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第2話

「お母さんっ!お父さんっ!」



「つ...き...」



私のそばで血を流しながら倒れている両親。



幼い私はなにをすることも出来ず、ただただ泣きながら去っていく“魔族”の者の背中を睨みつけていた。






ここは“魔界”。



それは“魔法族”と“魔族”が共存する世界。





そして私の名前は“月希(つき)”。



魔女と魔法つかいから成り立つ魔法族の娘。




魔界に生きる魔法族と魔族はとても仲が悪かった。




遥か昔まだ両者が仲良かった頃、魔法族の者が魔族を裏切り、争いに発展。




その名残はずっと続いており、顔を合わせれば殺し合い、罪のないたくさんの者が死んだ。




しかし魔法族、魔族それぞれの結束が固かったわけでもなく、ただ敵を倒すというだけで同じ種族に対して味方意識などなかった。




そんな乱れた世の中で私は両親を失った。




いきなり現れた魔族によって斬られる両親を目の前で見た光景は幼かったとはいえ忘れられるはずがない。




それから私は魔族に復讐することを固く決意した。




ただ魔女といっても子供のうちは魔力はあるものの魔法を使えるわけではない。




人によって違うが、いつかの誕生日に魔女や魔法つかいは魔法と杖を授かる。




そこから訓練を重ね、コントロール出来るようになる。




基本的にはだいたい8歳から10歳くらいまでには魔法を授かる者が多い。




だからまだ幼い私に魔法が使えるはずがなかった。




ただただ魔族から逃げながら一人魔界を彷徨い歩く日々...。



そんななかついにやってきた私の8歳の誕生日。




「やっとこの日が来た...!」




期待で気持ちが高揚していた。




でも...



その日、何かが起こることは無かった。





そしてその次の年もそのまた次の年も私は魔法を授からなかった。




「私は一生魔法を使えないのかな...」




何度もそう思った。



そして...




