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境界線はファインダーの向こう  作者: 染島ユースケ
19/23

18

 私は、大山純哉に会った。


 廊下の突き当たり、私のちょうど反対側に立っていた。


 こうして見ると建哉くんとは、まるで瓜二つだと思う。雰囲気も背格好もほとんど変わらない、純哉くんの姿。


 思わず下の名前で呼ぶ。


「じゅ、純哉くん?」

「千波……さん?」


 純哉くんも、下の名前で呼んでくれた。


 やっぱりそういうことか、と思った。


 私と、純哉くんの距離が詰まる。旧校舎の2階。夕焼けが等間隔に差し込む廊下。お互いを導く運命の糸は、一直線に伸びて結ばれている。


「……純哉くんも、見てたの?」

「ああ、見ていた」


 やっぱり、純哉くんも同じ現象に遭遇していたんだ。


「建哉に、会ったのか?」

「うん、会ったよ。純哉くんも、お姉ちゃんと……?」


 純哉くんがうなずく。そして、ある一点を見据える。


 私達は歩み寄って、廊下の中央までたどり着いていた。そこで私達を待ちかまえている、古ぼけた引き戸。資料室の扉。


『資料室にある鏡の前で死んだ人に会えるらしい』


 かつて、建哉くんから聞いた都市伝説。もし本当なのだとしたら、それはつまり。


 確たる証拠はなくても、会うならここしかないと思っていた。ここが、境界線の中心だ。


「行こう」と、純哉くんは躊躇わずに言った。


「わかった」と、私も答える。


 私と純哉くんは、同じタイミングで引き戸に手をかける。わずかに手が触れて、純哉くんの熱を感じる。幻ではなくて、そこにある体温。


 普段だったら、それだけで恥ずかしくなってしまうかもしれない。でも今は、それよりも別の気持ちが勝っていた。高揚。緊張。感動。どの感情にも似ているようで当てはまらない、不思議な感覚。外からの夕日がそのまま私を取り巻くオーラになって、優しく包み込んでいる。


「開けるよ」


 純哉くんの短い一言を合図に、私達は扉をゆっくりと開けた。


 どこか懐かしさを感じる、夕焼けで輝く資料室。


 同時に、向かいの引き戸が開く。まるで、私達と鏡写しになった、2つの影。建哉くんと、もう1人。


 ずっと会いたかった。


 でも会えるとは思わなかった。


 中里穂波が、お姉ちゃんが、そこにいた。


「お姉ちゃん……!」

「ちーちゃん……!」


 お姉ちゃんと私は、同じタイミングで私への1歩を踏み出した。


 届くはずがなかった。永遠に距離の縮まらないはずの1歩だった。


 それが今、こんなに近くに。


「お姉ちゃんだよね、そうだよね、これ、うそじゃないんだよね!?」

「お姉ちゃんだよ、ちーちゃん、私はここにいるよ!」

 境界線を隔てた、あと1歩。

「……お姉ちゃん!」


 そして、私は、お姉ちゃんは、最後の1歩を踏み出した。


 そのわずか1歩の間で、いろいろなことが起きた。


 境界線に触れようとした私達を、お姉ちゃんの後ろにいた建哉くんが止めようとした。


 私の背後からも「ちょっと待て!」という声が聞こえて、振り向いたとほぼ同時。鏡が強烈な光を放った。


 夕焼けのそれとは違う、全てを浄化してしまいそうな真っ白い光。まるで、巨大なカメラのフラッシュのようで、驚いた私は思わずバランスを崩した。


 倒れそうになりながら、私は境界線に触れた気がした。だけど、もう重心をコントロールできなかった私は境界線に飛び込む形で、自分の身を委ねる。


 身体が為す術なく投げ出される。


 でも、床に倒れたという感覚はなかった。足下にあったはずの埃っぽい床をすり抜け、全身がひっくり返って真っ逆さまに落ちていく。私の魂が、ここではないどこかへ飛ばされていくような気がした。


 私は、意識を失った。


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