第5話
今日は宿泊研修当日!
〔楓‥しおり持った?下着とか忘れないでよね〕
〔凛..全部持った!〕
昨日から楓の持ち物確認がすごい。
私そんなに忘れ物しそうに見えるのかなー?
「お母さん!いってきまーす!」
「楽しんでくるのよ!」
「はーい!」
「班ごとにバスに乗れ!」
みんななんだか騒がしい。
「凛、ほらそこの男子も。早く乗るわよ」
楓班長仕切ってます。
「はひっ!」
そして声が裏返る情けない男たち。
私は敬語使うなって言ったからタメ語で話してくれるようになったけど相変わらず楓のことは怖いらしい。
そしていざ出発!!
私の席は窓側。
窓からは私たち1年3組のバスの隣に並ぶ1年2組のバスが見える。
「うわっ...」
「どうしたの?」
「い、いやなんでもないわ」
ちょうど窓越しに見える位置にいるあいつ。
今絶対こっち見て笑ったし。
ほんとに来るとは...。
「凛の窓から見えるの永野春稀じゃない?最近学校まともに来てると思ったら宿泊研修にまで来るのね」
「そうだね」
「凛は元々学校1のイケメンとか興味無いだろうけど」
「あ、あはは」
「何その笑い方。ぎこちなさすぎて気持ち悪いんだけど。もしかして興味あるの?」
私、隠し事苦手なんだよ...。
すぐ言動とか表情に出ちゃうんだもん。
「あるわけないじゃん!」
「なんでそんなにムキになってるのよ。ほんとに好きになっちゃったとか...?」
ニヤニヤしてる楓。
「んなわけ!あんな性格悪いやつ好きになるなんてありえない!」
「性格悪い...?永野ってみんなから優しくて紳士でなイケメンなんて最高だって言われてるのに」
「は!?春稀が優しくて紳士!?絶対ありえない。あいつは二重人格ドS野郎だよ」
「あれぇ?なんで凛、永野のこと呼び捨てなのぉ?それに永野がそんな性格なんて親しくないとわからないよねぇ?」
しまった!
言っちゃったじゃん。
楓にも春稀にも怒られちゃう...。
もう楓なんて語尾が伸びてる時点で怒ってるよ...。
「あいつが私のこと脅してくるから仕方なく毎日お弁当作ってあげて、呼び出されたら行ってるだけだもん...」
「凛、最近いなかったの永野の所に行ってたんだ?私ちょっとあとで文句つけに行くわ」
「やめてよ!言ったことバレちゃう...」
「いいじゃない」
「だめなの!」
「はいはいわかりましたよ。でもたまには私とお弁当食べてね?」
「うん!」
話しているうちにバスは目的地に到着!
すごい自然豊かな場所だな...。
まるで深緑の国に帰ってきたみたい...。
「ここ、深緑の国みたいだと思わない?」
「俺も思った」
「自然豊かなところとかそっくりだな」
「なんだか懐かしいわね...」
3人で感慨に耽っていた。
「よし、全員集まれ!」
先生の声でハッとしてみんなのところへ向かう。
「最初は森の中の散策だ。いい場所見つけてスケッチしてこい!」
うわぁ...。
なんか超てきとーなプログラム。
まぁこっちとしてはいいけどね!
みんなも何だかシラケてる。
「ほら、早く行ってこい!」
私は真っ先に楓の手を引いて走り出す。
だってこんな場所に来れたの嬉しくてたまらないんだもん!
