第7話
次の日、学校に行くとなんだかいつもより騒がしかった。
「ねぇねぇ、なんでこんなに騒がしいの?」
その辺にいた女の子の聞いてみた。
「今日は転校生が来るらしいの!それもめっちゃイケメンの人!」
なるほど、それはうるさくなるわね。
「でもこんな時期に転校生?」
「そうらしいよ。凛ちゃんも見た方がいいよ!すごくイケメンらしいから!」
「あ、うん。ありがとう」
正直興味は無いから見に行くのはめんどくさい。
なんでそんなにイケメンがいるからっていちいち騒ぐのかな。
騒ぎが大きくならないうちに早く教室に行こっと。
「楓!おはよ」
「おはよう。今日は遅刻じゃないのね」
「もう!ちゃんと起きたってば。それよりさ、転校生来るんでしょ?聞いた?」
「聞いたわよ。イケメンだって女子が朝から騒いでる」
「ほんっとうるさいよねあれ」
「まあイケメンが2人も来るってなったら騒ぐもんなんじゃない?」
「2人も来るの?」
その情報は初耳だった。
「うん。なんかそこの2人は親戚同士で2人ともこのクラスに入るって噂だよ」
「このクラス!?」
「そう。あのイケメン2人が入ったらますますうるさくなるわね」
「楓は見たの?」
「見たことはある」
「え?知り合い?」
「まあね」
「そっち関連の人?」
そっち関連とは魔法族とか“見える人間”とかのこと。
「さぁ?どうだろうね?」
んん?
「ほらもうすぐチャイム鳴るよ」
楓は隠したいこととかあるとすぐ話を逸らす。
絶対何かある...。
「今日は転校生がいる」
先生の声でみんなそわそわし出す。
「せんせー!2人ともここのクラス?」
「そうだ」
女子から歓声が上がる。
「入れ」
「篠崎吏人です。みんなと仲良くなれるように頑張ります!よろしくお願いします」
「可愛い〜!」
「篠崎斗真。よろしく」
「クールー!かっこいいー!」
私は勢いよく後ろを向き、楓を睨みつけた。
素知らぬ顔してそっぽ向く楓。
でも口角ちょっと上がっちゃってますよ?
「僕が来たの嫌だった?」
急に割り込んできたのは吏人。
もとい翅。
「嫌じゃないよってつば...吏人!なにしに来たのよ!?斗真も!」
「ほら、だから言ったじゃん楓。絶対凛うるさくなるって」
「ここまでうるさくするとは思わなかったわ」
「楓隠してたのってこのこと!?」
「そう」
「もうー!」
「凛、うるさい。吏人と斗真もその辺座って」
「むぅ...」
「知り合いか?」
「幼なじみでーす」
そういえばみんな見てるんだった。
恥ずかしい...。
「先生。俺ちょっと今日体調悪いんで帰ります」
「俺も」
「あ、私も」
「待って待って。私も帰ります」
魔法族4人。私の従者がこんなにここのクラスにいるのは怖くて耐えられないらしいっす。
「帰んな」
朔夜...斗真の一言にビクッとして4人揃ってご着席。
待ってこのクラス魔法族率高すぎない?
魔王の側近までいるとか終わってるよ。
「...?まあいい。今日のホームルームは終わりだ」
超適当にホームルームを終わらせた先生は頭にハテナを浮かべたままそそくさと去っていった。
と、そのとき。
「こんにちは。月華女王三大従者」
魔王の側近の男が嫌味を言いに来たらしい。
「こんにちは。さようなら」
それを察知した3人は速やかに逃亡。
私は何故か取り残された。
「おい!っていうか城崎凛。前から気になってたけどお前何者?」
「はぁ?私は“見える人間”だけど」
やばい、気づかれたら終わりだ。
「なぜそんなに三大従者と仲がいい?」
「えーっと...楓とちっちゃい頃に幼稚園で仲良くなってそのあと楓と仲良かった吏人と斗真とも遊ぶようになって、今は4人で仲良いの!」
適当に言い訳を並べる。
「なるほど...今世からの“見える人間”だから逆に容易にあの3人に近づけたってことか」
そして何故か納得して貰えた。
「ねぇねぇ〜?魔王って誰なの?」
「教えるわけないだろ。お前バカか?」
「ですよねー」
この勢いで教えてくれるかと思ったのに
「凛」
誰かに呼ばれたと思った瞬間勢いよく引っ張られ、連れていかれた。
「なに魔王の側近と呑気に話してるんですか?バカなんじゃないですか?」
「うぅ...」
「斗真、凛をいじめないで?」
ぎゅっ
なにかと抱きついてくる吏人の頭を撫でていると斗真に引き剥がされた。
「ああ!」
「吏人うるせえ。こんなところで抱き合っていたら誤解されるに決まってるだろ」
「え?」
「付き合ってるんじゃないかと思われるぞ」
「いいじゃん。僕凛大好きー!」
「吏人、やめなさい」
「ごめんなさーい」
これから毎日騒がしくなりそうです。
春稀side
俺は女王の従者2人が凛のクラスに入ったと聞いて、友達と変装して見に来ていた。
休み時間ということもあり、女子はみんなドアにへばりつき、イケメン2人を覗き込んでいた。
そこで見た光景は凛に男が抱きつき、それを凛が撫ででいるところ。
凛って三大従者と付き合ってたのか...?
