だけど、その汚れた部分もお姉ちゃんのそれと心なしか重なっていたような気がする。
つないだ手は、やっぱり土にまみれてちょっぴりかさかさしている。だけど、暖かい。それは、太陽の暖かさと同じだった。でも、私ももしかしたら同じような暖かさを持っていたのかもしれない。だって私は、お姉ちゃんの妹だから。
やがて、私達は公園の一番高い場所へとたどり着く。そこは小高い丘で、私達の住む町が見下ろせる場所。2人分の世界の中で、一番空に近い場所。そこのてっぺんに座ると、意外と固い芝生の針みたいな葉がちくちくした。でも、これが意外と心地よかったりする。
「ねえ、ちーちゃん」
私を呼ぶ、お姉ちゃんの声。私のことをちーちゃんと呼んでいたのは、お姉ちゃんだけだった。
「このゆうひ、つかまえていいかな?」
「うん、つかまえよう!」
捕まえるというのはもちろん、虫取り網や罠を仕掛けての捕獲という意味じゃない。代わりにお姉ちゃんがこれまた私とお揃いのポーチから取り出したのは、小型のデジタルカメラだった。
もともとは、お父さんが持っていたデジタルカメラだけど、新型のカメラに買い換えた時にお父さんが私達に譲ってくれたものだ。それからは、主にお姉ちゃんがそのカメラを使っている。私も時々使うことがあったけれど、私はそれよりもお姉ちゃんが「つかまえる」写真を見せてもらうほうが好きだった。
お姉ちゃんの撮る写真は、綺麗だった。本当に景色をそのまま捕まえているようで、私の心の奥の方をわくわくさせてくれた。
「それじゃあ、つかまえてみるね!」
「きれいにつかまえてね!」
「だいじょうぶ、まかせて!」
お姉ちゃんはそう言って、手のひらサイズから少しはみ出そうになるカメラを両手で構えた。その様子を、私は一歩下がったところで見守る。それから、ぴぴっ、という電子音の後でシャッターを切る音が小さく聞こえた。
「とれた!」
「じゃあみせて!」
すると、お姉ちゃんは自慢げにカメラの液晶画面を見せた。
太陽が、ど真ん中。茜色の空から切り取られた、遠くの山々の稜線。家や鉄塔の影を焦がして、捕まえられた夕焼けは、写真の中で永遠に燃え続けている。
「きらきらしてる!」
「へへっ、いいでしょ!」
写真だけじゃない。光の中に立っていたお姉ちゃんこそ、きらきらと輝いていたんだ。
「やっぱり、おねえちゃんのしゃしんはすごいよ!」
「あたりまえでしょ! だっておねえちゃんは、てんさいだもん!」
もしかしたらお姉ちゃんが撮り続けていた写真は、お姉ちゃん自身の魂そのものだったのかもしれない。自分の命をすり減らして写真を撮っていたから、あんなに輝いていた写真を残すことができたんだ。
だから、その代償として私よりもずっと早く、この世界からいなくなってしまったんだ。