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【一話完結】そこにあたしはもういない。

すでにかのじょをつかまえた。

作者: 刹那玻璃

 黙り込み頭を抱えるフリードに、アークは内心勝ったと思った。


 幼馴染みであり、今も冒険者としてメンバーを組むディーンは知っているが、先にサンドラと仲良くなったのはアークだった。




 母のビアンカは辺境の小さい領地を持つ、子爵家の末娘。

 行儀見習いという名目で働きにきた時に、実父である国王に見染められた。

 しかし、すぐにそれは周囲に知られ……実父の妃達に追い出され、妃達の父親が選んだ彼らよりも年上のエロジジイに嫁がされたらしい。

 不憫である。


 だが、母はしぶといというか運が良かった。


 そのエロジジイはフリード並みの女好き公爵だったと言うのに子供がおらず、母と結婚したその日に、愛人の一人に殺された。

 まぁ、愛人とは言え元伯爵夫人が、エロジジイでも金持ちで数代前は王家の血を継いだ男の元に行って、ドレスに宝石を選んで生きたかったのだろう。

 しかし、エロジジイは彼女を選ばず、遠縁になる正妃の父親に頼まれ、まだ若く美しい母と結婚して浮かれ、強壮剤と言われ渡された毒を素直に飲んで死んでしまった。

 周囲の人の前で毒を飲ませた……普通はバレないようにするのだが、それすら考えつかない愚かな伯爵夫人は捕まり、同じ毒で殺され、母は跡取りのいない公爵家に嫁いだ夫人から、女公爵となり采配を振るった。


 母は身分は低かったが賢かったので、領地のことや広大な屋敷をどう運営するか考えつく限り政策を打ち出し、家令や領地の者に色々と聞いて回り、そして斜陽の時代に陥りかけていた公爵家を数年で立て直した。

 最初はただの小娘と侮っていた者達は、次々政策を打ち出して領地に恵みをもたらす母に対する態度を改め、小娘ではない美しく繁栄をもたらす『ブリュンデ女公爵』は国中に知れ渡った。

 その為、数年で中央に戻ることができ、王宮のパーティーで父と再会。

 寵愛は戻った。


 その代わり、愛する恋人に対する仕打ちと、湯水のように金を使い、王宮で働くメイド達を見下し暴力を振るう正妃達に怒り狂った国王は、離宮に閉じ込め正妃や側妃の位を奪い、子供達に王の子としての敬称も取り上げ、扱いも認知しない愛人の子とし、国庫を開けることも禁じた。

 今までの生活が忘れられず、実家に支払わせ続けるのに、親達は国王の妃として気高く誇りをもって生きよと嫁がせたのに、愚かにも堕ちていく娘や孫を嘆いた。

 そして、我慢できなくなった元妃の兄弟が父から爵位を取り上げると、もう湯水のように使える金はないこと、欲しいなら自分で稼ぐか持っている宝石を売り払うことを命じ、縁を切った。

 ちなみにすぐに金に困った離宮の者達は、価値も分からず子爵の地位を持つ商人の言い値で売り払い、たちまち困窮、最後には身を売るまで落ちぶれたらしい。

 その子爵商人は、ブリュンデ女公爵の父だった事は知られていない。




 それ以降正式には結婚せず、女公爵として助言し、政治を知る彼女を第二宰相として側に置き、国を繁栄させた。


 それに母は、公爵となって宮廷に戻っても、産んですぐ夫の妃たちに取り上げられた長男を忘れていなかった。

 弟を身籠ったと報告した時、夫に……正式には愛人の立場だが、必死に頼み込んだのである。

 取り上げられ、行方不明の息子を返して欲しいと。




 あの子を不幸な目にあわせてしまった。

 私を恨んでいてもいい。

 あの子をどうしても取り戻して、公爵位を譲りたい。

 どうか、どうか、探して欲しいと泣きながら訴えたのである。




 父は、生まれてすぐ引き離された息子……あたしね?……を同母で別の公爵家に嫁いだ妹に、秘密裏に預けていたので連絡したらしい。

 その頃あたしは、旅に出てたんだからいるはずないんだけど、叔母様は面白がり屋さんだから、




「もう、この地にいませんわよ! 知ってますでしょう? 尊敬するお姉様にはお辛いでしょうが、もう出て行って行方不明ですの。それよりも兄様! 兄様お気に入りのクズ男が、私達の可愛いサンドラに付き纏い、連れ去りましたの。殺して下さいませ」




と返し、母は卒倒。

 母は、叔母様に嫌われていると思ったらしい。

 しかし、叔母様はその後丁寧に公爵家に、




『申し訳ございません、ブリュンデ公爵閣下。私はメリッサと申しますわ。貴方さまの息子のアーク殿下は身分を知らず、身を隠す為に旅に出ておりますの。私の末娘、サンドラとお友達のジェラルディーンさま、そして女にだらしないクズと一緒ですわ』


 


サンドラの名前を聞き、蒼白になった。

 サンドラがいるのは、『魔獣達の祝宴スタンピード』の起こった魔の森。

 小さい頃に奪い取られた息子が、何故共にいるのか……。




『息子を助けるのにどうか、どうか手を貸して下さいませ』




と、丁寧にメリッサに便りを返したビアンカは、折り返し送られた手紙に唖然とする。




『もし宜しければ、アーク殿下が次の王となられるなら、どうか愚かにも恋の病に惑わされてしまった娘を正気に戻しますので、側妃で結構ですので迎えて頂けませんでしょうか? 箱入り娘として育てたせいか、精霊術師としての才能はご存知だと思いますが、本当に素直で愛らしいお馬鹿さんな性格に育ちました。しかし今、私共が反対する程、愚かにもクズ男に尽くし、結婚したいと言い始めました。家に閉じ込めても精霊術師。逃げてしまいます。あの子が正気に戻り、幸せになりたいと言いましたら、どうか……アーク殿下が嫌でないならで結構でございます。どうか御願い致します』




