第8話
そしてそれからもう2週間が経った。
春稀は学校に来ていないからつまんないけど毎日電話してるし、楓や吏人、斗真と一緒にいるから寂しくはない。
でもやっぱり春稀に会いたいな...。
あんなこと言うから不安で不安でたまらない。
死ぬかもしれないってことだよね...?
なんでそんなに危険なことをしてるのか検討もつかないけど、事情はあるだろうから信じて待つしかない。
でも何故か最近嫌な予感がするの。
お願い、どうか生きて帰ってきて...。
楓side
「私ちょっとトイレ行ってくる」
「うん」
いつもの4人で話していると、凛がそう言っていなくなってしまった。
「おい、そこの女王従者ども」
「?」
3人揃って振り向くと魔王の側近の男。
「なに?なんか用?」
「魔王様から伝言だ」
一瞬で空気が凍りつく。
「なんだ」
「明後日の朝9時に駅前の公園に作った空間に来い。魔法族全員でだ。来なかった場合は人間界にいようと容赦なく襲いに行く」
「は?」
「以上。逃げんなよ?最善策を考えろ」
言うだけ言っていなくなった男。
「人間界にいようとってそれは困るわよね。どうせ争いが起きるなら人間に影響を及ぼさない方法を選んだ方がいいわ」
「僕もそう思う。...あと僕、月華様には言いたくないな」
「...え?月華様なしで勝てるわけないじゃない...」
「でもきっと月華様はもし負けそうになったりしたらきっとまた同じ道を選ぶ。もう転生出来なかったらどうするの?」
「俺も同感だ。月華様をこれ以上もう...。それに幸いまだ今日と明日がある。やれることはあるだろ?」
「そう...ね」
これが1番の方法としか思えない。
「私、魔法族全員に伝えるわ」
「おう」
「わかった」
「告伝」
「(徠花よ。みんな久しぶり。突然だけど明後日魔族と全面戦争になるわ。駅前の公園で朝9時から。もし行かなかったら魔族は人間界に襲いに来ると言ってる。人間に影響を及ぼしたり余計なことを考えずに戦うためにも来て欲しいの。ただ月華様には言いたくない。また同じ道を選んで欲しくないから。私たちは月華様を守りたい。でも月華様がいた方が勝てる確率は多い。だから異論があるなら私のところまで来て。それとあと今日と明日だけではあるけど魔法の訓練に集中して。急なことだけど今度こそ過去を繰り返さないように...協力お願いします)」
終わった途端魔法族の子たちが寄ってきた。
「徠花様っ!」
「本当なんですよね...?」
「そうよ」
「私は月華様に言わないようにすること、賛成ですよ!もうあんな思いしたくないから...」
「俺たちも賛成っす!」
「私もです!」
「ありがとう。さぁ、4人はもう帰って練習しなさい。私たちは凛にバレないように残るわ」
「はい!」
ペコって頭を下げて帰っていく4人。
月華様を大切に思ってる人はたくさんいるの。
だから私たちが月華様を守るのよ。
「ただいま〜!ん?なんか空気暗くない?なんかあった?」
なんでこういう時だけ鋭いの...?
「なんもないわよ?」
「あれ?まぁいいやー」
まずはこの件を隠すことから...。
凛side
なんか今日3人の様子がおかしい気がするのよね。
そわそわしてるっていうか...。
絶対なんかある。
うちのクラスの魔法族4人はなぜか帰っちゃってるし...。
「映鏡。我が従者たちの姿を」
隠れてやってみたけどやっぱりブロックされてたを
もうちょっと様子見るか...。
次の日になっても特に何もなく、ちょっと安心してしまっていた。
でもそのまた次の日、明らかにおかしかったんだ。
だって学校行ったら楓も吏人も斗真も他の魔法族もいなかったんだもん。
しかもそれに加えて魔族すらいない。
私は急いで学校を飛び出した。
お願いだからみんな無事でいて...!