何かが心の中から湧き上がってくる。
いわゆる嫉妬ってやつ。
俺、どうしたらいいんだよ。
凛side
〔春稀‥今すぐ来い〕
春稀からのメールで1時間目はサボることになった。
「んじゃ楓。行ってきます」
「はいはい。行ってらっしゃい」
今日は思ったより早いな。
「春稀!おはよ」
「ん」
なんか今日いつもより春稀が冷たい気がする。
「なぁ」
「ん?」
「お前って付き合ってたのか?」
「は?誰と?」
「誰かと」
まさか春稀にこういう話題を出されるとは思ってなかった。
「付き合ってないけど」
「でも好きな人いるんだろ?」
す、好きな人!?
春稀のこと好きってバレた...?
「な、なんでわかったの...?」
「やっぱりそうなんだな」
「え、や、」
動揺を隠せず、詰まってしまった。
今私の顔は真っ赤だと思う。
「もう俺の呼び出し応じなくていいから」
「え...?」
私...
フラれたってことだよね...?
「じゃあな」
「う、うん」
私のバカ。
今止めれば良かったじゃん。
黙って去っていく春稀の背中を見つめたりしないで、ちゃんと好きって言えばよかったのに。
思いっきりフッてもらえた方が吹っ切れたかもしれないのに。
恋ってこんなにあっけないもんなんだね...。
春稀side
俺は何を考えているんだろう。
凛に好きな人がいるって分かっただけじゃん。
「な、なんでわかったの...?」
そう言った凛の顔は真っ赤でそれがどうしようもなく悔しかった。
例え凛が付き合ってたとしても奪い去ってやるくらいの気持ち、持ってたのに。
これだけで諦めるなんて。
恋ってこんなにあっけないんだな...。
明日から学校には来ない。
俺はやることがたくさんあるんだ。
本当はこんな恋愛沙汰に構っている場合じゃない。
ただ俺の目的に向かって準備を進めるだけだ。
でもどこかで俺の心が叫ぶんだ。
「凛のことが好き。どうしようもなく好き」
って。
あぁ俺情けねぇ。
凛side
「月華様...」
廊下の隅でうずくまって泣いていた私を見つけてくれたのは翅。
「翅...」
「どうされたんですか?」
黙って横に首を振った。
「好きなだけ泣いてください」
いつもみたいにぎゅーって抱きしめてくれる翅の胸の中で思いっきり泣いた。
そして一段落した頃。
「月華様。僕は月華様を傷つけた者を許せません」
「翅...。あのさ、いいのよ?こんなに私のことばかり考えてくれなくても。もう私は月華様じゃないの。城崎凛なのよ」
「僕は...月華様にすごく感謝しています。だからこそ恩返しをしたいのです」
「もうたくさんしてもらったわ。今度は私が返さないといけないくらい」
「いえ。まだまだ全然足りません!もっと僕を頼ってください!」
「頼ってください...なんて。私はずっとあなたたちを母親みたいな気持ちで見てきたわ。あなたたちは...見ない間にこんなにも成長したのね」
「それって月華様は僕のこと息子として見てるってことですか...?」
「うーん。そうかもね」
「月華様が今は城崎凛だとしたら...吏人は凛に男として見てもらえないですか?」
「え...?」
「僕は月華様のこと...凛のことも!ずっと昔から忠誠を誓うと共に大好きだったんです。でも月華様は僕がぎゅってしても絶対嫌がらない。それは嬉しい反面、男としてみてもらえないんだなって悲しかったんです。僕は...男としてみてもらえないんですか...?」
翅の気持ちにすごく驚いた。
まさかそんな風に思われてたなんて...。
「ご、ごめんなさい!僕ったら...!でもちょっとだけでも考えてくれたら嬉しいです...」
「わかった...」
こんなことしか言えない私がもどかしい。
でも私はまだ春稀のことが...
好き。
「あ、あの僕をあの男を忘れるために利用してください...」
「え?春稀のこと...?」
「僕...月華様がどこにいったかわからなくて徠花に聞いても教えてくれないから映鏡使っちゃいました。ごめんなさい」
あ...。
私ブロックするの忘れてた...。
「いいの。どうせそのうち知られると思ってたし」
「すみません...。それで考えてくれませんか?僕を利用すること」
「そんな...。翅に悪いっていうか...」
「いいんです。むしろ僕はそうしてほしいんです」
「わかったわ。よろしくお願いします」
「はい!」
利用する...かぁ。
案外それもいいかもしれない。
春稀のこといつまでも引きずっちゃいそうだもん。
翅のこと好きになれればいいんだけどな...。
それにしてもこんなに積極的な翅初めて見た。
あれから楓にもさっきあったこと話したけどやっぱりびっくりしてたもん。
でも楓は春稀のこと忘れなくてもいいんだよって言うの。
私は忘れないと進めない気がするから忘れたいとは思うんだけど。
どうしよう...。
それより私は楓の恋が実るといいなって思ってるんだ。
私の恋は終わっちゃったから。
今はちょうど朔夜もこの学校に来てるし。
一緒に過ごす機会が多い。
ただあの子は3人の中で1番私に忠誠を誓ってくれてるんじゃないかなって思うんだよね。
外には出さないけど。
それは私を女として好きだからって訳じゃない。
でもそんな朔夜が恋なんて興味持たないだろうなっていうのはわかる。
だからこそ楓には頑張ってもらいたい。
私の従者同士が恋人だなんて嬉しすぎるもん。
今はただそうやって従者たちや他のみんなと過ごす学校生活をただただ楽しむだけ。
そろそろ魔王のことも本格的に始めようと思ってるけどもうちょっとだけこの生活楽しませて。
今私は城崎凛。
月希でも月華でもないんだから。
そうやって甘えてばっかりいたからあのときだってあんな事態になったのに。
もうとっくにことは動き出していたことを私は知るはずもない。
「おはよ。楓、吏人、斗真」
「おはよ、凛」
「「...」」
男子2人からは返答なし。
「相変わらずお疲れだね」
「ここの女子のイケメンに対する圧力半端ないもんね」
男子2人は朝から騒ぐ女子の相手を毎日している。
そのせいで私が来る頃にはこの通りぐったりしてる。
「凛...癒して...」
そう言ってぎゅって抱きついてきた吏人。
「はぁ...邪気が浄化される」
「ほんとお前こんなところで凛に抱きつくなって何回言ったらわかるんだよ」
「だって僕凛大好きなんだもん」
「凛が困ってるだろ」
「凛は困ってないもん。契約したんだもんねー?」
「う、うん」
「なんの?」
「僕が凛が好きだった人のこと忘れさせるっていう契約」
「へぇ。吏人は凛のこと昔から好きだったもんな」
「うん」
恥ずかしげもなくそういう話しないでほしいんだけど。
「それより斗真は好きな人いないの?」
「いるわけないだろ」
「そっか。凛一筋だもんね」
「まあな」
はぁ...。
ちょっといい加減にして欲しいんだけど。
「あのさ...誤解招くからそういう言い方するのやめてもらっていい?」
っていうかほんとに誤解を招いて楓が顔面蒼白だから。
「は?」
「それじゃあ斗真が私の事好きみたいに周りに勘違いされるから」
自分で言って恥ずかしくなる。
もうこの話題やめたい...。
「そ、それよりお腹空いた!」
我ながらいい感じに話を逸らせた気がする!
