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史上最強の男、異世界より帰還する

 最強…。男に生まれたからには、誰もが一度は意識する言葉では無いだろうか?


 そんな存在に、俺はなれた。これは誇張でも自惚れでも無い。


 俺はこの地球上で最強の存在として、帰って来たのだ…。




 目の前には久方ぶりに見るビル群。


 舗装された道路を走る大量の車の騒音と多くの人で賑わう雑多な雰囲気は、正にここが五年ぶりに帰って来た日本だと感じさせてくれた。


 帰って来た…。俺は、あの文化レベルが中世ヨーロッパの剣と魔法の世界から、科学が進歩した文明社会であるこの世界に帰って来たのだ。



「…いょっしゃああああっ!!」



 街中で突然叫び出した俺を、通りを歩く人々が何事かと振り返りはするものの、足を止める者はいない。そんな無関心な所も向こうの世界とは違って懐かしい。



 それでも、思わず叫んでしまった事に若干の恥ずかしさを覚える俺、『坂本拓哉(さかもとたくや)』は、五年前、二十五歳の時に異世界へ勇者として召喚させられた。



 召喚される前、フリーランスの傭兵だった俺は中東のデンジャラスゾーンに単身で乗り込み、世界最悪と言われたテロ組織を壊滅させた。


 元々最強になる為、幼少時代から空手・キックボクシング・コマンドサンボ・柔術・合気道・八極拳と、あらゆる武術を極め、試合形式の公式戦には目もくれず、日本中の強いと噂される男達を時にはストリートファイトで時には道場破りで撃破した俺は、更なる強さを求め、全生物最強を目指すべくライオン、トラ、カバ、ワニ、クマの打倒に成功する。…ゴリラだけは親近感が湧いた為戦えなかったが、地上最強の生物を名乗っても文句を言われない男になったのだ。


 だが、俺は考えた。こんなに強くなった俺でも、銃火器を持った一般人にすら殺されてしまうのではないか?そう考えたら、居ても立っても居られなくなり、世界各国の紛争地域で幾多の戦跡を残す最強の私設傭兵部隊に入隊し、傭兵として戦争に身を投じたのだ。


 当初、頑なに銃を使わず白兵戦のみで戦う俺に、仲間達は真剣に戦い方を変えろと忠告して来たが、俺は俺のスタイルを貫き通した。


 そして辿り着いたのが、超近接戦闘術、“ウェーブ・コンバット(WAVE COMBAT)”だった。


 ウェーブ・コンバットは、日本古来の動きや武術、精神をベースにし、戦いにおける様々な状況を想定した格闘・戦闘術。空間的な距離に関わらず、自ら用いる身体操作を駆使し、“波動ウェーブ”を生み出し戦う技術だ。


 ウェーブによる攻撃は、人体の外面のみならず、内面から破壊する為、一撃一撃が必殺の威力を誇る。



 師匠に教えを請い、ウェーブ・コンバットを極め、更に幾多の戦争を経験し、武器を持った相手との戦いを完全に熟知したと確信した俺は、傭兵部隊を除隊し、単身で中東のテロ組織に挑んだ。


 敵のアジトに乗り込み、激しい戦闘の末、テロ組織のボスを制圧した俺は、天高く拳を突き上げた。


「俺が最強だ!!」…と。



 敵を全員無力化していた俺は完全に気を抜いていた。…一発の弾丸が腹を貫くまでは。



 俺を撃ったのは、傭兵団のボスだった。


 俺が潰したテロ組織には莫大な懸賞金が掛けられていた。俺は別に金なんてどうでも良かった。なのに、ボスは隊を抜けた俺が許せなかったのだろう。隊を抜け、金を独り占めしようとした俺を。


 勘違いだと弁解するのは簡単だ。だが、俺は向けられた銃口には拳でしか答えを返せない不器用な男だった。


 撃たれた傷は内臓を損傷していたが、まだ致命傷では無かった。だから俺はボスに戦いを挑んだのだ。



 ボスもまたウェーブ・コンバットを熟知していた。その弱点も。戦争で倒してきた相手にとって、初見のウェーブ・コンバットは無敵だった。武器を持たない只の人間が銃弾を掻い潜り迫ってくる驚きと、近づかれたら最後の恐怖は、戦力の低下に繋がっただろう。