「ちょ、凛。早すぎ」
「早く!早く!」
男子も必死で着いてきてる。
「!?」
一足先に着いた私は森の中に入って呆然と立ち尽くした。
頬を絶え間なく濡らす涙。
「どうしたの?凛」
次に着いた楓は立ち止まった私を不思議そうに見つめたあと泣いていることに気づき驚いていた。
「凛、なんで泣いて...」
私は無言で森を指さす。
「う、嘘でしょ...」
遅れて着いた男子も私たちにつられ、森を見つめる。
「え...」
「マジかよ...」
私が指さした森はかつての深緑の国に似ていた。
いや違う、そっくりだった。
深緑色の木々がざわめき、あちこちに綺麗な花が咲き誇り、小鳥が囀る。
そして端にひっそりと佇む少し大きめの屋敷。
あの屋敷は私たちが住んでいた場所...。
そう、これは深緑の国への入口。
深緑の国ではもう少し進むと家がたくさん建つ住宅地があった。
「これは深緑の国よ!屋敷までそっくりだもん」
「でもどうして...」
「そういえばさっき先生が何かあったら森の中にある屋敷に管理人さんがいるからそこへ行けって叫んでました」
男子2人は遅れてきたから先生の言葉を聞いていたらしい。
「これは行ってみるしかない!」
私はまた走り出す。
「ちょっと凛!早いんだってば!」
後ろに楓の声を聞きながらまたダッシュ。
そしてドキドキしながら屋敷の扉を叩いた
「すみませーん!管理人さんいますかー?」
すぐに扉は開いた
「はい。光葉高校の生徒さんですか?」
「そうです!」
「とりあえず中にお入りください」
「はい!」
入ってまた驚いた。
何よこれ...。
屋敷の中までそっくりじゃない...。
「こんにちはー!凜来てるー?」
「こんちわ!」
「はぁはぁ...疲れた...」
「あ、楓たちも来て!」
やっと遅れて3人も入ってきた。
「徠花様!?龍と爽まで!」
急に慌てて楓に跪く管理人さん。
龍っていうのは中村くん。
爽っていうのが橘くん。
それが2人の元々の名前。
でもどういうこと...?
「真...顔を上げなさい」
「お前...!探したんだぞ!」
「あれから見つからなくて...」
真...?
「あー!あのなまい...!?」
あの生意気くんって言おうとして口を塞がれた。
楓がすごい勢いで睨みつけてくる。
あ、そっかバレちゃいけないんだった。
でもあの生意気くんがこんな風になってたなんて...。
雰囲気変わってたから気づかなかった。
この子私が助けてあげたのにお礼も言わず、急に襲いかかって来たりしたのよね。
いつからか仲良くなって私の護衛にまでなってくれた子。
なんで気づかなかったんだろう。
「どうかしました?そういえばあなたは人間...ですよね」
「な、なんでもないわ。私は“見える人間”よ。事情は把握してるから大丈夫よ」
「じゃあ遠慮なく話させてもらいます」
「それで真...なぜこんなところで深緑の国を再現しているの?」
やっぱり護衛たちにとって“徠花”は怖いらしい。
今ビクッてしたもん。
「どうしてもあの方が作った深緑の国が忘れられなくて...あの方は俺が何度反抗してもいつも俺の面倒見てくれて、それなのに俺は最後まで守り抜くことが出来なかった...ずっと悔しくて悔しくてたまらなかったんです。いつかもしまたあの方に会えるのだとしたらこの場所を見て欲しい...」
真の言葉に涙が止まらない。
今すぐにでも言いたかった。
「私は見てるよ。ありがとう」
って。
でも必死に泣き声を殺す。
全員が下を向いて俯く中、楓が泣いている私に気づいた。
「来て」
私に後ろを向かせ、小さな声で私の耳にそう囁いた。