「話逸らしたの丸わかりなんだけど」
「地味にドヤ顔してるし」
「そういうとこさすがです」
「ああああ!もう!私トイレ行ってくる!」
「あ、逃げたー」
私、いじめられてません?
って思ってた矢先。
「城崎さん、ちょっといいかしら」
前には数人の女子。
本物のいじめに逢いそうです。
「はい...」
連れていかれた場所は体育館裏。
いじめにありがちすぎるシチュエーション。
「城崎さんさ〜、男はべらせるのはいいけど吏人くんと斗真様取るのやめてもらっていい?」
「ちょっと顔がいいからって卑怯よ!」
「目障りだわ!」
「今後一切2人に近づかないで」
「嫌よ」
2人と話さないなんて耐えられるわけない。
「やって」
バシャ
つめたっ!
「これでせいぜい頭冷やすといいわ。これ以上2人に近づいたら許さないから」
笑いながら去っていく女子たち。
水をかけられたせいで服がびちょびちょ。
それにしても変わってないわねあの子たち。
あの“魔法族”の子たち。
そう、あの頃からサバトにも参加せずいつもギャルみたいな格好して騒いでた。
イケメンだった翅と朔夜にはベタベタしてたし。
救ってあげた私には恩を感じてたらしく、すごく慕ってくれてたけど。
そういえばこの前のサバトも来てなかった。
だから知らないのね。
まさかあの子達にいじめられるとは。
世間知らずにも程があるわよ。
「はぁ...」
とりあえず私がいる場所を知られないようにブロックしてっと。
誰もいないことを確認して体を乾かす。
「乾燥」
よし、乾いた。
もう少しここで休んでよう...。
次の日から更にいじめは続いた。
トイレに入ったら水をかけられるし、下駄箱や机の中にはいろんなことが書いた紙が沢山入ってた。
歩いているとわざとぶつかってきたり、小声で暴言吐いたりもされた。
私はそれがみんなにバレないように必死に隠した。
心配かけたくなかったから。
本当はちゃんと私が月華だってこと言えばいいのに何だかタイミングが合わない。
そんななか訪れたチャンス。
「ついてきて」
2度目のお呼び出し。
「まだ懲りないの?」
「いい加減離れなさいよ!」
「聞いてんの?」
ガンッ
「いっつ...」
言おうと思ってタイミング見計らってたらお腹を思いっきり蹴られた。
痛くて声も出せずどうしようもなかった。
「ねぇ、君たち何してるの?」
「吏人くん...じゃなくて翅様!」
「遊んでただけですわ」
「そうです。お話してたんです」
「じゃあどうして凛はうずくまって呻いてるの?」
「こ、これは」
「凛いじめたら許さないよ?」
「それはこいつが翅様と朔夜様に近づこうとするから...!」
「治癒」
「凛、大丈夫?」
吏人が治癒の魔法をかけてくれたから痛みは治まった。
「大丈夫よ。ねぇ、どうして私吏人と斗真に近づいちゃだめなの?」
「2人はみんなのものなのよ!」
「徠花様はいいけどたかが人間のあんたなんかが近づく存在じゃないのよ!」
「へぇ。お前たちこの前のサバト来なかったわよね?何があったか誰かから聞いてないの?」
「は?聞いてるわけないだろ」
「聞いた方が良かったんじゃない?っていうか何回言ったらわかるの?サバト参加しろって」
髪を下ろし、カラコンを外し、魔力を放出する。
「え、えぇー!月華様!?」
「よくもいじめてくれたわね?」
「や、あの」
「次から絶対サバト参加すること。来なかったら許さないわよ」
「「は、はひ!」」
「行こ、吏人」
「はぁーい」
「吏人、どうしてここが...?」
「最近おかしいと思ってたからつけてきた」
「私...おかしかった?」
「なんか変だった」
「ごめんなさい...ありがとう」
「うん!怖かったでしょ?大丈夫?」
「怖かった...。」
ぎゅっ
「よく頑張ったね!」
翅に抱きしめられると安心する
これって好きってことなんですか...?
これって恋なんですか...?
もうわかんないよ...
でもこの調子で吏人のこと好きになれるかな?
「僕、凛が無事でよかった」
そう言って泣きそうな顔になった吏人
「もう、ほんとに大袈裟なんだから」
「だって...」
やっぱり私、吏人のこと大好き
もう好きの区別がわかんないよ...
