15
しばらく立ち直れそうにない。
翌日、それでも昼休みにはいつも通りカメラを持って部室に行った。同じ場所で、シャッターを切った。だけど、境界線も大山くんも、私の前に現れてはくれない。何も変わらない、がらんとした部室の空間がそこにあるだけだった。それはもはや、私にとっての非日常だった。
その日の部活は、休むことにした。学校も、早退することにした。6時間目が始まる直前、逃げるように教室を出た私は、サエちゃんにラインで連絡した。それから何度かサエちゃんから電話の呼び出しがあったけど、私はまだそれに出られずにいる。
サエちゃん、ごめん。だけど、今はそっとしておいてほしい。
1人、学校を後にする。チャイムが鳴って、誰もいなくなった校庭。梅雨の季節が近づいて、午後の空は曇天。
その情景に、デジャヴを感じる。昨日、大山くんと別れた後の景色と同じだ。そして、私もそれからずっと同じ気持ちを引きずっている。何も変わっていない、1ミリも前進できていない私。
大山くんは、強い。きっと私がいなくたって、全然平気なんだ。いや、そもそも私の存在なんて、取るに足りないものだったのかもしれない。大山くんにはまた別に大切なものがあって、私はたまたまラッキーで手に入れたおまけのようなものだったのかもしれない。
ああ、そう考えると余計にいたたまれなくなってくる。考え続けた挙げ句底なしに下降していく、負のスパイラル。どうすればいい? これを、断ち切るにはどうすればいいの? 誰か、教えて。
「チナミっ!」
後ろから、声。同時に、走ってくる足音が私に迫る。
「サエちゃ――あふっ!?」
振り返りざま、思いっきりタックルが決まった。2、3歩よろめいて、どうにか転ばずに踏みとどまった。
「チナミ、どうしてあんたさっさと帰ろうとしてるのよ!」
「ど、どうしてって――」
「チナミ、朝から様子が変だったよね。私ずっと気づいてたよ。それなのに私が声かけても無理して笑って、そのくせ実際はこんなにボロボロじゃない! どうしてそんなになる前に私に話してくれないのよ! 私達ってそんなに気を遣うような仲だった!? 私、そんな悲しい顔して無理してるチナミなんて大嫌いだからね!」
サエちゃんの言葉は、弾丸だった。脆くなっていた私の心のど真ん中に刺さって、突き抜ける。
私は、また泣いてしまった。大粒の涙を流して。
やっぱり昨日と同じだ。
だけど、雨は降らなかった。代わりに、私を抱きしめてくれる、サエちゃんがいた。
それだけで、私は救われた気がしたんだ。