14
抜け殻になったまま、私は学校を出た。
大山くんとの最後の会話。周囲の全てが凍結したような空気。最後に見せた笑顔。全て鮮明に覚えている。
私は、大山Aくんが好きだった。
だけど、いや、好きだからこそ、話しかけられなかった。大山くんと話すなんて、夢物語だと思っていたから。
そんな時に出会ってしまった、境界線の向こう側にいる大山くん。彼と言葉を交わした日々は、夢のようだった。
見た目通り、理論的に物事を考えてクールな表情を見せる大山くん。その一方で、時折優しい笑顔を見せてくれる大山くん。またある時は本気で驚いたり、私を笑わせようとしてくれた大山くん。やっぱり、私の思っていた通りだ。大山くんは、本当に素敵な人だった――
「――――っ!」
唇をぐっと噛みしめて、私は走った。分厚い雲が、黄昏の空を覆っている。彼方で雷が唸っている。夕立の匂いがする。その中を、全力で走った。
私にとって、大山くんは大山Aくんの代わりだった。最初は。でも、今はそんな枠の中では収まり切らなくなっていた。
「わかんない、わかんないよっ……!」
ずっしりと足が棒になって、疲れきってふらふらで、それでも私は迷いを振り切りたくて、走る。走る。あてもなく。
だけど、とうとう動けなくなった私は、誰もいない辺鄙なバス停のベンチへ倒れ込むように座った。
決壊した涙腺から、涙がとめどなくあふれ出す。
雨が降ってきた。ぽつぽつと降り出したそれはあっと言う間に勢いを増して、大粒のスコールになった。でも、今はもっと降ってほしいと思う。そして、洗い流してほしい。眩しすぎるほどに輝く大山くんとの思い出も。立ち止まったままの私の迷いも。消えない涙も。
ずぶ濡れになった私は、まだ何もわからない。
ただわかることは、大山くんを失ってぽっかり空いた穴は、想像以上に大きかったということ。
ただ、それだけ。