次の日。
今日も私は放課後のパトロールをしていた。
なんか今日は体がだるい。
何をしてても頭がぼーっとする。
カキーン
「もう一切争いなんて起こさないで」
今日でもう5件目だ。
疲れたぁ...。
周りの景色が霞んでいき、私はその場に倒れ込んで意識を失った。
「ん...」
目が覚めると見たことの無い天井が目に入る。
えーっと私パトロールしてて...。
「凛...起きたか?」
「え...春稀!?」
会いたくて会いたくてたまらなかった人物が目の前にいた。
会ってないのはたった1週間くらいなのに。
「俺の家の前で倒れてたから連れてきた」
「あ、ありがとう。私ここにいて大丈夫...?」
「俺は大丈夫だけど。親御さんに連絡した方がいいよな?番号教えて」
「****―**―****。こんな事まで...ごめんね」
「ゆっくりしてろ」
なんでそんなに優しくしてくれるの...。
私...吏人を見て好きかもって思ってたのがバカみたい。
春稀への気持ちはあんなもんじゃなかったこと気付かされた。
やっぱり春稀が好きってわかった。
でももうどうしようもないんだよね...。
知らず知らずのうちに涙が出てきていた。
「なんで泣いてんの?」
「あ...」
やばい!
見られちゃった。
「俺と話すのそんなに嫌?ごめんな、連れてきちゃって。お前には好きな人いるのに」
「え...?好きな人?どういうこと!?」
「お前好きな人いるって言ってたじゃん。だから俺諦めたのに」
「なにを?」
「凛のこと」
気分が最高潮に上がっていく。
それって私のこと...。
自惚れてもいいんだよね?
「バカ。バカ。春稀のバカ!私が好きなのは...春稀なのに!」
「は...?嘘だろ?じゃあなんで抱き合ってたんだ?」
「あ、吏人と?あれはなんか幼なじみの名残的な...?」
「俺...勝手に勘違いして...あーもうイライラする」
「えぇ!?怒ってるの...?」
「そう、怒ってるの」
「なんで怒ってるの...?」
「泣くなって。お前が可愛すぎるから」
「!?」
最高に幸せな気分。
もうこれ以上の幸せないんじゃないかって思うほど。
何だか今なら何でもできる気がしてぎゅって春稀に抱きついた。
「ねぇ、大好き。大好きだよ春稀」
「あぁもう理性吹っ飛びそう」
??
「そんな可愛いこと言ってるとキスすんぞ」
久しぶりのニヤッと笑った意地悪な顔で笑った春稀を見た。
「いいよ?///」
今の私は最高に変だと思う。
全身火照っている。
「もう知らないから」
春稀の綺麗な顔が近づいて来たと思ったら唇に暖かい感触を感じる。
「んっ...」
生まれて初めての幸せなキス。
春稀の舌が口内に侵入してくる。
「ん...ぅ......は...るき...」
く、苦しい...。
春稀はニヤッと笑って私を放した。
その場に座り込む私。
「凛」
「ん?」
「好きだよ」
「...///」
「可愛すぎだろ」
私のファーストキスは大好きな人からの強引で甘々な最高のキスでした。
「っていうかお前熱あんだよな?」
「あ」
そうだった。
私熱のせいでおかしかったのか...。
「もうちょっと寝てろ」
「はーい」
幸せな心地ですぐ眠りについた。
春稀side
なんだ俺、誤解してたのか。
ほんと調子狂う。
ベッドに眠る俺の可愛い凛。
無防備に眠る天使の寝顔。
さっき重なった唇をふいに触る。
こんなに幸せな気分になったのはいつぶりだろう。
いや、初めてなのかもしれない。
なぁ、凛。
これからたくさん甘やかしてやるから。
覚悟しとけよ?
まずは目的を早く達成すること。
さぁ、準備を進めよう。
このことは凛にバレないようにしないと。
全部終わらせて何事も無かったかのように凛と幸せな毎日を送るんだ。
凛side
「んー...」
「凛?」
「春稀...」
起きたら大好きな春稀がいた。
幸せすぎて寝ぼけた顔でふにゃっと笑ってしまった。
「はぁ...。そんな顔すんなって」
「へ?」
「まぁいい。熱は...大体下がったみたいだな。家帰れるか?」
「やだ。帰りたくない」
だって離れたくないよ...。
「だめ。帰れ」
「そんなに帰って欲しいの...?」
「帰って欲しくない。でも親御さん心配するだろ?」
「むぅ...。明日も会える?」
「明日はちゃんと学校行く」
「やったー!」
明日からまた春稀と会える...!
「じゃあ送ってく」
「だ、大丈夫だよ!」
「こんな暗い中一人で歩いてなんかあったらどうすんだよ。車出すから早く準備してこい」
「ありがとう...」
結局その日は春稀の家の執事さんに車を出してもらって家に帰った。
それにしてもほんとに春稀ってお金持ちなんだな...。
家も車もでかかったし、執事さんいっぱいいたもん。
帰り際に
「じゃあね、俺の彼女さん」
って春稀に言われたせいで今もテンションあがりまくってます。
私たち付き合ってるってことだよね。
こんなに幸せになってもいいんですか?
たくさんの者を殺した私。
春稀をあの暗い世界に巻き込まない為にも早く決着つけないと...。
ピンポーン
「はーい」
「凛さんを迎えに来ました」
「きゃっ!イケメンくんじゃなーい!昨日電話してくれた子よね?彼氏?」
「そうです」
「凜ったらやるじゃない!あんな子だから手かかるかもしれないけどよろしくね」
「はい!わかってますから大丈夫です」
「凛まだ寝てるから起こしてもらっていい?」
「え、まだ寝てるんですか?」
「そうなのよ。全然起きないのあの子」
「わかりました。起こしてきます」
こんな会話も知らず、私はケーキを追いかけていた。
待って!
