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因縁との決着

 一斉にマシンガンの弾が放たれた。


 後方には合衆国大統領がいる。“避ける”選択肢は無い。つーか、避ける必要が無い!


「ウホッ!!」


 前方にウェーブ(波動)のバリアを張る。バリアに触れた銃弾は勢いを失い、そのまま落ちて転がった。


「待て!撃ち方止め!様子がおかしいぞ!?」


 アルベルトの指示で全員が撃つのを止めた。



「…何をした?タク」


 俺はただ立っているだけ。でも、銃弾は俺の足元に無数に転がっている。


「言っただろ?“進化”したんだよ、俺は。ふんっ!」


「うがっ!?」


 傭兵の一人にウェーブを飛ばすと、身体をくの字にさせて吹っ飛んでいった。



「なっ!?何をした!?」


「何をした?何をした?って、お前はそれしか言えないのか?…ふんっ!」


 もう一発。また一人吹っ飛んだ。


「言っただろ?全範囲(オールレンジ)だって」


「ば、馬鹿な!そんな事、不可能だ!」


()()()では普通だったぜ?むしろ、火やら氷やらが飛び交っててまるでファンタジーの世界だったさ」


「異世界?何を馬鹿な。散開しながら撃て!あらゆる方向・角度から撃つんだ!」


 ふむ。まだ俺のオール・レンジ・ウェーブ・コンバットがよく分かって無い様だな。その戦い方はまだウェーブ・コンバット対策の域を越えてないじゃないか。


「大統領、アンタはテーブルの下にでも隠れてな」


「は?は、はいっ!」



 さてと、全員オールレンジの攻撃で仕留めても良いんだが、過去、アルベルトにはウェーブ・コンバットが攻略されている。


 異世界で強化された今、昔のスタイルでも俺が最強だと知らしめてやる!勿論、身体能力強化を使わずにね!



 銃弾を避けつつ、傭兵に接近し、腹にウェーブパンチを喰らわす。


「ごはぁっ!」


 血反吐を吐いて倒れる傭兵。ウェーブパンチは波動(ウェーブ)を体内に流し込んで、外部では無く内部を破壊する。彼の体内では内臓が爆発を起こしてるだろう。


 …まぁ、今の俺なら、人間相手ならウェーブ関係無く外側内側含めて一撃で破壊するパワーがあるんだけどな。



 仲間が殺られた事で、傭兵達が一旦動きを止める。かなり焦ってるな…まぁ、奴等にしてみれば化け物と戦ってる感じだろうからな。


「どうした?かかって来いよ。来ないなら…」


 “縮地”を使い、一瞬で傭兵二人の前に移動し、廻し蹴りで一気に二人の頭を刈り取った。



「ヒッ…ヒイイイイィィッ!!」


 一人残った傭兵は、恐れを為して逃げ出した…が、アルベルトに後頭部を撃ち抜かれて絶命した。


「恐れを為した傭兵等、必要ない…」


 アルベルトは歯軋りしながら俺を睨み付けた。その眼にはまだ狂気を宿している。



「決着を着けようか…アルベルト」


「今度こそ、殺してやるぞ…タク」



 アルベルトは拳銃とサバイバルナイフを一つずつ持って構える。遠近両方で戦えるスタイルだ。


 俺も、胸元から武器を取り出した。


 傭兵時代から俺が唯一愛用していた、掌サイズの変形ナイフ…“カランピットナイフ”。

 現在持ってる物は、異世界でも最高硬度を誇るブラックダイヤモンドを素材に造った特注品・カランピットナイフ・“ブレイカー”だ。



「シィッ!」


 アルベルトが発砲する…が、弾道を見極めて接近した俺は、拳銃を構えた手首をカランピットナイフで絡み取ると、次の瞬間、マーカスの喉元を斬り付ける。


 ガキン


 が、アルベルトのナイフに防せがれた。今の俺のスピードに反応するとは…流石は俺の()()だ。


「お前が首筋を狙って来るのはお見通しだ!死ねっ!」


 至近距離から俺の喉元目掛けてナイフの突きが放たれる。


 が、俺はそれを身体を捻って回避すると、アルベルトの脇腹を斬り裂き、そのままの流れでカランピットナイフを首筋にあてた。



「ぐっ…、タクぅ!」


 脇腹の裂傷は内臓にまで届いた。このままでも、もう長くは持たないだろう。


「…最期に聞かせてくれ。俺のいない五年間の間に、アンタに何があった?」


 アルベルトには殺されかけた。今回の件も含めれば二度も。そして、俺の唯一ファミリーと呼べる仲間達を裏切ったとも聞いた。

 なのにまだ、俺は心の何処かでこの男を信じたいと思ってしまったのかもしれない。



 意識が朦朧としてきたのだろう。アルベルトは苦悶の表情を浮かべながらも、口を開いた。


「五年前…お前を殺そうとしたのは…さっき言った通りだ。お前は強くなり過ぎた。なのに、お前は俺の元から離れて行った…。それが…恐ろしかった。いつか、戦場でお前と敵として合間見れる事を考えたら…いっそ殺してしまおうと思ったのさ」