楓side
ついに決戦の日。
誰もが私が言ったことに賛同して今戦いの地に来てくれている。
そして目の前には魔族の大軍。
「ちゃんと来たんだな」
「当たり前でしょ」
1番前でこちらに話しかけてくる同じクラスの魔王の側近の男。
「魔王は?」
「そんなノコノコと出てくるわけないだろ?」
「それもそうね」
「絶対お前ら全員消して、魔族の平和を取り戻してやる」
「望むところよ。私たちを舐めないで」
「あの時は負け、女王に助けられたくせして何言ってんだよ」
「お前たちだって結局魔王に助けられて逃げただろ?」
「...。まぁいい。今日決着をつけるだけだ」
「そうね」
「やれ!」
「やるのよ!」
こうして戦いの幕は開けた...。
凛side
「ねぇ、どこにいるの?お願い!楓...!吏人...!斗真...!」
どこを探しても見つからない。
ん...?
あそこの公園...。
なんだか異様な空気がを纏っている気がする...。
近づけば近づくほど分かる。
きっとここには何者かが作った空間がある...。
小さなバリアの傷を何度も何度も攻撃する。
「破壊」
「破壊」
つかれた...。
でもこれを破壊しないと!
かつてのドレスに身を包み、魔力を増幅させている私。
「炎焔」
「岩撃」
あと少し...!
「破壊」
バリーン
「はぁ…はぁ…」
「月華様!?」
誰もが手を止め、こちらを見る。
「お前たち、何をやってるの?私に無断でこんなこと始めるなんて」
「申し訳ありませんでした」
「月華だと...?」
「まさか...!」
魔法族は跪き、魔族は動揺を隠さない。
「魔王を出せ...」
「無理だ」
「私は魔王にしか用などない」
「全員下がれ!」
遥か遠くで魔王が叫び、道が開けられていく。
ついにこの時が来た。
さぁ、戦いを始めましょう。
魔王side
「月華様!?」
月華だと...?
まさか復活していたとは。
しかしむしろ都合がいい。
女王を殺し、憔悴した魔法族を滅ぼすだけだ。
「魔王を出せ...」
女王の声が聞こえる。
「全員下がれ!」
さぁ、戦いを始めよう。
凛side
魔王が近づいてくる。
ずっとずっと憎み続けたあいつが...。
魔王side
女王に一歩一歩近づいていく
ずっとずっと憎み続けたあいつに...
凛side
「!?」
やっとお互いの顔を認識した後お互いに驚きの表情を浮かべた。
「どうして...」
「うそだろ...」
「...ぅ...うわぁぁぁん」
私はその場に泣き崩れた。
だってそれは...
春稀だったから...。
春稀side
凛が目の前で泣き崩れている。
俺は呆然として動けない。
「魔王様っ」
「今なら殺せます」
側近が魔の言葉を囁いてくる。
ずっとずっと殺したかった。
そう、今が最大のチャンス。
そして俺は
凛を抱きしめた。
凛side
泣き崩れていた私を魔王は...春稀は抱き締めてくれた。
私...春稀を殺すくらいなら殺されてもいい。
たとえ殺したいくらいに恨み、憎み続けたやつだとしても。
“私、こいつのことがどうしようもなく好きなんです”
だから...
「春稀...」
きつく抱き締め返す。
「もういい。私を殺して」
「は?」
「私、春稀になら殺されてもいいよ。私のこと恨んでるでしょ?憎んでるでしょ?この戦いはどっちかが死なないと終わらないわ。お願い、殺して」
「月華様...お辞めください!いつもそうやってあなたは私たちを命に代えて守ろうとする。だから黙っていたんですっ!」
「いいのよ。黙りなさい」
「嫌です!何としてもお守りすると誓ったはずなのに...」
「...俺が凛を殺せるわけないだろ。二度と殺してなんて言うな」
「嫌よ。なら私は自分で死ぬわ」
「ほんとに黙れ、凜」
「黙るわけな...んっ...」
唇をキスで塞がれた。
いつもの甘いキスじゃなくて噛み付くような乱暴なキス。
魔法族も魔族も私たちの関係に困惑している。
春稀side
俺の乱暴なキスで黙り込む凛。
少し前の俺なら喜んで殺していただろう。
凛だと知る前の俺なら。
でもたとえどれだけ憎み続けたやつだとしても
“俺、こいつのことがどうしようもなく好きなんです”
「凛。なら俺を殺せ」
「え...?」
そうだ、それが一番いい。
「お前ら魔法族だって俺らを憎んできただろ?俺は凛を殺せない。なら俺が責任くらいとる。凛、俺を殺せ」
凛side
「俺を殺せ」
そんなこと私ができるわけない。
「無理に決まってるでしょっ!バカなこと言わないで!」
「俺は魔王なのに?」
「っ...!無理なものは無理なのよ...。だから私を殺してって言ってるの」
「俺だってお前を殺せるわけが無い」
春稀が私を殺せないなら...っ!