お願いー!
食べさせてよ!
「いやーー!行かないでーー!」
「は?おい、おい!凛!」
悲しみに打ちひしがれる私を誰かが呼んでいる。
「起きろ」
ガバッ
「春稀!?」
「よし、やっと起きた。時間ないから早くしろ」
「なんでここにいるのよ」
「迎えに来たけど起きてないって言われたから起こしに来た」
寝起きとか恥ずかしすぎる。
「もう...」
「っていうかお前寝言やばいぞ」
「え?」
「何追いかけてたんだ?」
「えっと...それは...」
うわ絶対バカにされるこれ。
「どうせお菓子とかだろ?」
うっ
なんでわかったんだ...。
「その顔は図星だな」
私は布団に潜りこんで隠れる。
「凛。りーん?置いてっちゃうよ?あ、あと15分でベル鳴っちゃう。じゃあね」
「は!?起きます起きます!待って下さいぃ!」
「はい、着替え」
「ありがと...って出ていって!」
「なんで?手伝ってあげようと思ったのに」
「だめー!早く早く!」
呆れながら外に春稀を押し出す。
「よし、準備OK!お母さん行ってきます!」
「行ってらっしゃい!春稀くん、よろしくね」
「お預かりします!」
私は保育園児かよ。
なんか知らない間に2人仲良くなってるし。
そして私は春稀の高級特大車に乗って学校へ。
「ん」
なぜか手を差し出してきた春稀。
「え、なに?」
「手繋ご?」
急速に顔が火照ってくる。
「何こんくらいで恥ずかしがってんの?昨日はあんなに積極的だったのに」
「意地悪...」
私は差し出された左手を右手で恐る恐る握る。
「ん。いくぞ」
「うん///」
そのとき
「キャァァァァァ」
「春稀様ぁ!」
あ、やばい。
すっかり忘れていた。
「春稀様が凛ちゃんと...」
「凛ちゃんならなんか憎めないよね...」
「悔しいけど絵になってるし」
なんかよくわかんないけど良かったのかな?
それより
「なんでわかってたのにわざと私と一緒にここ歩くのよ」
「見せしめ」
「なんの?」
「凛は俺のものっていうのを見せつけるため」
私今日春稀にドキドキさせられてばっかり。
「うぉぉぉぉー!」
「凛ちゃんが...」
「永野に...」
なんか男子も騒いでる。
なんて言ってるかわからないけど。
「ほらな?」
「ほえ?」
「はぁ...。これだから俺が守んないといけねえんだよ」
「あ、待って春稀!時間やばい!」
突然時間を思い出した。
「え?あぁ大丈夫だろ」
「私は大丈夫じゃないの!先行くね!ばいばーい」
「今日は2時間目の後な」
「はーい!」
春稀の声を背中に聞きつつ、教室にダッシュ。
「凛。見てたわよ。おめでと」
「楓!ありがと」
「誰だあいつ」
「斗真...。落ち着いて」
なんか怒りのオーラが出てる。
そういえば斗真には言ってなかった...。
「凛...」
「吏人...ごめんなさい」
「大丈夫...!おめでと、凛。僕は凛の幸せを祈ってるよ。なんてったって月華様の三大従者ですから!これからも月華様のことお守りします」
「ありがと...吏人」
「うん!」
本当に吏人には悪いことしたなって思う。
吏人の顔引きつってたし。
それでもああやって言ってくれるのは嬉しかった。
いつもみんなの弟みたいな感じで子供扱いされるけど実は何でも自分でやろうとして溜め込んじゃうところがある吏人。
あの頃も魔族との争いの知らせがあっても私に言わず勝手に一人で片付けに行っていた。
知らず知らずのうちに私はそんな吏人を自分に重ね合わせていたかもしれない。
私も少しそういうとこあったから。
恋愛感情ではないけどやっぱり吏人のことは大好き。
2時間目が終わり、私はいつもの場所に1週間ぶりに行った。
なんか久しぶりだな...。
「凛」
「春稀!」
そして私は愛しの彼氏の元へ走っていく。
「眠い」
「え?」
「正座して」
言われた通りに正座すると春稀の頭がすとんと私の太ももの上に。
「おやすみ」
「お、おやすみ」
もう寝息を立てて寝ている春稀。
ってこれ膝枕じゃん!
ずっとこの姿勢とか恥ずかしすぎる...。
そのまま時間だけが過ぎていく。
やっぱり改めて見るとほんとにかっこいい。
寝顔までイケメンすぎるよ...。
こんな人が私の彼氏なんだ。
何となく嬉しくて春稀のほっぺに口付けてみた。
なんだかニヤケてしまう。
ガシッ
突然腕を掴まれた。
「は、春稀...。起きてたの?」
「おう。起きてた」
「いつから...?」
「さっき。寝込み襲うとか積極的じゃん」
み、見られてた。
「ひっ」
「でもするならそこじゃなくてここだろ?」
そう言って自分の唇に指を当てる春稀。
「ほら凜。ここにしてごらん?」
「無理無理無理!」
「どうして?」
「恥ずかしいから!」
「この前は自分から誘ってきたくせに。じゃあ今凜からキスするのと明日みんなの前で俺とキスするのどっちがいい?」
選択肢がおかしい...!