 でも、ボスは違った。しっかりと間合いをとり、近付かせない距離から発砲。瞬く間に俺は追い詰められたのだ。



 結局…俺は銃火器を持った一般人は倒せても、銃火器を持った普通の傭兵は倒せても、銃火器を持った熟練の傭兵は倒せなかったのだ…。



 このまま死ぬんだろう。俺は、最強にはなれなかった…と、諦めかけていたのだが、そこでいきなり目の前が真っ白になり、気が付くと異世界へと召喚されていたのだ。




 当然、望んだ召喚では無かったが、俺を召喚した世界の人々はとても友好的で、俺を道具としてでは無く救世主として扱ってくれた。


 異世界では、物語に出てくる様な様々な魔法が存在したが、何故か俺には火や雷なんかの魔法を使うことは出来なかった。

 だが、内包する魔力の数値が桁外れだった様で、その全てを身体能力強化に特化させた結果、ウェーブ・コンバットを更に進化させたオリジナルスキルを完成させたのだ。


 その名も、“オール・レンジ・ウェーブ・コンバット(ALL RANGE WAVE COMBAT)”。


 これまでのウェーブ・コンバットは勿論大幅に強化されたが、何よりも、弱点でもあった遠距離攻撃が可能となったのだ。

 俺の手から放たれる“波動ショック・ウェーブ”は、最終的には異世界の最上級魔法以上の威力を誇り、戦う事五年、無事に魔王討伐に成功したのだ。



 帰り際、異世界の王様には、魔王を倒し英雄となった俺に充分な地位を与えるから残ってくれと言われたが、俺はその申し出を断った。だって…………


 …飯不味いんだもん!生活水準も中世レベルで不便なんだもん!ゲームもスマホも無いんだもん!娯楽が少ないんだもん!

 大体、醤油が無いなんてあり得ないし!俺、調味料の作り方なんて知らないし、肉は基本的に魔物の肉で臭くて固いし!



 そして何より……………皆、人間って云うより“類人猿“だったんだもん!!



 そりゃあ向こうの世界では絶世の美女と名高い王国の姫と、結婚して新たな王となってくれって言われたって、姫の顔がゴリラなんだもん!!綺麗なドレス着ててもテレるとウホッとかって言うんだもん!そんなん無理や!!おかげでこの歳までチェリーだよ!襲われそうになった事は多々あったけど!



 …と、いう訳で、再三の慰留を固辞し、俺はこの世界に帰って来た。


 見る物全てが懐かしい…と言うよりも一周回って新鮮だ。すれ違う女性が皆美人に見える。もう、右手が恋人なんてうんざりだ!



 さて、今の俺の格好は、一応この世界でもおかしく無いように気を使い、タンクトップとズボン、ドラゴンの革で作ったブーツと全身黒一色。五年前はまだ二十代だったが、俺もすっかり三十歳になってしまった。

 だが、元々超人のように鍛え上げていた俺の身体は異世界を経て更に鍛え上げられ、筋肉は本当に鋼の様に硬く、ある時は伸縮自在のゴムの様に柔らかくなる。機動力を損なわない為、過度の筋肉の肥大を抑えてはいるが、もう普通の人間の理からは完全に外れてしまっているな。



 腰の異次元収納ポーチには向こうの世界で手に入れた武器や装備と金銀財宝がたっぷり入ってる。向こうの世界でなら、売れば人生十回は遊んで暮らせる量のお宝だ。ただ、こっちの世界でも同じ価値が有るのかは定かでは無い。

 それに、このお宝を売るにも、こっちには無い物質の物もあるだろうし、そうなれば異世界の存在を説明しなければならないだろう。けど、そんなん信じてもらえるか分からないし、説明が面倒な上、下手すれば俺は不審者扱いされてしまうかもしれない。


 もし、俺が異世界から帰って来た事が公になったら、下手したらFBIとかCIAとかに目をつけられて人体実験のモルモットにされるかもしれない。…させないけど。


 ま、何はともあれ、元々天涯孤独の孤児だった俺は、家族とかのしがらみは殆んど無い。唯一いるとすれば傭兵時代の仲間達位だ。

 ボスには一度は殺されかけた。でも、そのおかげで俺は最強に至る事が出来たのだから、今更恨みは無い。でも、出来ればあの人には会いたくない。



 この世界に帰るにあたり、自分の能力がどうなってるかが少しだけ不安だったが、どうやら無事にそのまま引き継いでいた。


 異世界では、ただひたすらに戦った。どんな誘惑(…皆ゴリラだし)にも脇目も振らず、一分一秒でも早くこの世界に帰って来る為に。おかげで遊んでる暇も無かったし、遊んだ記憶も無い。だから、これからはのびのびと自由に生きたい!


 だが、こっちの世界は国によって法律も違うし、力が全てだった向こうの世界より自由に生きる為には遥かに複雑で困難な問題が多いだろう。それでも、俺はもう縛られるのは嫌だ。異世界で死に物狂いで手に入れたこの力を無駄にはしたくない。と云うより、思いっきり活用したい!



 そして……何物にも縛られず、我を通したいのなら、最も偉い奴を黙らせればいい。そう、あの地上最強の生物“オーガ”こと“範馬○次郎”先生の様に!


 史上最強の生物である俺を拘束できる権力は存在しない。あらゆる行為が無問責。傷害、殺人(いや、基本的にやらないけどね)、どんな重罪も、内閣総理大臣への殺害予告と官邸への強襲すら不問に処される程の力を、俺は手に入れるんだー!




 ……………拓哉が異世界から帰った日、その時間、世界各国の国家指導者達は一様に、東洋の国にとてつもない兵器が現れたということを直感で理解し、とある国に至っては核兵器の保有を決意させたとまで言われる事になるのであった…。


私、VERSUSの頃から坂口さんの大ファンなんですよ(*´-`)

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