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「で」
部室の中に、2人きり。お弁当を食べるときみたいに向かい合って座っている。でも、その相手は大山くんじゃない。
「私は昨日部室に忘れ物して取りに来たとこだったんだけどさ、あんたは本当に何やってたの?」
「え~~と……」
気まずい空気。この前の追及よりも、心なしか重い。やっぱり、ここでサエちゃんに出会ってしまったのは不幸だったかもしれない。
「最近のチナミの行動も気になってたし、滅多に普通の人が入らない物置なんかにいたら、怪しまないほうがおかしいわ。何か会話してるような声も聞こえたしさ」
サエちゃんのジト目が刺さる。一方の私は目を逸らす。でも、逃げられない。今この状況にこそ境界線に触れたら消える、みたいな脱出方法がほしいと思った。
「チナミ、やっぱりオトコか」
「っ!?」
私のわずかな動揺を、サエちゃんは見逃さなかった。ジト目は一転、ニンマリ顔に変わる。
「ほぉー、やっぱりそういうことでしたかチナミさーん。さっきのは、わざわざ人目のつかないところに行って電話してたとかってオチでしょ?」
「ま、まあそんな感じだけど……」
「お相手はあれ? やっぱり憧れの大山くん? ついに射止めちゃった?」
「いや……違う」
「そっか~やっぱり大山くんと……って、違うの!?」
さっきまでのにやけ顔が、コンマ1秒で驚愕の色に塗り変えられる。
「ちょっとチナミそれどういうこと!? あんたあんなに大山くん一筋だったじゃない!?」
「うん、まあそうなんだけど~、っていうかつき合うとかそういうんじゃないし……」
苦しい言い訳を小出しにしながら、私の思考は巡り巡る。
「じゃあなんで隠れて電話なんかしてたのよー、いったいチナミに何があったのさ!」
まさか本当のことは言えないし、かと言ってサエちゃんが納得してくれそうな言い訳も思いつかない。
「っていうか、その相手は誰なのさ!」
「うぅ~~……」
サエちゃんの波状攻撃を前にして、回転の鈍い私の頭は完全にオーバーヒートしていた。
そして、出した答えは。
「さあ、3つ数える前に全てを洗いざらい白状なさい! さん、に、いち、キュー!」
「大山くん、の、幼なじみですっ!」
私が放った、一世一代のでまかせ。ぴたっと空気が止まった。
「…………おさな、なじみ?」
「え、えっとね、ちょっといろいろあって先に大山くんの幼なじみと知り合いになっちゃってそれで大山くんのことについていろいろ電話で相談に乗ってもらってたというかまあそんな感じで……ええ、はい、そういうことです」
弾切れ。
目の前のサエちゃんが、今度はぽかんとしている。自分でも、何を言っているのかよくわからなかった。
そして、サエちゃんは首をかしげつつ顎に手をあてて、まるで探偵が推理をするときのようなポーズで考えた後に、一言。
「もしかして、それって実は幼なじみくんのほうを好きになってるパターンだったり?」
「ん……んんっ?」
そんな風には、考えたことなかった。
と、そこでチャイムが鳴った。鐘の音が反響する。ちょっと頭が痛くなるくらいに。
「ま、とりあえずチナミは事情を話してくれたからよしとしよう。ささ、またぼーっとしてないで教室戻りましょ」
サエちゃんが一足先に立ち上がって、私の肩を叩く。
「どちらにせよ、いずれはっきりと答えは出したほうがいいよ。せいぜい頑張んな!」
その励ましに、私は曖昧にうなずくことしかできなかった。