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そして、私はシャッターを切った。
その一瞬、頭の中が真っ白になったような気がする。
ファインダーのその先、境界線は――見えた。もちろん、大山くんの姿も。私と同じくカメラを構えて、私に狙いを定めていた。
半信半疑のまま、ファインダーから外れて見た世界。それでも大山くんはそこにいた。私を見つけると、笑ってくれた。
「よかった……また会えた」
たとえ触れることができなくても、その笑顔は確かにそこにあった。
「また……会えた」
安堵と感動がごちゃ混ぜになった気持ちでぼんやりとしていると、大山くんは向かい合わせの席にどかっと座った。
「はあ~~、会えてよかった~~」
今まで私と大山くんとの間にあった緊迫感を、全て吐き出すような声だった。さっきまで気丈に振る舞っていた大山くんは今、いすの上でへろへろになっている。
「大山くんも、会えるか不安だったの?」
「そりゃあもちろん怖かったし……不安だったよ。もう会えないんじゃないか、一度手放したらもう出会う方法なんて見つけられないんじゃないかって、本当に思った」
10秒間の断絶の前、心細くなった私を励ましてくれた大山くん。だけど、その裏で大山くんも自分の不安と戦っていたんだ。
「でも、中里が僕の言葉を信じてくれたから、僕が僕を信じなきゃダメだなって。そうやって必死に言い聞かせて、どうにか自分を保っていられた」
お互い、支えられていたんだ。私は、大山くんの言葉に。大山くんは、信じた私の心に。気持ちは、同じだったんだ。
もしかしたら、そんな心のシンクロが、もう一度私達を出会わせてくれたのかも。そんなファンタジックな仮説を組み立てていると、大山くんは一つ大きなため息をついて。
「疲れた」
「……ふふっ」
それで、私は思わず噴き出してしまった。
「ん? 何か面白いこと言ったっけ?」
「いや……すごい脱力してる大山くん見てたら、いつまでも固くなってる自分がバカみたいに思えてきちゃった」
「ははは、僕もずっと緊張しっぱなしだったから、一緒一緒」
「そっかー、一緒か」
私達の間に、初めて弛緩した和やかな空気が流れる。その空気を、確かに大山くんと共有している。今の私、普通に大山くんと話せている。
すると、ほっとしたせいか「くぅーっ」とお腹の虫が鳴った。私だけではなく、2人でハモって。
「……お腹、すいたな」
「う、うん」
大山くんは傍らにあったバッグから弁当箱の包みを取り出した。
「昼飯、一緒に食おうか」
「……うんっ!」
お弁当、持ってきておいてよかった!