魔界を彷徨い歩いて10年以上が経った、15歳の誕生日の朝。




私は真っ黒いストレートの髪と赤色の目、そして手には魔法の杖という姿で目が覚めた。




そう、ついに魔法を授かった。




実は私には莫大な魔力が秘められていた。




その覚醒した魔力は容姿までもを変えた。




その魔力を注ぎ込まれる魔法はどんな魔女や魔法つかいにも劣らないほどの実力だった。




自分が魔法を授かった時期が遅かった理由は魔力が高いためだと知り、本当に嬉しかった。




元々復讐のために使おうと思っていた魔法。




私は魔界を彷徨う中でたくさん見てきた私のような家や家族を奪われ、身寄りのない人たちを救うことにこの莫大な魔法を使おうという考えに至った。




誰かに襲われる恐怖もない平和な世界作りを。



それから私は強力なバリアを張った空間を作り出し、そこに行くあてのない人たちを呼び込んだ。





家族を亡くし、まだ魔法の使えない子供たち。



もう戦うこともできない高齢者。



家を失った家族。



戦いにより怪我を負った人。




そんな人たちが周りを見渡すだけでたくさんいる。




私はその人たちを平和な空間へと誘いこんだ。





その噂を聞き、魔族への恐怖心を日々募らせている人たちは私の元にやってくるようになった。



やがてほとんどの魔法族がそこで暮らすようになる。




そして私は皆から“月華様”と呼ばれ、魔法族の女王となった。




自然に囲まれ、緑に溢れたその平和な空間は“深緑の国”として栄えた。




魔法族の集会であるサバトには全ての魔法族が集まり、だんだんとお互いに味方意識が生まれた。




誰もが自分を救ってくれた女王に忠誠を誓い、この国を何があっても守るという熱意に燃えていた。



私はこの国の人たちの思いを受け止め、この王国を従者たちと共に必死に守り続けた。




たまに攻められることがあっても硬い結束で結ばれていた私たちに勝る者はおらず、平穏な日々が過ぎていく。




「月華様っ!大変ですっ!」




私の部屋に入ってきたのは従者の“徠花”。




1人で家族を守りながら、10人もの魔族を相手して重傷を負っていた徠花。




そんな徠花を救い、従者にした。




今もこうして私への伝達をしに来てくれている。




でもいつもクールな徠花が慌てているのは少し珍しい。




「魔族がこちらのように1つの世界に集まり、結束を固めたという連絡が入りました。もし争いになるようなことがあれば、人数の差は歴然...!」




「大丈夫よ徠花。向こうも平和な世界作りをしているだけかもしれない。それに私たちは無敵。誰にも負けない。念の為、バリアを張る人数を増やしておいて」




「御意」




不安そうな顔をしていたものの私の言葉を信じてくれた様子。




ついに向こうもか...。




魔族をまとめるものは魔王と呼ばれる。




種族が多く自由奔放な魔族をまとめた魔王はきっと相当な実力者。




なるべく争いにはしたくない。




このままふたつの世界として均衡が保たれれば何が起きることも無いはず...。



翌日私はサバトを開き、争いに備えて魔法の強化をするよう伝えた。




その後国を回ると、魔法の練習をする者が増えていた。




必死に練習している姿を見ることが出来るのは本当に嬉しい。




とはいえ誰もが練習漬けというわけでもなく、ただ平穏に楽しく過ごしている人たちもいる。




その人たちは私に寄ってきて話しかけてくれたり、笑顔であいさつしてくれたりする。




そういう色んな光景を見るのが好きで私は毎日国を回っていた。




そのときに異常や不便なところがないか探したりもしている。




それなのに私は起きていた異常に気づけなかった。




この国を守ると誓ったはずなのに。




だから...



あの平穏な日々は崩れ去った。





あれは全て私のせい。




そう、その日もいつもと変わらない平穏な日のはずだったわ。



「月華様!起きてください。今何時だと思ってるんですか?」




「らいか...ぅーん、あとちょっと...」




(つばさ)




「ん」




ギュッ




急に誰かに抱きつかれた。




「月華様?起きて?」




バサッ




「やっと起きた」




「翅、ほんとにそれやめなさい」




「やだ!」



「だめ」




「月華様が起きないのが悪いんだもん」




「むぅ...」




「翅、もう離れなさい。月華様もいい加減早く起きてください」




「「はぁーい...」」




ガラッ




「月華様。今日は外に行くんですよね?こんなに遅く起きて...まさかお忘れになったとか言わせませんよ」




入ってきたのは従者の3人目、朔夜(さくや)




「わ、わすれてないわ」




「うわ、絶対忘れてたわね」




「忘れてないわよ!なによその目は」




「...ほら行くわよ!早く月華様も準備してください」




「おい、お前ら2人ともいく気なのか?」




「え?」




「徠花か翅どちらかにしとけよ。俺もここに留まる」




「どうして...!もし月華様に何かあったらどうするのよ」




「月華様は自分の身くらい守れるだろ」




一見冷たく聞こえるが、朔夜が国のことを考えてくれているのは伝わる。




「そうね。どちらかに着いてきてもらうわ。なんなら私は一人でもいいし」




「ちょ、ちょっと待ってください!朔夜、それは酷いよ」




「お前らは危機感がなさすぎるんだよ。今は何が起きてもおかしくない状況だ。こんななかで実力者が国に居ないなんてなったら魔族にねらわれるかもしれない」




「...」




「よし!徠花は私についてきなさい。翅はしっかり国を守るのよ」




「...わかりました」




「行くわよ徠花」




「はい」




「朔夜、後は頼んだ」




「御意」




外に出てきた理由はまだ深緑の国に来ていない魔法族たちが無事かを確認しに来ているから。




ごく少人数だが、様々な理由でまだこちらで暮らしている人もいる。




「女王陛下、今日も来て下さりありがとうございます」



「礼には及ばないわ。それより今は魔族もひとつにまとまり、これから全面戦争になるような可能性だってなくはない。ここから離れられないのはわかっているけれど、私はここの人まで守ることができないかもしれない。だからしっかり危険に備えておくように全員に伝えておいて」




「わかりました」




「げっかしゃまだぁ!」




「わぁぁぁ!」




「らいかしゃまっ!」




いつも寄ってきてくれる子供たちと遊んだり、いろんな人と世間話をしたりした。




こちらの人が魔法族から孤立しないよう、こうして会いに来たりサバトに呼んだりしている。




「それでね!あのね!」




「うんうん」




!?



