第二話 黒い獣
その黒い塊は赤い目をギョロつかせその視線を俺に捕らえる_
そしてそれは白い砂漠を蹴りあげる_
ジェット機のように背を低くして俺に向かってくる黒い塊_
突然の事で身体が動かない、そして次の瞬間左肩に激痛_
「ぐっ!?」
ハッキリとは見えなかったが、その黒い塊は俺に突進してくる前に跳躍し、黒い塊が裂け、足と思われるものをつくり、俺の左肩狙い踵落としをしてきた_
激痛としか言いようがない肩の衝撃_
まるで金槌で叩かれたみたいだ、肩が外れてなければいいが…_
って何で俺はこんなに冷静なんだ_
俺は黒い塊から距離を取るため、黒い塊がいない方向に走る_
そして白い砂漠に刺さった瓦礫の後ろに隠れる_
いつの間にか乱れていた息を整える_
カタカタと震える身体、今になって恐怖を感じる_
「…何だよ、何なんだよこれは………」
これは後味の悪い悪夢か?_
いきなり、見ず知らずの場所で目覚めて、よくわからない場所に落とされてこれは何だ_
現実味のない世界、空を仰ぐ_
太陽も月もない黒い空、今が朝か夜かもわからない_気がおかしくなりそうだ_苛々してきて地面を蹴る、スニーカーが白い砂で汚れる_
そして背中に刺さる殺気、冷や汗が流れる_
瓦礫から目だけを覗かせる、そこには足と思われるものでこちらに歩いてくる黒い塊_
汗をかいた右手で拳を作る、そして手の中に何かあるのに気付く_
「……携帯」
携帯の液晶が鈍い光を放つ_
液晶には時間や日にちはない、そのせいでどの時間帯なのか分からない_
衝撃_
「なに、」
パラパラと舞う砂_
瓦礫が木っ端微塵に崩された_
後ろを振り向けば爛々と光る赤_
空を切る黒く細長い足と思われるもの_
身体を横にずらし、二撃目は避けられた_
黒い塊が来た方向、あの白く無機質な機械の方向に逃げる_
白い砂が絡み付き走りにくい_
取り敢えず考え事をしてられる程、余裕ではない_
白い無機質な機械から伸びる無数のチューブ_
その先には大中小の大きさの液晶画面_
液晶画面は光を失い、何も表示されていない_
思わず蹴りたくなった_
そもそもアイツは何故俺に襲い掛かってきた、あれは何だ、この白い機械が原因か?
無機質な機械を見上げる、白い機械は俺の背の何倍もの高さにある_
ザリ、砂を擦る音_
振り向けば、黒い塊_
再び繰り出される踵落とし_
それを白い機械を盾に避けるが、黒い塊は急に足を寸前で止める_
「?」
そして静止する_
どうやら黒い塊はこの機械は壊せないらしい_
ならばこれを盾に避け続ければいいのだが、それではコイツを倒せない、どうすればいい_
その瞬間、白い無機質な機械の一つの液晶画面が白い光を放つ_
それに感染したように数個の液晶画面も白い光を放つ_
眩しさでよく見えなかったが、その液晶画面には『起動』の二文字_
『ギャィァァァァ!?』
「!?」
耳に障る奇声_
黒い塊が叫んだものらしい、そもそも声帯があるのかもわからないが_
視界がやっと晴れて、黒い塊を見ればそれはもう黒い塊ではなく、ボロボロと崩れ落ちる黒い砂と化していた_
黒い砂は白い砂と混じり、モノクロを生み出す_
液晶画面はチカチカと鈍い光を放ち、『停止』の二文字を表示する_
途端に身体の力が抜け、白い砂漠に身体を預ける_
くらくらする頭、目蓋が視界をどんどん遮る_
そこで思考が止まる_
「………真昼」
それは誰が呟いた言葉なのか今となってはわからない_