「今する...」
ちゅっ
触れるか触れないか程度のキスをする。
「顔赤すぎ。でもそんなんじゃ足りない」
「えっ!?」
「キスっていうのはこういうもんを言うんだ」
そう言ってこの前よりも甘くて濃厚なキスをしてきた。
「んっ...」
何回も顔を離し、くっつけるを繰り返す。
酸素を求めて口を開けると、舌が入ってきた。
「ん...はる...き...」
「涙目で上目遣いとか煽ってんの?」
体が崩れ落ちそうになった私の腰を春稀が支える。
やっと顔を離し、腰を支えていた手を緩める春稀。
私はその場に崩れ落ちた。
「わかった?これが本物のキス」
何回も首を縦に振り、頷く。
「ねぇ...。なんで春稀は全然余裕なの?私ばっかりドキドキしてる...」
「俺の胸触ってごらん?」
「早い...」
「こんな可愛い凛とキスしてドキドキ余裕なわけないでしょ?...また顔真っ赤」
「もう、見ないでよ...意地悪...」
ほんと恥ずかしい。
「なぁ、あのさ。今週末空いてる?」
急に話題を変えた春稀。
「あ、空いてるよ」
「どっか遊び行かね?」
「いいよ!」
でもそれって...
デートだよね...?
「どこ行く?」
「どこでもいいよ」
「んじゃ遊園地な」
遊園地...!?
私苦手な乗り物多いんだよね...。
「いい?」
「い、いいよ」
私のバカ。
大丈夫かな...。
そしてあっという間にデート当日。
服装は上はニットのセーターに下はあんまり履かないミニスカート。
ベレー帽を被り、バッグを肩にかける。
張り切っておしゃれしちゃった。
ピンポーン
「凛!春稀くん来たわよ」
「今行くー!」
もう一度鏡を見てから部屋を出る。
「行ってきます!」
「楽しんできてね」
「おはよ!」
春稀の私服かっこいい...。
「ん」
あれ...?
なんか冷たい...?
せっかくのデートなのに機嫌悪いのかな。
春稀の家の車に乗せてもらっていざ遊園地へ。
「うわぁ...すごい混んでるね」
「そうだな」
やっぱりなんか変。
「あのさ...。私なんかした...?」
「うん、した」
私のせいだったのか...。
「なんで怒ってるの?」
「可愛すぎるから。スカートも短すぎ」
「へ...?」
「お前は俺だけのものなのに。こんなに可愛い凛他の人に見せるなんて無理。今すぐ帰りたいくらい」
みるみるうちに私の顔が火照っていく。
「私...春稀とデートしたい」
「...そうだな。よし、早く行くぞ!」
「うん!」
「まず最初はやっぱり1番人気のジェットコースター乗ろうぜ」
ジェ、ジェットコースター!?
無理無理無理無理。
でも春稀の足はもうそっちに向かってて、言い出しずらい。
きっと大丈夫よ凛。
気をしっかり保つんだ。
「そ、そうだね」
ドキドキ
やばい、もうすぐ順番だ。
順番なんて一生回ってこなくていいのに...。
でもそんな願い虚しく順番は来てしまい...
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おい、凛!凛?」
半分気を失ったまま乗っていた。
「ぎ、ぎもぢわるい」
「まさかあそこまで苦手だったとは思わなかった。あ、俺飲み物買ってくる」
「うん...」
死ぬかと思った。
もう一生乗らないって決めた。
急に私の周りに影が集まった
「お嬢ちゃん。1人?」
「俺たちと一緒に回ろうよ」
顔を上げたら見るからにチャラそうな男軍団。
これってナンパ...?
「いや、あの1人じゃないです...」
「じゃあその友達も一緒に。ね?」
「ほらおいで」
「きゃっ」
強引に手を引かれ、連れて行かれそうになる。
「おい」
「なんだお前」
春稀...。
「それ俺の彼女だから。触んな」
「チッ。彼氏持ちかよ。行くぞ」
怖くて地面にへたりこんでしまう。
「だから嫌だったんだよ。ほら立て」
「は、春稀!ありがと...」
「おう。向こうのベンチまで行くぞ」
「うん...」
「大丈夫だった?怪我してないか?痛いところとかないか?」
「大丈夫だよ...」
思ったより過保護な春稀。
さっきから質問攻め。
「もう大丈夫だから次行こ?」
「...ん。わかった。どこ行きたい?」
「うーん。メリーゴーランドとか?」
私が苦手じゃない乗り物ってそれしか思いつかない。
「メリーゴーランドとか子供かよ。まぁいい、行くぞ」
その後は何個かゆるーい乗り物に乗りつつ、まったり過ごした。
「じゃあ次はお化け屋敷な。さすがにこれは外せねぇ」
「は...?お化け屋敷!?絶対無理!」
「大丈夫だって。なんとかなる!」
そして私のいちばん嫌いなお化け屋敷に入ることになってしまった。
「どうぞ」
係員に促され中に入る。
暗いよ...。
まだ何も出てきてないけど、暗いだけですごく怖い。
「ふえ...」
「は?もう泣いてんのか?」
「だって暗いんだもん...」
ガシッ
「絶対手離しちゃだめだぞ」
ドキッ
そういうセリフもカッコよすぎる。
とは言っても怖いもんは怖いわけで。
「キャァァァァァ!イヤァァァァ!やめてぇぇぇぇ!」
すごい声で叫びまくってた私。
「もう少しだ」
よかった...。
ポン
「イヤァァァァ!」
後ろから肩に手を置かれ、びっくりした私は春稀に思いっきり抱きついてしまった。
慌てて離れようとしたけどやっぱり怖くて離れられなかった私を春稀が引きずるようにしてゴールした。
「あ、ごめんね!」
「自分から抱きついてくるなんて積極的じゃん」
「ひぃっ...」
嫌な予感がする...。
ってことで逃げますっ。
「おい、待て!」
「やだっ」
ドンッ
いった...。
誰かにぶつかって転んじゃった。
「バカすぎ」
でもちゃんと立たせてくれる。
「春稀...」
「なに?」
ぎゅっ
「大好き」
なんかただ単純に言いたくなった。
抱きついたまま春稀を見上げるとなんか顔が少し赤くなっていた。
もしかして照れてる...?