「魔族の者たちよ。私を殺せ。私はお前らが憎み続けた魔法族の女王よ?思う存分攻撃していいわよ。その代わりこれ以降魔法族に危害を加えないで」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
あちこちから雄叫びが上がる。
これは魔族が本性を表した証拠。
「凛!お前らやめろ!」
「月華様っ!」
魔族たちは聞く耳を持たない。
今がチャンス。
「防御」
私と春稀、魔法族との間にバリアを張る。
そしてこちら側が完全に見えなくなるようにした。
「凛ーーー!」
「月華様ーーー!」
誰のものかもわからない絶叫が響き渡る。
さようなら、みんな...。
何をされているのかもわからない痛みに歯を食いしばって耐える。
バリーンッ
何かが割れるような音がしたあと堪えきれず、意識が朦朧としてくる。
みんなともう会えることはないのかな。
もう月華としての力や記憶を持って転生することは出来ないと思うから。
でもまた魔法族を救えたから満足。
心残りって言えば春稀のことくらい。
大好きだった。
誰よりも。
春稀は私に何かあったら俺の事忘れろって言ったよね?
だから私がいなくなっても私のことは忘れて幸せになって欲しいな...。
みんな、今までありがとう。
最後に心の中でそう呟いて私は意識を飛ばした。
春稀side
「くっそ!」
どれだけ頑張ってもバリアが壊れない。
凛、お願いだ。
無事でいてくれ。
「永野、どいて」
「は?」
「全員の魔力でバリアを破壊するわよ!3、2、1」
「「破壊」」
バリーンッ
魔法族の息の合った呪文でバリアが割れた。
「永野...いや魔王。月華様を救って」
言われなくてもそのつもりだ。
俺は黙って頷き走り出す。
でもバリアの向こうにいたのは...
魔族が群がる中に血だらけで倒れる凛。
「おい!お前らやめろ!」
「魔王様っ!女王を殺しましたぞ!」
こいつらはとにかく空気が読めない。
俺と凛のさっきのやり取りを見てもなんとも思わなかったのだろう。
怒りが込み上げてくる。
「俺はやめろと言ったはずだ」
俺の冷えきった声に空気が張り詰める。
「凛を...凛を返せ!」
「え...?」
もういい。
俺は奴らから目を離し、凛の元へと向かう。
固く瞼を閉じて、血だらけで動かない。
「凛っ!起きてくれ!頼むから...ぅ...。お願いだ...!」
「月華様...!?お前らよくも月華様を...!」
「朔夜、やめて!これでまた争ったら月華様の想いが台無しでしょ?魔王も朔夜も取り乱してる場合じゃないわ。月華様はまだ死んでないのよ?」
そうだ、取り乱してる場合じゃなかった。
早く凛を治さなければ...。
「魔力の高い者から早く来て。急いで!」
次々に本橋が指示を出していく。
あぁ俺情けない。
凛をあのまま死なせていたら見殺しも同然だ。
「魔法族...。殺してやる!」
はっ!
今は魔族を纏めなければ。
「よく聞け!以後一切魔法族に手を出すな!それとわかっていない者もいるようだが俺と魔法族女王月華は恋仲だ。女王を...凛を絶対傷つけるなっ!」
批判の声や驚きの声があがる。
俺は凛みたいに誰からも慕われている訳じゃない。
だからこういうとき批判もあるんだ。
それは仕方の無いことだ。
でもそんなとき
「魔王様の大切な方を傷つけてしまい申し訳ありませんでした!これ、使ってください!」
一人の子供が凛を治癒している従者たちに薬を差し出した。
それを見た者たちは下を見て俯いている。
やがてその子につられたように何かを差し出したり、手伝ったりする子供たちが増えていった。
何もしないわけにいかなくなった大人たちもまた魔法族に協力していく。
魔法族は驚きの表情を浮かべながらも嬉しそうにしていた。
あぁ、長年に渡り重なった蟠りが溶けていく...。
凛、お前が望んだ平和がやってきそうだ。
だから早く目を覚ませよ。
凛side
「ん...」
なんかいっぱい寝た気がするな...。
ん...?ここどこ...?