「ちょっと私たちお手洗いに行ってくるわね」
「あ、はい。場所は...わかりますよね。昔と変わってはいません」
「わかってるわ」
楓が私を連れて行ったのはトイレではなく、昔の私の部屋。
「思う存分泣けばいいわ」
こんなに泣いたのは初めてなんじゃないかっていうほど思いっきり声を上げて泣いた。
「私、そろそろ怪しまれないように先に戻ってるから落ち着いたら裏口から外に出て」
「う...うん」
さすがに私のものが残ってるわけじゃないけどやっぱりそこは私の部屋。
大切な大切な時間を過ごしたあの場所。
そこで私は涙が枯れるまで泣いていた。
春稀side
「俺、トイレ行ってくる」
「おう」
こいつは俺の幼なじみ。
だから俺の事情も理解してくれている。
こいつといる時は笑顔でいなくてもいいから楽だ。
俺は近くにあった屋敷のトイレへと向かった。
玄関には何人かの生徒とここの森の管理人がいて話し込んでいた。
「トイレ借ります」
「あ、どうぞ」
あいつら魔法族だな。
俺は“見える人間”だからわかる。
魔法族だけの班か。
もう1人いなかったからわからないが。
「ねぇ」
話しかけてきたのはさっき話してた中にいた女子。
めんどくせえやつが来たか。
俺はとびっきりの笑顔を浮かべる。
「どうしたの?」
「気持ち悪い。そんな笑顔求めてないから普通に答えて」
こいつ...わかってるのか。
「なに?」
だから俺も素に戻る。
「いつもはそんな感じなのね」
「いいだろお前が気にすることじゃない」
「まぁいいわ。あのさ、なんでそんなに凛に執着するわけ?」
「凛が言ったのか?」
「隠してるときはすぐ表情とかでわかるわ。付き合いは幼稚園からだもの。質問に答えて」
「さぁなんでだろうな」
「なら凛に近づかないでくれる?」
「なぜだ?凛に執着してるのはお前もじゃないのか?」
つい声を荒らげてしまった。
「私はあの子に恩があるから、守りたいだけよ...あの子に傷ついて欲しくないの」
「俺はあいつを傷つける気なんてない」
「ならあの子を脅して言う事聞かせるとかやめてくれない?お願いだから近づかないで」
そいつはそれだけ言うと背中を向けて行ってしまった。
「待て!俺は...俺は好きなんだ!どうしようもなく...。これ以上どうすればいいのかわからないんだ」
俺はそのとき恥を捨て、言いきった。
そうでもしないとそいつは本気で俺を凛から遠ざけそうだったから。
驚いた顔をしてこっちを振り返ったそいつは直後優しい笑みを浮かべた。
「いいわ。今の言葉信じてあげる。でもあの子を落とすのは苦労するわよ?」
「そんなことわかっている」
「頼んだわよ」
そいつは俺の肩にポンっと手を置き、去っていった。
やっちまった感じがするけど後悔はしてない。
これであいつを落とすのは親友公認だ。
よし、やってやる。
俺は決意を新たにした。
凛side
「月華様」
ひとしきり泣き、外に出た私を待っていたのは徠花と龍と爽。
みんないつも隠している魔力を出し、昔と同じ姿になっていた。
「どうしたの!?」
「こんな森にいるんだからちょっと昔みたいにしてみようと思って」
「ここなら誰にも見られないしな」
「じゃあ私も!」
カラコンを外し、結んでいた髪を解き、体から魔力を放出する。
もう人間だから昔と同じ顔とか姿には戻れないから少し違うけどね。
私の姿を見た3人は揃って泣き出してしまった。
今日みんな泣きすぎなのよ。
私も含めて...。
っていうか
「なんで泣いてるのよ!?」
「だって月華様がいるんだもん...」
「ずっと一緒にいたでしょ」