「春稀が照れてる!」
「うっせぇ黙れ」
「んっ...」
「うるさい口は塞がないとな」
甘くとろけるようなキスで私を黙らせる。
「顔赤い。凛も照れてる」
「もう...!」
「若いっていいわね〜」
「羨ましいわぁ」
通行人のおばさんの声で我に返る。
やばい、ここ普通に遊園地の中だった。
「あ、あ、もうすぐ帰んないといけないし、観覧車乗りたいー!」
強引に話題を変える。
観覧車には乗ってみたかったし!
「観覧車か...いいぞ」
そして今私たちは空中にいます。
「わぁ〜!すごい見て見て!」
私ははしゃぎまくってる。
「なぁ...」
ふと春稀が真面目な表情で話し始めた。
「ん〜?」
「もうそろそろ俺学校行けなくなる」
「え...。なんで?」
「色々やんないといけないことがあるんだ。早く全部終わらせて凛と一緒にいられるようにする」
「わかった...」
「でももし戻ってこられなくなったとしても...。俺のことは忘れて」
「戻ってこられなくなるって...どういうこと?」
「ちょっと危険なことなんだ。入念に準備してるから大丈夫なはずだから。でも...もしも」
「もしもなんて言わないで!絶対生きて帰ってきて。私の彼氏は春稀だけなんだからっ!」
春稀がどんな危険なことをしているのかわかんないけどそれで死んだりしたら許さない。
「そう...だな。絶対帰ってくるから安心して待ってて」
「うん!」
それでこそ春稀。
それでこそ私の彼氏よ。
楽しい一日はあっという間に過ぎ去り、デートは終わった。
「いつまで学校来れるの?」
「あと1ヶ月くらいは行けるよ」
「良かった...じゃあまた明日ね!」
「じゃあな」
春稀の言葉もう少し疑えばよかった。
“危険なこと”が何か突き止めておけば変わったことはあったはずなのに。
「メイド喫茶!」
「凛ちゃんのメイド服姿見たーい!」
「執事喫茶がいい!」
「吏人くんと斗真様の執事姿...」
今日は文化祭の出し物を決めてます。
なんで私のメイド服見たいの!?
絶対それを見て笑いものにする気だ...。
「じゃあ執事メイド喫茶でいいですか?」
「いいでーす」
結局執事メイド喫茶になったらしい。
もうちょっといいの無いわけ?
まぁいいや。
どうせ裏方だし。
「えーっとメイドは凛ちゃんは決定でしょ?それであと楓ちゃんと彩香ちゃんと咲希ちゃんも可愛いよね〜」
さすが魔法族。
みんな顔面偏差値は高いのです。
ってそれより
「私は裏方ですっ!」
「だめだよ!凛ちゃんはメイド!」
なんかクラス中からのブーイングの嵐で結局やることになっちゃいました。
最終的に決定したのはなぜか全員魔族か魔法族。
絶対割れるってこれ。
でもさすが魔族と魔法族。
みんなちょっと外国人っぽい顔してるからそれだけで顔面偏差値高くなるのよね。
なんか余計憂鬱になってきた。
しかも超短いスカート履いて、
「おかえりなさいませ、ご主人様♡」だよ?
無理無理無理。
吐き気がするもん...。
明日からもう文化祭の準備始まるらしい。
やだな...。
そしてほんとに始まった準備。
「凛ちゃん!ちょっと来て」
「はーい」
「制服脱いで」
「え?」
ぼーっとしてる間にどんどん脱がされていく。
いや、女の子だからってさ...。
「はい、じゃあ測るね」
「あ、うん」
今私は下着姿。
「きゃ〜!凛ちゃんウエスト細すぎ!」
「でも胸は結構あるんだね...。スタイル良すぎる...」
ほんとに恥ずかしい。
「OK!いいよ〜」
「あのさ、メイド服ってどんな感じ?」
「えーっとね、スカートはこんくらい短くて全体的にかなりフリフリにするつもり」
指さしているところはかなり上。
絶対パンツ見えちゃう。
「もうちょっと長くしてもらっていい...?」
「だめだめ!ほら戻って」
作戦失敗...。
1週間後、出来上がったというお知らせが届いた。
「明日着てもらうね」
もう出来たとか早すぎる。
絶対着たくない。
明日学校休もっと...。
「絶対明日休んだりしないでね?」
え、バレた...!?
「かえでぇ〜!やだよぉぉぉ!」
「私だって嫌よ」
「いいじゃん楓は可愛いから」
「永野も苦労するわね」
「なにが?」
「なんでもないわ。とにかく明日は来るのよ。1人だけ逃げようなんて許さないから」
「むぅ...」
「凛ちゃん、メイド服姿楽しみにしてるね」
後ろから現れた彩香ちゃんと咲希ちゃん。
「2人だって着るでしょ」
「みんなの本命は凛ちゃんだもん」
「明日、楽しみだな...!」
ニコニコ笑いながら言ってくる彩香ちゃんは可愛いけど、その裏に絶対来いっていう脅しを秘めてそうな笑顔を浮べる咲希ちゃんは怖い。
「徠花様のも楽しみにしてます!」
「ありがとう...」
嬉しくなさそうな楓。
そういえば私は魔族にバレないようにみんなに敬語使わせないようにしてるけど、未だにみんな楓には敬語を使っている。
絶対人間の誰かが見たら不思議に思うよね。
「徠花様っ楽しみにしてますっ」
私も便乗してからかってみた。
「凛」
やばい、怒りのオーラが...。。
「明日絶対来させるように永野に頼んどくから」
春稀!?
