真琴と先輩~比佐辻先輩のスタイリッシュお泊まり dead or 健康グルメ~
「もう18時じゃない。準備して寝なくちゃ」
「え?」
比佐辻先輩に勉強を見てもらうこと三時間。こんなことを言い出した。まさか18時で就寝準備をするとは思ってもいなかった。
「え、もうですか? 準備って…?」
「お風呂、夜ご飯、ストレッチ。そして就寝が基本でしょ」
先輩が呆れたように言う。
「風呂、え? うちで?」
今日は家族が居ないので僕と先輩だけだ。断じて狙っていない。
「今から帰ったら一時間ロスするじゃない」
「しかし、ちょっと…お泊りは…」
決して何も起きないが、そういうわけにもいかない。
先輩が僕の心配を察した。
「…やれやれ、何を心配しているかと思えば」
先輩がやれやれポーズをとる。
「貞操と健康なら、健康のが大事でしょう」
「普通は逆ですけど」
「とりあえず、お風呂沸かしてる間、ご飯作るね」
「え? ちょ?」
食材など準備していない。けれど、先輩は迷うことなく自前の鞄を手繰り寄せた。
しかし、出てきたのはただの粉にしか見えない。
「…先輩、それ何です?」
「粉末完全食『PP』よ」
やばいことを言いだした。
「すべての栄養素を網羅したパウダー界の王。理論上、死ぬまで生きられるわ」
「死ぬまで生きられる、って…もはや一周回って無意味ですよ」
「使い方は簡単、粉、牛乳をぐるぐるポン。十分待ったら出来上がり」
言いながら、冷蔵庫にある牛乳を勝手に使いだした。
「勘ですけど、それ二人分作ってますよね?」
「良い粉は食べてみないと判らない」
「語感がやべえ」
そうこうしている間に、出来上がった。仕方なく食べるが薄い塩味しか感じない。
「どう?」
「…正直に言って、美味しくないんですけど」
迷ったが、素直に答えた。
「良かった、真琴の味覚が正常で」
「なんてもん食わせてんすか」
「でも、健康のために多少の犠牲は必要よ」
「何と戦ってんすか」
このタイミングでお風呂が沸いたらしい。
「あ、あたしお風呂は二時間入らないといけない性質だから」
「配分おかしくない?」
「就寝前のストレッチも一時間はしないと」
「だから配分おかしくない?」
その時。「あ!」と先輩が何かに気が付いたらしい。
「…どうしました?」
「あたし、寝る時は全裸なんだけど…」
「え?」
真琴の頬に汗が伝わる。
そのまま先輩は瞑目して、一分後に答えを出した。
「…でもまあ、寝る時は目を瞑ってるし…問題は無いか」
「いや、あるでしょ」
「健康とは犠牲を厭わないことよ」
「目を覚ませ、服を着ろ、そして羞恥を纏いなさい」