「だって...」
「月華様...俺はあなたに救っていただいた。なのに俺は恩返しもせず、自分だけ逃げて...すみませんでした」
「俺も...俺が生きていられたのはあなたのおかげだったのに。最後まであなたに頼って結局死なせてしまった...悔やんでも悔やみきれません」
「私は...あなたに恩を仇で返す様なことしてしまって...。私はあなたを守らなければいけなかったのに。いつもいつも守ってもらってばかりで!本当に申し訳ございませんでした」
3人とも堪えていた気持ちが溢れ出したみたいだった。
「私は...あのとき死んだこと後悔はしてないの。あれでみんなが助かることができたのなら本望だわ。それにあれは私のせいで起きたことよ。私が平和ボケしすぎていたのね。それに魔法もまだまだ磨けばよかったのよ。私が消えてからは辛い思いさせちゃったわよね...。特に徠花は本当に強引なやり方で突き放すようなことした。でもこうしてまた会えたこと私はすごく嬉しかったわ。今は人間としてこのあの時とはまた違った平和な生活楽しむのも悪くないじゃない?」
「そうですよね...前を向かないと」
「でも私はあいつを必ず殺すわ」
3人はハッとして私を見つめる
「なら俺たちはそれを援護するまでです」
「たとえまたあのときのように魔族が攻めてきても大丈夫なようにがんばります」
「ありがとう...ほらほら、元に戻って!スケッチしに行くよ!」
なんだか恥ずかしくなった私はそう言って走り出した。
そんな私を見てクスッと笑って人間の姿に戻った3人が追いかけてくる。
あいつを殺すっていう決意は揺るがないけど、今はこの幸せな時間を楽しみたいのよ。
走りながら、赤い目をカラコンで隠し、真っ直ぐな黒髪を後ろで結ぶ。
これが城崎凛だから。
この平和な時間が終わるまでは月華じゃなくて城崎凛でいさせて。
その日のプログラムが全て終わり、やっと夜になった。
「わぁー!すごい素敵な部屋!」
「ほんとね。宿泊研修の部屋とは思えない」
「凛ちゃん、徠花様、早く!」
部屋は四人部屋。
あとのふたりも前世が魔女の彩香ちゃんと咲希ちゃん。
あの頃はまだ魔法も使えない小さい子たちだったのに...。
町に行くと、駆け寄ってきてくれていろんな話をしてくれる可愛い子たちだった。
今でも話すことが好きなところとか全然変わってないんだけどね。
「徠花様!今日の森、すごく深緑の国に似てませんでした?」
「似てたわね。似てたって言うよりそっくり」
「懐かしかったです」
「まだ幼かったのに覚えてるの?」
「そりゃ覚えてますよ。平和で素敵な自然に囲まれてて、みんな優しくて...あそこに連れてきていつもお忙しいのに私たちの面倒まで見てくれた月華様には本当に感謝しています...」
「月華様は本当に愛されているわね...」
本日何度目かもわからない涙が溢れそうになった私を察した楓がわざとらしく話題を変える。
「あ、そういえば今日の夜ご飯、美味しかったわよね」
わざとらしすぎ...!
2人ともきょとんとしてるし。
「あ、美味しかったですね」
何このよくわからない空気...。
辛いんだけど!
ってことで私は
「トイレ行ってくる!」
逃げたなって目で睨まれました...。
そして戻ってくると話題は恋バナになっていた!
これは楓の好きな人聞けるかも...!
「徠花様の好きな人気になります!」
「教えないわよ」
「えぇ...!」
「教えて教えて!」
私も乱入。
「いやよ。絶対に教えない」
ん...?
あれれ?
「楓、顔赤いよ?」
「え!?」
珍しい!
写真撮りたいくらい!