それは困るんだけど...。
地雷踏んだ私...。
次の日の朝、私は頑張った。
そう頑張ったの。
「お母さん、体調悪い...」
「熱は?」
「ないけど...」
「なら行けるだけ行ってきなさい」
「死んじゃうかも...」
「大袈裟なんだから。じゃあもう少し良くなってから行けばいいじゃない?」
「そうする」
ピンポーン
「はーい」
やばいっ!
「あ、ごめんね春稀くん。凛体調悪いみたいだから先行ってもらっていい?」
「それずる休みっす。本橋楓からずる休みするから連れてこいって言われてるんすよ」
「あ、そうなの?楓ちゃんが言ったならそうね。連れていってもらっていい?」
「はい!」
うわっ!
終わった...。
「凛。早く準備しろ」
「やだ」
「着替えさせんぞ」
「ひぃっ!それは無理!」
「じゃあ着替えろ」
「はいぃ...」
だから嫌だったんだよ...。
そして私はもう学校に行ける格好に。
「行ってきますは?」
「行ってきます...」
「行ってらっしゃい!」
車に乗ること20分。
着いてしまった。
「やっぱりやだ〜!」
「逃げんな!」
ヒョイッ
「ひゃっ」
お、お姫様抱っこ!?
ここに誰かいなくてよかった。
「降ろしてー!」
「じゃあ逃げない?」
「うん」
やった!降ろしてもらった!
逃げろ...!
「遅い。逃げないって言っただろ?」
「ひいっ...」
またお姫様だっこされそのまま学校へ。
抵抗したけど無理だったから諦めて顔見られないように春稀の胸に顔を埋めてた。
「ねぇ、恥ずかしい」
「逃げるから悪い」
「キャァァァァァ」
そのまま教室まで連れていかれたんだよ?
女子たちは騒いでるし、恥ずかしいから降りたくない。
「降りろ」
「やだ、恥ずかしい」
「本橋。これ」
「えぇ。ありがと。降りなさい、凜」
このまま粘るのも恥ずかしいから降りるしかない。
「こうなると思ったわ。観念しなさいよ」
「うぅ...」
「凛ちゃーん!これ着て!」
「えっ」
フリフリすぎ。
スカート短すぎ。
着たくない!
「着ないなら春稀様呼ぶよ?」
「やだ」
「じゃあ着て」
「はぁーい...」
こうしてほんとに着ることに...。
「凛ちゃん、着た?」
「うん」
「開けていい?」
「だめ」
こんなの見られるなんて...。
「開けるよ」
無理やり開けられた。
「きゃ〜!可愛すぎ〜!ちょっと行こ行こ!」
そして今何故か教室で鼻血を出した男子と叫ぶ女子を目の前に恥ずかしさで死にそうになっている。
なんで鼻血出してるの...?
しかもそんなにお世辞並べなくていいのに。
でもとにかく...。
はやく脱ぎたい!
「じゃあ私、戻るからっ」
「あぁー!凛ちゃぁん...」
もうほんとにやだ...。
文化祭なんてやりたくない...。
「凛、お疲れ様」
教室に戻ると楓たちに苦笑いされた。
「可愛くないよ...やっぱりあれはこんなブスが着るもんじゃない...。楓早く着てきてよ!ほらそこのイケメン2人も執事姿見せて」
「俺執事やるなんて一言も言ってねぇのに」
「僕楽しみ!」
吏人だけテンション高い。
その性格羨ましい...。
「楓ちゃん、吏人くん、斗真様来てー!」
「お呼び出しですよ」
「はぁ...」
まず最初に楓がでてきた。
「楓〜!可愛すぎ!」
「凛に敵う人なんていないと思うわ」
「またまたぁ!謙遜はやめなさいっ」
「いや事実よ...。ほら、そろそろイケメン2人の登場よ」
「キャァァァァァ」
やばっ!
かっこよすぎ!
さすが私の従者ね。
「凛、楓!見てー!」
「吏人も斗真もかっこいいじゃん」
「早く脱ぎてぇ。おい、吏人早く戻るぞ」
「ちぇっ。つまんないのー」
ピロロン
「あ、多分春稀だ。じゃあ私行くね」
「いってらっしゃーい」
携帯を開くとやっぱり春稀からだった。
そういえば今日お姫様抱っこされてたんだった...。
今更だけど恥ずかしい。
「春稀」
「あ、来た」
「あのさ...。今日なんかごめんね...」
「あぁお姫様抱っこのこと?」
それ言わないでよ...!
意地悪...。
「顔真っ赤じゃん。しかも降りろって言ってんのにやだとか言い出すし」
「うっ...」
「っていうか今日なんでずる休みしようとしてたの?」
「え?楓に聞いてないの?」
「うん」
「文化祭の出し物で執事メイド喫茶やるからそれのメイド服着させられたの...。それが嫌で休もうとした」
「メイド服!?それで他の男子のところとかも行ったのか?」
「あぁ、教室に連れていかれた」
「くっそ!連れてこなければよかった...。もう着ちゃだめだ」
「私だって着たくないよ...でも無理やり着させられるもん」
「とにかくだめなもんはだめだ」
「えぇ...」
強引すぎだよぉ...。
「あ、そういえば俺やっぱり明日から学校来ない」
「え!?」
突然のカミングアウト。
「夏休み前には終わらせたいんだ」
「...。」
「この方が夏休み一緒にいられるだろ?」
あ、そっか。
「わかった...。がんばってね?」
「おう!」