改めて周りを見渡すと真っ白で覆われた部屋。
私...そうだ、魔族に襲われて...。
ならここは天国...?
とりあえず起きてここがどこか確かめなくちゃっ!
廊下に出るとなんだか見た事があるような場所。
そして近くの部屋からは声が聞こえる。
そうだ、ここ魔法族協会が会議してた場所!
ってことは私死んでないのかな...?
声が聞こえる部屋のドアに耳を近づけてみた。
「でも...!もうあれから2ヶ月も経ったんですよ?今もそこの部屋で...」
「落ち着いて、徠花ちゃん。月希を信じてあげないと」
え、これ私の話...?
じゃあ今魔法族協会の会議中か...。
まぁいいや。
コンコン
「誰ですか?」
「凛でーす」
「はぁぁぁぁ?」
ドアが開かれた。
「え、ほ、ほんとに凛なの?幻覚?」
「凛だよ?楓ー!」
「良かった...。ほんとに心配したんだから...」
「私も生きてるのが不思議ー」
「ってなんで部屋から出てきてるの?バカなの?」
「え、ここどこかわかんなかったから」
「はぁ...」
「月希らしいな」
「ほんとよね」
みんなに揃って呆れられた。
「かいちょー。誰ですか?」
なんか知らない声がする。
「あ、月希だよ。うちの娘。またの名を女王月華」
「えぇぇぇぇ!」
なぜそんなに驚くのかわかんないんだけど...。
「あ、あの...ほんとに申し訳ありませんでした!俺、あなたを殺そうと...!」
「え、魔族?なんでここに?」
「あなたの想いが通じたのよ。今は魔族と魔法族協力してがんばってるの」
その言葉と目の前の魔族の少年が私に頭を下げている光景を見て涙が溢れた。
「やっと...!願いが叶った...」
「これからはあなたが女王、魔王が王として魔族と魔法族をまとめていくのよ。もうここの協会も終わりにするわ」
魔王...春稀!
早く会いたい。そ
「わ、私春稀のところに行って来るっ」
「病み上がりでそんなに走ったりしないで!究極のバカなの?あんた2ヶ月も寝てたのよ?」
2ヶ月も!?
まさかそこまで長かったとは...。
「安心して。もうすぐ来るわ」
連絡してくれてたのね...。
さすが楓、私の従者なだけあるわ。
でも私、待ちきれないのよ...!
バンッ
「あ、凛!」
「もういいよ、ほっとけばなんとかなる子だから」
「はい...」
私はこんな話をしていたことなど知る由もなく、とにかく春稀を探して走り回っていた。
どこ?
どこにいるの?
「凛」
あぁ、愛しの人の声がする。
私はゆっくりと後ろを振り返った。
「春稀!」
私は真っ直ぐに春稀の元へ走っていく。
そして大好きな暖かい胸に飛び込んだ。
「全く。無茶しやがって」
「ごめんなさい...」
「まぁそういうとこまで惚れてる俺は重症だな」
顔が急速に赤くなるのを感じた。
「凛の照れてる顔久しぶり。可愛い」
「見ないでよ!」
恥ずかしい...。
ポタッ
ん...?
ハッとして見上げると春稀の目から涙が溢れていた。
「春稀、泣いてる...?」
「泣いてねぇよ」
私から顔を背けた春稀。
「ごめんなさい...。私...勝手に死のうとして...」
「ほんとだよ。どれだけ心配したと思ってんだ...!でも全部俺らのためにやったことだろ?ありがと、凜」
「春稀...」
もうお互い涙を隠したりせず、ずっと抱きしめあっていた。
「ねぇ春稀...」
「ん」
「大好き!」
「俺は愛してる。もう離さねえから」
私たちは夕暮れの空をバックに飛びっきり甘い口付けを交わした。