「楓が照れてるぅ!これはレアだわ!」
「徠花様、可愛い!」
「それでそれで!その人のどこが好きになったのー?」
「えーっと...いつもは冷たくて人に嫌われるようなことばっかりしてるのに本当は誰よりも周りのことよく見てて...でもその人は1人の女の子しか目に入ってないから...」
「それで誰なんですか!?」
食いついていく2人。
でも私はもうわかった。
「うん、誰なのかとなんの事言ってるのかはわかった。けど目に入ってないって言ったってあれは恋愛的な意味じゃないでしょ」
「なんでわかったの...?あの人はあの方のためならなんでもするって...そう言って動いていたのに...恋愛的な意味じゃなかったらなんなのよ...」
「あの子は優しいから...あれはきっと忠誠を誓った相手だからよ。恩返しのようなもの」
「でも...」
「でもじゃない!早くあの子を探せばいいじゃん。まだ見つけてないんでしょ?」
「見つからないんだもん...」
「一緒に探してあげるから」
「うん...」
「え?え?どういうこと?凛ちゃん、徠花様の好きな人は誰なの?」
「私...わかったかもしれない。全部。ねぇ凛ちゃんなんで黙ってたの?」
「咲希ちゃん...栞奈は昔から鋭すぎるのよ」
昔みたいにぎゅーって抱きついてきた栞奈。
「え?どういうこと?」
「そして沙奈は昔から鈍すぎ。ほんとに姉妹なの?」
「え?なんで私の名前を...?」
「さぁ?なんでだろうね?自分で考えて彩香ちゃん」
クスッと私は笑って、ベッドに潜り込む。
「ねぇ、酷いよ!」
彩香ちゃんが布団を捲ってくる。
「あ、それで2人の好きな人は誰なの?」
だから私は話題を強制的に終わらせ、次の話題へ。
「え!?そりゃあこの学校の女子ならみんなあの人って言うんじゃないかな...」
「永野春稀でしょ?」
「そうです!春稀様です!」
「はぁー?」
意味わかんないんだけど。
みんな頭おかしいんじゃないの?
トントン
そんなとき急にドアがノックされた。
「はーい」
楓がドアを開けに行く。
「城崎さん、先生が呼んでるのに来ないから呼びに来いって言われたんだけど」
「きゃっ」
女子2人悲鳴をあげて隠れる。
だってそこに居たのは...
永野春稀ご本人様。
絶対嘘だ。
先生になんて呼び出されてないもん。
そういえば私携帯確認してなかった...。
これはちょっと覚悟しないといけないかも。
「凛、行ってきなさい」
春稀のこと敵対視してたはずなのに楓はなぜか春稀と目配せをし、私を送り出す。
え?何があったの!?
「はぁーい...」
仕方なく春稀のところへ。
春稀に連れてこられたのは外のベンチ。
「お前、携帯見てなかっただろ?俺が何回呼び出したと思ってんだ」
「だって...」
「だってじゃないだろ?ごめんなさいだろ?」
「ごめんなさーい」
城崎凛、脱走します!
「だから言ってんじゃん。そんな速度で俺から逃げられるわけないだろ?」
城崎凛、捕まりました。
「お仕置するよ?」
「え?」
近づいてくる春稀の綺麗な顔。
え、待って。
これって...。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
顔を離してニヤッとする春稀。
「あーあ、したかったのに」
「私のファーストキス奪わないでよ!」
「へぇー!まだキスしたことないんだ?余計奪いたくなってきたんだけど」
出たドS...!
「だめだってば!」
「今日1日俺以外の男子と過ごしてさ、俺の相手してくれないとか許さないんだけど」
え!?
急に嫉妬とか可愛いんですけど。
「っていうか私は春稀の彼女でもないのになんでそんなこと言うのよ!」
「じゃあ彼女にしていい?」
「はぁ?」
なんか胸がドキドキしてる。
私は別にあいつのこと好きなわけじゃないのに。
好きなわけじゃない?
でも嫌いでもないかも。
じゃあ好きなのかな?
あー!もうわかんないから逃げる!
「待て!明日はちゃんと来るんだぞ?」
「わかってる!」
胸のドキドキが収まらない。
これって何...?
「おかえりー!」
「春稀様と歩いたの!?」
「うん歩いたよ」
「なんの話ししたの?」
「無言」
「でも春稀様と歩くとか羨ましすぎるんだけど!」
むしろ代わって欲しいんだけど...。
ほんとに代わって欲しいの...?
え?
ちょっと今日私おかしい。
よくわからないからもう寝ます!
