16
私は、サエちゃんに導かれて部室へとやってきた。
「サエちゃん、授業は?」
「サボった」
「え……マズくない?」
「それ、仮病で早退しようとしたヤツが言うかー?」
う。言葉に詰まる。
「ま、私が思うに英語のリーディングなんかよりチナミの方が大事だから。その優先順位に素直に従っただけのことよ」
「サエちゃん……」
サエちゃんの正直な優しさに触れて、また泣きそうになる。でも、今度はどうにか堪えた。
「それで、やっぱり悩んでるのは大山くんのこと?」
私は黙ってうなずく。
「真面目な話……ここは1つ、私に正直に話してみるつもりはない?」
ここまできて、私は全てをサエちゃんに話してみることにした。部室の中でパラレルワールドに遭遇したこと。そこで、もう1人の大山くんに出会ったこと。始めはこっちの世界にいる大山くんの代わりとしての関係だったけど、徐々にそれだけの関係ではなくなっていったこと。そして、昨日大山くんが私に別れを告げていなくなってしまったこと。大山くんに関わることは、隠さず話した。
「なるほど……確かに、にわかには信じられない話だわ。だけど、チナミが突然そんな突拍子もない嘘をつくとも思えないし」
「信じてくれるの?」
「なかなかどんなものかイメージは湧かないけどね。でもチナミの言ったことは、全部信じるよ」
部室の窓から差し込む空の色。薄暗い灰色から、いつの間にか晴れ間が覗くようになっていた。
「そりゃあチナミ、他の人に話せるわけないよね。ずっと1人でそんな壮大な悩みを抱えてて、大変だったでしょ?」
でも、部室を明るく染めたのはそれだけじゃない。
「でも、私は全部信じるから。解決はできないかもしれないけど、信じた上でその悩みの2割か3割ぐらいは一緒に抱えてあげるから」
私は今、サエちゃんに照らされているんだと思った。
話しただけで、ほっとした私がいる。その重荷を少しだけ下ろして、今まで背負っていたものの存外な大きさに、自分の身の軽さに気づく。
「さてそんなわけで、今日の午後は丸々授業さぼっちゃおうぜ!」
「へっ?」
シリアスムードから一転、サエちゃんは一気におちゃらけた雰囲気へと早変わりする。その素早い変わり身っぷりについていけず、ぽかんとする私。
「そうそう、私実はずっと行ってみたかったけどいつも混んでて行けないケーキ屋があったんだよねー! だから今日は行ってみるチャンスだと思うんだよ! どう? 行かない? 行ってみない?」
でも、すぐに私はその真意に気づいた。
きっと、これはサエちゃんなりの励ましなんだ。
だから私はその励ましに応えなきゃ、と思った。
「うん、行こっ」