「馬鹿な。俺がファミリーに牙を剥ける訳が無いだろう!」


「…お前は、人の理から外れる程の強さを身に付けていたんだ。誰だって怖いさ…」


 そんな…そんな事する訳が無い……と、言い切れたか?あの頃の俺は、例えば最強を証明する為には、アルベルトを倒さなければならないとしたら?……多分戦ってるな。



「…ぐフッ…。この五年…俺は、戦争に嫌気がさしていたのさ。世界の平和の影に、多くの血が流れてるって言うのに、そんな現実に目を背ける世界にもな」


「…俺達は傭兵だ。そんな事は覚悟の上だっただろう?」


「お前は所詮、一傭兵だ。多くの傭兵を従え、纏めてる俺の気持ちが分かるか?意味の無い戦争で、ソイツ等を死なせてしまった俺の無念が、お前に分かるか?

 お前の後で震えているその男(大統領)は、表向きは国の為に戦ってる軍人や傭兵達をリスペクトしてるなどと言ってるが、単に使い捨ての駒としか見てないんだよ。表沙汰にはなってないが、コイツが大統領になって、自分のエゴでどれだけの争いを生み、無謀な作戦でどれだけの同胞の血が流れたか…。世間はそれを一切知らなずに、のうのうと生きてるんだ!」


「…なるほど。無駄な戦争を無くしたい。だから、今回のテロを仕組んだって訳か」


「そうだ。その男は、大統領になんかなってはいけない人種なんだよ。だから!俺が、この手で殺すんだ!無駄に死んでいった同胞達の為にな!」


 …なんか、この大統領がクソだってのは理解出来たが、それでも俺はアルベルトには賛同出来ない。いや、したくない。



「アンタの言い分は分かった。でも、結局アンタも大統領と同じじゃないか?このテロで、一体何人が死んだ?お前の仲間は俺が十人以上殺したし、このホワイトハウスを守っていた軍人を、お前等は何人殺した?まぁ、俺はそんな事で責めるつもりは無い。

 今日、死んでいった奴等は皆、命を懸けて任務にあたってたハズだ。それこそが、戦う事しか知らない俺達の誇りだ。その誇りを、お前は無駄な死だと一括りにしてるんだ。俺はそれが納得出来ない」


「…フッ、お前は相変わらず戦闘馬鹿だな。お前には、俺の苦労なんざ分からんのだ」


「ああ、分からないね。どんなに自分の生き方に悩んでも、どんなにムカつく奴がいても、俺は俺がファミリーだと思った仲間達を裏切ったりしない。

 お前がファミリーを裏切った時点で、どんな崇高な事を言おうが俺の心には響かないんだよ」


「……………お前も結局、アイツ(仲間)らと同じだ。物事を自分中心でしか考えられない…馬鹿どもだ。……俺も、そんな馬鹿だったら、楽だったんだろうな…」


 アルベルトはもう、己の死を悟ってるんだろう。表情が、先程までの張り積めていたものから、少しずつ穏やかに変わっていた。


「…だろうな。馬鹿なのが一番幸せなのかもな」



「もし、間に合うのなら…アイツ等を、頼めないか?俺には…もう出来ないし、資格も無い」


「何を言ってる?今からじゃもう間に合わないんだろ?」


「…フッ、ミッション開始時刻には、まだ時間がある……からな」


「何故?お前はファミリーを裏切るつもりだったんだろう?」


「…ははっ…最期にお前と会えて…思い出しちまったのかもな。どんなに…世の中が腐ってても、ファミリーがいるって事が、俺の唯一の幸せだったって…な」


 アルベルトが静かに目を瞑った。俺はアルベルトの傷口に掌をあてる。そして、治癒スキルを使った。



 みるみる内に塞がって行く傷。そして、アルベルトが目を開けた。


「…なんだ?もう死ぬのかと思ってたのに…なんで俺は生きてるんだ?」


「テメェのケツはテメェで拭けって事だ。今回のテロで、多くの人間が死んだ。お前の罪は大きい。でも、後悔に気付いたんなら、最後に自分のファミリーぐらい救ってやりな」


「…タク、お前は……この五年間、どんな人生を歩んで来たんだ?」


「俺か?こっちの世界の戦争がお遊戯に感じられる程シビアな世界で生きて来たぜ?」


「ははっ…じゃあ、お前にとっては最高の世界だったんだな」


「…まあな」



 アルベルトは、あのまま死んでいった方が幸せだったかもしれない。今回のテロの主犯として、重い刑罰が課せられるだろうし。


 でも、ファミリーだからなぁ。助けられるなら助けたい。そう思ってしまったんだから仕方ないよな。

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