「私もう寝る!おやすみ!」
「え?はや!」
「疲れたの!」
「凛ちゃんおやすみ〜」
「おやすみ〜」
今日は色んなことがありすぎて疲れたのも事実。
全部忘れて早く寝よう!
「凛!起きて!今何時だと思ってるの?」
「ふぁ〜!」
「徠花...あとちょっと...」
「何寝ぼけてるのよ!」
「ん〜?」
徠花がボヤけて見える。
「今日の仕事なんだっけ〜」
「は?」
なんか徠花の怒りのオーラを感じるからそろそろ起きよっと。
「今日は翅呼ばなかったのね...」
「ねぇちょっといい加減にして。凛、あなたは凜よ!ここは人間界」
ハッとして見ると目の前にいるのは徠花じゃなくて楓。
「楓に起こされるのが懐かしすぎて昔に戻ってたわ」
「確かに久しぶりね。じゃなくて時間!もうすぐ朝ごはんの時間なのに全然起きないんだもの」
「え!?」
「早く準備して!」
楓がほとんどやってくれる。
ほんとにいい従者を持ったよ私。
慌ただしい朝が過ぎ、今日は外のテニスコートでテニスをするらしい。
ほとんどやったことないんだけど...。
私は楓とのダブルス。
楓となら大丈夫かも。
そう思ってやってみたら意外と楽しくて夢中になってやってしまった。
だから隣のコートから軌道を外れて飛んでくる強烈な球に気づかなかったんだ
パコーン
「いったぁ」
隣のコートからの球は私の額に直撃。
痛すぎて意識が朦朧としていた。
「大丈夫!?」
「凛!」
「誰か先生呼んで!」
「いいよ、俺が運ぶ」
「え!?」
誰かに抱きかかえられたあと安心感で意識を失った。
「ん...」
目を覚ますと救護室のような部屋だった。
「気がついたか?」
「え?」
「お前テニスボールが当たって気失ってたんだぞ」
「あ...」
そうだった。
そのあと誰かに抱きかかえられて...。
「もしかしてここに運んでくれたの...?」
「...まぁな」
下を向いて照れくさそうにしている春稀。
いつも性悪な春稀がまさか運んでくれるなんて思ってもみなかった。
抱きかかえられたときの安心感、春稀だったんだな...。
今更なんだか私も恥ずかしくなる。
「その...ありがとう」
今の私の顔は真っ赤だと思う。
「!?」
驚いたような顔になる春稀。
「なぁ、そんな顔すんな。襲うぞ」
「え?春稀って動物だったの!?」
「は?」
「襲うって...」
「はぁ...ほんとに先は長いな...」
「え?」
「なんでもない。ほらもう少し休んでろ」
「う、うん」
私の頭にポンっと置かれた大きな暖かい手に胸がドキドキする。
まただ...。
私...もしかしてこいつに恋してるのかな?
性格悪くて俺様でドSで強引で自分勝手なこいつに。
そうか、これが好きってことなんだ。
自分でそう思って納得した。
私...とんでもない人を好きになっちゃったのね。
2日目のプログラムも終わり、そろそろ学校に帰る。
この深緑の国とそっくりな森ともお別れ。
「楽しかったね!凛!」
「うん...」
「どうしたの?元気なくない?」
「私...恋しちゃったかもしれない...」
「永野春稀に?」
「どうして...」
「見てればわかるわ」
「こんな無謀な恋叶うわけないのに」
「なんで?」
「敵が多すぎるもん」
「凛は永野と関わる機会多いでしょ?他の子達よりよっぽど有利よ?それにあいつは凛にだけ素を見せてるんだから」
「そうだといいな...」
「きっとそうよ。私は応援してるわ」
「ありがと楓。朔夜との恋応援してるわよ」
最後にコソッと耳に囁く。
急速に顔が赤くなっていく楓。
「ほんっと照れてるの可愛すぎだってば」
「うるさいわね!」
こんな感じであっという間に終わった宿泊研修。
本当に色んなことがあったな...。