 その頃、一旦叔父様に呼ばれて帰ったあたしはすぐに引っ張って行かれ、シスター姿で出向いたら国王陛下は目を見開き、母は気絶。


 嫌になっちゃうわ。

 一応あたしだって、TPOってわきまえてるから、国王とその妃同然のブリュンデ女公爵の前に立つなら、それなりの格好で出たわよ。

 あ、とっても綺麗ねってサンドラが褒めてくれたから、髪は切らないわよ。

 でも、司祭の正装位持ってるわ。

 だけど、司祭の地味〜な格好より、シスターの方が自分で言うのもなんだけど似合うのよ。

 あたし一応、自分の美貌解ってるもの。


 だから微笑んで、




「申し訳ございません。旅の途中報告の為戻って参りました。司祭のアークと申します。この姿は身を隠す為でございます。何故か何度も襲われそうになりましたので」




と告げると、国王陛下の腕で目を覚ました女公爵がこちらを見たのよ。

 そうしたら、瞳の色以外、あたしと瓜二つだったのよね。

 うわぁ……若いし、色っぽいし、生き別れの姉かしら? と思っていたら、




「ご、ごめんなさい! アークルーン、私が……私が……」




ボロボロと真珠のような涙をこぼすのよ。


 人魚姫か泉の精霊かしらと、クズやディーンよりも精霊に気に入られてるあたしは、前にサンドラと見た精霊を思い出したわ……。




「アークルーン」

「陛下。私はただのアークでございます」

「違う。お前は、私の第一王子。今はまだ眠っているが、第二王子のクリストファーと母を同じくする兄弟である」

「はぁぁ? あたしがですか?」

「あ、あたし……わ、私の息子が女の子になってしまったわ……なんてこと、いえ、私が悪いのよ……ごめんなさい……」




 号泣し始める自称母……若いわ……父、ロリコンだったのね。


 父は母を泣き止ませるのに必死で、叔父が説明してくれた。


 あたしが父にとって本当に第一王子で、他の正妃とかとの子供は縁を切った。

 で、5歳の弟のクリストファーは、今度、公爵家を母から譲られ、そして正式に母は正妃の位を賜る。

 そして、第一王子のあたしが王太子となるのだと……。




「……面倒臭そうですね。クリストファー殿下に譲っていいですか? それにお二人、まだまだ若いんですもの、ボコボコ生んで下さいませ。あたしは、普段は司祭で、冒険者で良いですわ」

「……向こうに、好きな人がいるから?」




 母の言葉に絶句する。

 口に出してはいけない……最近結婚した幼馴染の花嫁に、恋い焦がれていることを見透かされた気がした。




「な、なんで……」

「あの……メリッサさまに伺ったの。これが手紙よ」




 渡された手紙の中身は、




『幼馴染を娘の夫と認めていない。もし、殿下が良いなら離婚させて娘を嫁がせましょう』




と言う風に書かれていた。




「はぁぁ? 陛下が祝福して結婚したばっかのフリードとサンドラに、早く離婚して欲しいって書いてる! 叔父様。フリードって、よっぽど嫌われてるんですね?」

「だから言っただろう。わしらはお前が婿なら諸手をあげて祝福した。だがあれはクズだ。わしの屋敷に挨拶にきた時ですら、メイドに声をかけまくっていたぞ」

「うーわー! クズの中のクズ! でも、もう結婚しちゃってるのよね〜。あたしは好きだけど、女友達どまりだもの」

「男友達じゃないのか?」




 国王の言葉に真顔で、




「あたしよりディーンの方が男らしいんです。イケメンだし、筋肉隆々でかっこいいとサンドラと言ってますもん。あたしはこんなのでしょ?」




 自分は祈り、杖で祝福を与える司祭、日々の修行に料理や洗濯をサンドラと共にしていた位である。




「でも……もし、サンドラが泣いたり、離婚したいって言うなら……その為に私は力になるつもり。でも、結婚は……私は彼女を愛してる。でも、彼女はどう思うかしら……裏切られて傷ついた彼女は、信じてくれるかしら。私はあいつみたいに絶対にならない。でも信じてくれるかしら……」




 俯くあたしに、両親と叔父様は顔を見合わせ破顔する。




「これは良い! わしが許す。ブリュンデ公爵。もし、いつかその日が来た時には、二人を許して頂けませんでしょうか?」

「ゆ、許すも許さないも……わ、私は、アークルーンに母と認めて貰えるような……」

「えっと、お母様? あたし……いえ、私はお母様を嫌いではありませんわ。嫌いと言える程お母様を知りませんもの……ブリュンデ女公爵閣下として国を内側から支えられ、尊敬しております。でも、お母様と知ったのも今ですし……泣かないで下さいませ! お母様! ごめんなさい!」

「いいえ、いいえ! お母様と呼んでくれるなんて……それだけでも、それだけでもう……」



 ハラハラと涙を流す。




「ありがとう。アークルーン」

「お前は、私たちの自慢の息子だ」




 多分、サンドラは実家に帰っている。

 あたしは、ずるい男。

 この冒険が終わったら、すぐに傷ついた彼女に会いに行く。

 時間がかかってもいいの。




 あたしはすでにかのじょをつかまえた。

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