子供たちとしゃべっていたら突如胸がドクンとなり、違和感を感じた。




胸騒ぎがする。




「あ、ちょっと待って、ごめんなさいね」




「わかった!」




「映鏡。我が国の姿を」




鏡に写し出したそこには迫り来るたくさんの魔族を相手に必死に戦うみんなの姿が。




すぐさま立ち上がり、声を張り上げる。




「聞け!今魔族と魔法族は全面的に戦争を始めた。ただちに自分たちの身を守りなさい。ここにバリアは張って行くが、私は国に戻る。全員バリアを守ることに徹して」




どよめきが起き、私に詰め寄る。




「どういうことですか!?」




「向こうのあの子たちは...無事なんですよね!?」




「なぜ争いにっ!?」




「静かにしろっ!!女王陛下は向こうの国を守らなければいけないんだ。全員バリアの強化とここの透明化をしろ」




「ありがとう。安心して。必ず魔法族は私が守ります。徠花、行くぞ」




「はい」




映っていた深緑の国のバリアは見事に破壊されていた。




とても強力なバリア。




それは私が張ったバリアを魔法が特に優れた者が1週間交代で守っていた。




今日は今回の担当の最後の日だった。




その担当の者たちが裏切り、1週間かけて少しづつ破壊を進めていたのだろう。




魔族側にあの者たちは映っていたから。




毎日国を回っていたはずなのに異常に気づけなかった。




悔やんでも悔やみきれないが、今は何とかするしかない。



「転移」




激しい争いの真っ最中の深緑の国へ瞬間移動した。




戦いの最前線では翅と朔夜が戦っている。




魔族はいろんな種族がいて様々な攻撃に対応するのが難しいのとなんと言っても数がとにかく多い。




「月華様...!徠花...!」




翅が私たちに気づき、こちらをチラッと見る。




「集中しろ!翅!」




無言で頷く翅。




朔夜も気づいているはず。




よし!私も参加するとしますか...。




「炎焔」



「迅雷」



「疾風」



連続技をかましていく。




少しは私たちが来てからこちらが優勢になった気がする。




でも負傷者も増えてきた。




早くこの戦いを終わらせなければ。




そう思い、ペースを上げた。




......あと少し!




魔族の数に終わりが見えてきた




これでやっと終わる...!




!?




そう思っていたのに急にまた数が倍以上に増えた。




隠していたのね...。




これだけの数だともうみんなの体力も限界が近づいているはずだし、勝ち目は無いかもしれない。



それにもう怪我人や死者を増やしたくない。




だから私は...決めたの。




「告伝」




これは全員の頭の中に直接語りかける方法。




「(深緑の国女王月華より告げる。皆本当によくがんばった。私たちの絆の深さを感じたわ。でも敵は今までの倍以上いる。まだ隠されている者もいるかもしれない。私はもうこれ以上負傷者を増やしたくないと思っている。だから全員私が今から作るワープホールで異世界に行きなさい。魔法族側の後方に作るから今受け持っている敵を跳ね飛ばして、そこまで移動して。怪我人も連れて行ってね。徠花、翅、朔夜。私がワープホールを作っている間、援護しろ。その後は防御魔法で全員を守りながら、3人も異世界に行って。みんな本当に今までありがとう。以上これは命令だ。異議は許さない)」




誰もが息を呑む音が聞こえた。




告伝を使うことが出来る魔力を持っているのは私と従者たちくらいしか居ないから他の人は私の言葉に返すことが出来ない。




「(月華様は...?一緒に行くのですよね...?)」




「(私はここを魔族たちと共に破壊するわ)」




あえて行かないとは言わなかった。




行くことは出来ないけれど。




「(そんなのって...なら僕も残ります)」




「(私も)」




「(俺も)」




「(だめよ。異世界であなたたちが魔法族を守るのよ。またきっといつか会えるわ。3人には本当に感謝している。ありがとう)」



「(月華様...)」




「(ほら、とにかくまずは国民を行かせるわ。援護して)」




「「「(御意)」」」




3人の力で私の周りに敵が入って来られなくなった。




大きな魔法は長い詠唱を唱えなければならない。




「時空を司る神よ。魔界を創りし創造主よ。我が魔法にて深緑の国の民を異世界へと転送する。ここに扉を開け。」




「転送」




私の前に出現したワープホールを後方に転送する。




「(ワープホールは作り終わった。全員私のカウントダウンで目の前の者を跳ね飛ばして後方に移動しなさい)」





「(月華様も行きましょう。ここは破壊しなくてもいいでしょう?)」





「(いいえ。私が行ったら異世界への道を閉ざす者はいなくなってしまうわ。それにここは私が作りだした空間。主が消えた空間は何が起きてもおかしくないのよ?魔界にある空間とはそういうもの。だからこそ私が自分の手で破壊しなければ。私は道を閉ざし、ここを破壊し魔族と共に滅びる)」





「(そんな...お願いです。私も一緒にここに居させてください)」





「(僕も!滅びるのは月華様と一緒です!)」





「(俺も月華様がいない世界なんてありえません)」





「(いいかげんにしなさい。魔法族をまとめられるのはあなたたちだけよ。これは命令だ。異論は許さないと言ったはず)」





3人が声を押し殺して泣きそうになっているのが聞こえる。





これ以上意見を変える気はない。




「(それではカウントダウンを始める。本当に今までありがとう。5、4、3、2、1)」




途端に周りが騒がしくなる。




私は魔法族を追おうとする魔族たちを必死に攻撃する。




「(早く、お前たちも出なさい。これ以上持ちこたえられる気がしないの)」





「(...)」





3人とも下を向き、なかなか行こうとしない。




だから




「疾風」




風で3人をワープホールに押し込んだ。





あの驚いた顔。





きっと恨まれるだろうな...。



「封鎖」




すぐにワープホールを閉じ、敵に向き直る。




やっと姿を現した魔王。




「まさか逃がすとはな」




「...許さない。私たちはただ平和を望んでいただけなのに」




「俺たちは憎い魔法族を消し、本当の意味での平和を求めただけ。平和を望んでいるのはこっちもだ」




「憎いって...傷つけあっていたのはお互いさまでしょう!?私の両親だってお前らに...!」





「お前の両親などどうでもいい。この世界から魔法族がいなくなったのならもう俺は用も無いしな。あとはお前を消すだけ」



「私はお前らに消される気は無い」




「この状況でか?お前一人に俺ら全員倒せるわけないだろ」




嘲笑うように私を見る魔王を憎しみの籠った目で睨みつける。




「えぇ、そんなことわかっているわ。私が言っているのは“お前に消される”気は無いということ。もう準備は出来ている。意味わかるわよね?」




「まさか...」




「そのまさかよ。私は初めからこの空間ごと破壊するつもりだったわ」




「全員こいつを殺せ!まだ詠唱を唱える時間がある!」




「残念でした。もう準備は出来ていると言ったはずよ。あと詠唱は一言」



「くっそ!」




そう言って急に何かの器具を取り出し、空中に手で何かを書き始めた魔王。




そしていきなり空中に現れた真っ黒な空間に次々に魔族たちが吸い込まれていく。




なるほど...。




魔法が使えない魔族は魔具を持っている。




それを使って魔王も私と同じように強制的に民を逃がすことを考えたらしい。




「絶対にお前を許さない。いつか必ず魔法族を滅ぼし、お前をこの手で殺してみせる」





「望むところだわ。私も仲間を傷つけたお前たちを許すつもりはない」




「次の戦いは来世だ」




「えぇ。そのときは私がお前を殺す」




憎しみの炎を燃え上がらせながらお互いに睨み合う。




「「いつかまたどこかで」」




私たちの声が何故か重なったあと私は大好きなこの場所を破壊する。





「空間破壊」




激しい衝撃音が聞こえた直後、意識が遠のく。







あぁ、どうか



来世でみんなとまた会えますように...。



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